Wizard―Passion Fruit (幻狼ファンタジアノベルス)

【Wizard Passion Fruit】 小竹清彦/緋原コウ 幻狼ファンタジアノベルス

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電脳の魔術師【ウィザード】こと桜と、その相棒で飄々とした掴みどころのない青年神無木が主人公の【Wizard Daily Fairy Tale】の続編。というか同時刊行なんですよね。内容的にも殆ど事実上の前後編と思っていただいて間違いないかと。前作で桜がワイズマンと親しくなり、彼女が誘拐される原因となった「パッションフルーツ」に纏わる解決編。あるいは彼女の人間観を決定させるきっかけになった事件と言えるのかもしれない。
物語の趣旨は明快にして単純だ。

友達に、悲しい涙は流させねえ。

これに尽きる。
先の巻で親しくなったゲームデザイナーのカップル、良人とジュンに降りかかった災厄。無実の罪で拘束された良人を救うため、ジュンの涙を止めるため、桜と神無木の二人はかつて世界最高のハッカー、ワイズマンと競いあうためハックを仕掛け、結果として逃げ戻る羽目になったモアの領域へと再び挑むことになる。
さらに、良人と同じ境遇で逮捕されている友人を救うために事件の真相を追い、アメリカから日本へと訪れていたウェイクと合流。実家の桐嶋組の力も借りて、リアルとネットの両面からタブーとされる深淵へと立ち向かう桜と神無木だったのだが……。
ホントに、話の根底は実にシンプルなんですよね。桜も神無木も、アメリカから来たウェイクも、桜たちをサポートしてくれる金次たち桐嶋組の面々も、泣いている友達を笑顔に戻すため、ただそれだけの為に全身全霊をかけて、自分のできる全力を尽くそうとするわけです。
その過程で、桜は友達の涙を止める事の意義と同時に、友達によって流させられる嬉し涙の味を刻まれるのです。自分が、とても多くの友情によって支えられているという実感。独りじゃないという感動。年齢から遥かに逸脱した際立った能力と才能をもつが故に、子供で居られなくなり、社会から孤立してしまった桜が、今回の一件を通じて友達を助けられる力を持った事に感謝し、そんなとてつもない力を持った自分が所詮はちっぽけな一個人であることを実感し、その上で自分を支え、助け、守って、一緒に笑い喜び、幸福を共感してくれる友人たちが今や自分にはとても沢山いるという事実を目の当たりにして、ただでさえ俠気溢れた生き様に一方的に与えるだけではなく、助け助けられ、与え与えられという循環が生じるわけです。それは価値観の変動であり、それに伴いわずかにこびりついていた自分をこんなふうに生んだ母親に対する不信が払拭され、感謝が生まれ、失踪した母を探すというモチベーションや理由にも変化が生じていく。
成長、とはまた少し違うのかな。人間的な躍進を遂げた桜のさらなる活躍は、このまま【アップルジャック】シリーズへと繋がっていくのでしょうか。何れにしても、あの桜たちが絶体絶命に陥ったシーンは思わずこっちも貰い泣きしてしまいそうなほど感動してしまった。あざとい、あざといし見え見えの展開なんだが、やっぱりああいうの弱いよ、うん。

龍造爺さんは活躍の場を取られて不満たらたらでしたが、あんな雑魚どうでもいいじゃないですか。あーた、のちのち【アップルジャック2】でとてつもない超人相手に、凄まじい活躍を見せるんですからw

さて、次の巻はこんどこそ【アップルジャック】の新作か、あるいはこの【Wizard】の続きか。それとも全く新たな作品か。どれでも、心清々しく気持ちが温かくなれるので、首を長くして待ちたいところ。

小竹清彦作品