火の国、風の国物語12 傑士相求 (富士見ファンタジア文庫)

【火の国、風の国物語 12.傑士相求】 師走トオル/光崎瑠衣 富士見ファンタジア文庫

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王都でクラウディアと再会したアレスだが、未だ自らの歩むべき道を定められずにいた。おまえが成すべきと思ったことを成せ。王女の言葉を胸に、アレスはすべての答えを出すため、ジェレイドと三度の邂逅を果たす!
ジェレイドさん、あーたキャラ変わってないかい?(笑
もうね、ほんの少し前までちょっと啄いたら死にそうなくらい息も絶え絶えになってた人が、こうも変わるかというくらい血色も良くなってイキイキとしてまた楽しそうにしちゃってまあ。立場が変わるとそこまで変わるかと、呆れるやら苦笑するやら。でも、考えたらジェレイドってどう考えたって指導者というタイプじゃなかったんですよね。頭が良くて性格の悪い善人が、他人に責任を負って皆を導くような立場に立たされると、頭がいい分、難しく考えすぎるようになってしまうという事なのでしょうな。この手の人物は悪巧みを真面目にやっちゃダメなんですよね。むしろ面白おかしくやってしまわないと。
詰まる所、この人は誰かの下について好き勝手やる方が性にあっていたのでしょう。自ら決断を下すのではなく、決断を下すための材料を揃えて掘り出し編み出す方が似合っていたわけだ。つまり、彼は主の望みを叶える魔法使いであり、軍師であり、宰相であるべき人間だったのだ。だからこそ、あんなにキャラ変わったのかと思ってしまうほど溌剌としていらっしゃったわけだ。在るべき場所に収まった、とも言うのかもしれない。
正直、アレスの潔癖性からしてジェレイドとはどうやっても相容れないと思ってたんですけどね。ただ、アレスが清濁併呑できるだけの度量と見識を手に入れ、ジェレイドも彼一人で反乱軍を支えることに限界が来ていた事と、指導者としてのジェレイドでは無理でも、軍師としてのジェレイドはアレスの甘さを許容した上でそれを活かせるだけの余裕と柔軟性を持ち得ていた事から、双方歩み寄ることができたんですなあ。
その結果、あれほど見事なコンビネーション、あるいは打てば響くような相性の良さを発揮できたというのは面白いところ。
しかし、結局アレスは血統における正統性を掲げる事は選ばなかったんだな。カルレーン宰相が生きてアレスの傍らに居たのなら、その言の重みを以てアレスの家が王家の血を引いている事を高らかに主張できたのだろうけど、勝手に自称しても信ぴょう性は薄いものなあ。そう考えると、アレスが実際の血筋の確かさではなく、誰もが知っているベールセール王家がファノヴァール伯爵家に対して代々言い残しているあの言葉を旗印にしたことは、意表を突かれたけれど思わず膝をたたきましたよ。あの言葉はそれこそ当初からファノヴァール伯爵家の在り方を知らしめるために何度も繰り返し描かれてきましたけど、まさか実際にその言葉に則る展開があるとは想像しなかったなあ。

しかしこれ、小説としてのご都合主義とはまた全く別の話なんですが、今となってみるとこれまで起こった様々な事件や出来事が、回りまわって全部アレスの都合の良いようにピースが収まっていっているように見えるんですよね。あるいは、後世から歴史としてこの時代を見てみると、アレスの為に暗躍している黒幕がいるのではないか、という学説でもまことしやかに語られそうなほどに。時に、歴史は必然として一人の人物を舞台の頂点に押し上げて時代そのものを担わせることがあるけれども、はたしてアレスはそんな運命に傅かれていたのか。それとも、もっと具体的に、本当に黒幕というべき人物がいたのか。
たとえば、パンドラ、という少女のような。
振り返ってみると、彼女の行動それすべて、それこそフィリップに乗り換えてからも含めて、何もかもがアレスの都合の良いように結果が踊っているんですよね。パンドラは、自分の上に戦乱を求める神のような存在が居る事を明言しているけれど……本当なのか? とね、ふと疑念を持っちゃうんですよね。本当に、そんな存在がいるのか? もしかして全部パンドラの狂言で、全部アレスのための工作なんじゃないのかと。
そこまで穿ってみるのもどうかと思うけれど、もしそれが事実ならフィリップはいい道化だよなあ。

師走トオル作品感想