GOSICKVII‐ゴシック・薔薇色の人生‐ (角川文庫)

【GOSICK -ゴシック- 7.薔薇色の人生】 桜庭一樹 角川文庫

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王妃ココ=ローズを殺したのは、誰!?
……禁忌の謎にヴィクトリカが挑む!!


クリスマス直前の気分に華やぐ聖マルグリット学園。だが、外の世界では「2度目の嵐」が迫りつつあった。父ブロワ侯爵によって首都ソヴレムに召喚されたヴィクトリカ、心配で後を追う一弥。ソヴュール王国最大のスキャンダルにして謎、王妃ココ=ローズの首なし死体事件に挑むふたりの侯爵に謀略が……。豪華劇場に過去と現在が交錯し、大いなる罪が暴かれたとき、世界はその様相を変える。ヴィクトリカと一弥の運命は!?
四年ぶりの最新作。短篇集ではない本編ともなると、6巻の仮面舞踏会の夜が出版されたのがまだ富士見ミステリー文庫健在の2006年の12月だから、ほぼ四年半ぶりの最新作となる。正直、作者が一般へと進出して大成功を収めてからこっち、もうこのシリーズの新作は出ないのだろうと諦めていたから、新作が出ると聞いた時には嬉しかったなあ。本当なら武田日向さんの挿絵付きビーンズ文庫版が出るまで待っていればよかったのだろうけど、こればっかりは我慢できなかったのだ。
という訳で、直木賞作家となった桜庭一樹の送り出す、新しい【GOSICK】。果たして以前と変わらないのか、それとも大きく様相を異にしているのか、ストーリーそのものとはまた別の大きな興味と関心を携えながらページを開いたのであるが……これはこれは。
うん、これは面白い。実に興味深い。筆致は確かに最近の作者のそれとは違う、あの【GOSICK】らしいそれで安心したのだけれど、でも間違いなく以前までの【GOSICK】とは何かが決定的に違っている。
すごいな、四年という年月とその間に彼の人が書いてきた一般レーベルにおける作品での経験は、同じシリーズでもこれほど明確に空気の深度を変えてしまうのか。
何というかね、登場人物の醸しだす情感の色が違うんだわ。驚くほど濃厚で、奥行きが深くなっている。特にそれが顕著なのがヴィクトリカと久城の関係で、明らかに以前まで感じられた子どもっぽさを残していた関係性が、別のものへと変わってしまっているんですよね。お互いに向ける視線の色や感情の艶が変わっている。同じ関係を描くのにも、磨き方が変わればこれほど変わるのかというくらいに。
飯事遊じゃない、恋愛という浮つきすらも通り過ぎた、静かなほどの愛情が二人の間にはしっかりと結ばれている。
愛、愛、愛。それを、桜庭さんはこの数年、随分と色々な形で突き詰め、ひっくり返し、覗き込んで掘り下げて奥の奥までまさぐって来ている。愛という主題に、脇目もふらぬほどの夢中さで挑み続けてきなさったわけだ。
そんなこの人が、今更薄っぺらな愛情をひけらかすことなど意識してすら不可能だろう。それを手がけるということは必然的に濃密なまでの「愛」という現象への偏倚が現れる事になる。その結果、ただならぬまでの気配が、ヴィクトリカと久城の間に生まれたのだ。
あるいは、最初からこの二人の関係はこのように在らんとして描かれていたのかもしれない。この形こそが、ヴィクトリカという久城の完成形に近いものなのかもしれない。あの、灰色狼の村でなされた予言。共には死ねず、しかし心は離れないという、二人の別離と絆を約した予言。あの予言を読んだ時の衝撃は、未だこの【ゴシック】というシリーズそのもののイメージを決定させた心象として残り続けている。あれを書いたときには、もう今の愛によって繋がる二人の形が、理想として見えていたのかもしれない。そして新作で、それは確かに伸ばした手に掛かったのだ。

一人ぐらい、いてもいいじゃないか。君の人生に。君のすべてに巻き込まれていく、おせっかいな友達が。それでも君を守ろうとする、平凡な男が。ただ一人

あのどこか頼りなかった少年は、しばらく見ないうちに幼さを残しながらも、一人の一人前の男になっていたようだ。
守るべきものを見つけ、守りぬく決意と覚悟を手に入れた者を、もう何も知らない子供と見ることは出来ない。二人を引き裂く激動の時代が迫り来る中、死がふたりを分かつまで決して離れぬ心の繋がりを、この新たにはじまったシリーズの中で垣間見ることが出来たことは、大きな感動であり感慨であった。
シリーズ、再開してくれて本当に良かったと、心から思えた次第。

しかし、今回はストーリー、もしくはココ・ローズ王妃殺人事件の真相も非常に読み応えのある内容で、よかったなあ。今回、えらくヴィクトリカが慎重というか焦ることになるんだが、あの真相なら宜なる哉。
さらにあっけに取られたのが、ヴィクトリカの母であるコルデリアに纏わる一連の話。これが本当だとすると、ヴィクトリカの境遇や兄である警部の態度もなるほど納得が行く。ブロワ公爵とコルデリアの関係ってもっと穏当なものなのかと思ってた。というか、想像していた設定ですら実のところ眉を顰める酷いものだったんだが、実際はもっと酷かったという、なにそれこわい。
それって、どう考えても犯罪じゃね? 事実が公表されたら、ブロワ公爵もれなく権威失墜、どころじゃなくホントに逮捕されかねないと思うんだが。そりゃあ、コルデリア恨み憎み呪って化けて出るわ。死んでないけど。

桜庭一樹作品感想