Wizard―Daily Fairy Tale (幻狼ファンタジアノベルス)

【Wizard Daily Fairy Tale】 小竹清彦/緋原コウ 幻狼ファンタジアノベルス

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【アップルジャック】の第二巻で登場した電脳の魔術師【ウィザード】こと桜と、その相棒で飄々とした掴みどころのない青年神無木が主人公のスピンオフ作品。
てっきりアップルジャックの続編が出るのかと思ってたら、まさかの桜たちが主人公のお話とは。元々この二人についてはそれほど背景や過去などの情報はあまり出ていなかったので、二人の普段の活動から馴れ初めに到るまでみっちりと描いている本作は美味しいといえば美味しい話だったのだけれど、シトロンたちは登場しないのがちと残念。
本巻の桜は十一歳ということで、確か【アップルジャック】のときはもう少し年齢上になってたと思うので、時系列的には前になるのかな。どこか無国籍な雰囲気だった【アップルジャック】と比べて、本作は程良く日本という国を意識できる舞台環境になっていて、意外なほど前作とは空気感が異なっている。ド派手な銃撃戦や殺人技が飛び交うアクション過多の【アップルジャック】と違って、わりとこっちはその辺抑制されてますしね。
が、あの洒脱で軽妙な独特のノリはまったくの不変。ユーモアたっぷりで情熱的な物語は相も変わらず読んでいて痛快の一言。しかし、それ以上にこれは厚い友情の物語であるのです。
幼い頃から浮世離れした聡明さで、同世代の子供とは相入れず孤独な世界に閉じこもっていた桜。そんな彼女を広大なネットの世界に導いたのが、彼女の両親の友人であった神無木だった。桜はネットを通じて、人と繋がることのかけがえの無さを知り、やがてそれは親族や身内の温かい愛情を踏まえてリアルへも広がっていき、人の温もりを知った彼女は、縁あって出会う人々と友情を深めていく。
ネットというツールは、まだ十一歳という子供に過ぎない彼女に、狭いコミュニティーに囚われない、世代や業種、国籍をも超えた友人たちとの出会いを導いてくれるのだ。それは、若いゲームデザイナーのカップルだったり、ネットの黎明期から名をはせる電脳の魔術師であったり、あるいは異国の地で身を寄せ合って生きてきた様々な国籍の子どもたちであったり。そして桜はその優しさと義侠心を胸に、縁あって知り合うことになった人たちの危急に全力で手を差し伸べていくのである。痛みを知り、喪失を得て、排他を体験し、孤独に打ちのめされたその先で、少女は一人の青年が差し伸べてくてた手を取ることで、生きることがとても楽しいことなのだと、素敵で素晴らしい事なのだという事実を知ったのでした。だからこそ、同じように彼女は手を差しのべるのです。世界はこんなにも楽しいものなんだと、知ってもらうために、共有するために。
ただ、一緒に笑って楽しく過ごすために。

ここで描かれている世界は楽園なんかではありません。理不尽がまかり通り、非道が横行し、悪意が蔓延る当たり前の現実世界。登場人物の多くが、痛々しいほどの傷跡を内に秘めています。でも、そんなものに屈せずに、手を取り合うことで助けあうことで当たり前に笑って生を謳歌出来る優しい世界が此処には描かれているのです。
クライマックスで、桜がピンチに陥ったとき、かつて彼女に助けられ、彼女と友達になった多くの人達が彼女を助けるために今度は逆に手を差し伸べてくれました。情けは人の為ならず。いや、そんな言葉で括らなくても、ただ友達のために、それだけで充分なのかもしれません。生命の賛歌を謳うには。

どこかおとぎ話にも似た、素敵で洒脱なおはなしでした。
実はこのシリーズ、いきなり二冊同時刊行してるんですよね。まだもう一冊は読んでいないので、なるべく早く読みたいのう。あと、出来ればシトロンも登場する話を読みたいのでした。

小竹清彦作品感想