魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (MF文庫J)

【魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 】 川口士/よし☆ヲ MF文庫J

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竜より与えられし武具を振るい、戦場を駆ける美しき少女たち――“戦姫”。王の下、7人の戦姫は7つの領地を治め、“ジスタートの七戦姫”として隣国に恐れられていた。ブリューヌ王国の小貴族の少年ティグルは、ある時かりだされた戦で、一人の戦姫と出会う。白銀の髪に紅の瞳、幻想的な美しさと他を圧する威容をあわせもつ少女、“銀閃の風姫”エレン。敵の総大将であるエレンを討ちとろうとするティグルだったが、彼女の人間離れした剣技の前に失敗してしまう。しかし、弓の腕に一目惚れしたというエレンに、「きみは、わたしの捕虜(もの)だ」と宣言されてしまい……!? 痛快無比なる最強美少女ファンタジー、ここに開幕!
弓強ぇ!! いやそれよりも、弓という武器にこれほど見栄えがあるとは。アウトレンジから一方的に必中の矢で敵兵を片っ端から射抜いていく戦闘シーンの無双がまた栄えるんですわ。どうしても主人公の武器は剣など近接武器の類という固定観念があり、弓の使い手は神がかった腕前を持っていても大体は仲間の一人というサブキャラというポディションのケースが多いわけで、活躍の目立ち方はある程度抑えたものになりがちなんですよね。
主役が弓を持ったら、こうなるのかー!
いや、単に主役だからという訳じゃなく、見せ方の描写が上手くないとこうも「無双」って雰囲気は出ないですよね。単に弓の腕前が神懸っているだけでなく、戦闘シーンにおけるその腕前の使い方がまた絶妙なんですよ。特に瞠目させられたのが、ティグルとエレンの邂逅シーン。両者の唯一の対決でもあるのですが、残り僅か数本しか矢が残っていない中で、ティグルはその必中の腕前に胡座をかいて直接エレンを狙い撃つのではなく、冷静に狡猾に手持ちの弾数、相手との距離、敵将とその供回りの位置関係などを図った上で、詰将棋のようにエレンの打つ手を無くしていくのです。技量ですでに必中の弓が、さらに相手に抵抗も回避も逃走も許さない状況に追い込んでの戦術的必中に機していく、ここの戦闘シーンは短いながらも見ごたえありました。
1000を超える軍勢同士の合戦描写もエレンとティグルの無双に頼り切らず、ダイナミックな戦場シーンが演出されていて、戦記モノとしても読み応えがあるものじゃないかと。うん、そうなんですよね、これって戦記物なんですよね。現状では隣国の小貴族の少年が、ジスタートの戦姫の一人に囚われることで縁が結ばれただけなのですが、ブリューヌ王国内での内乱、形の上ではエレンの軍がブリューヌ王国の領土に侵攻したこと、そしてそもそものジスタートの国の在り方とその現状を鑑みると、ブリューヌとジスタート両国が根底からひっくり返る大再編を伴った戦乱の発端とも言うべき出来事が、この巻の話だったと見ることも出来るわけで、これ結構な大長編になるポテンシャルを持ってるんじゃないでしょうか。
肝が据わっているというか、敵陣に囚われながらわりと鷹揚に構えている主人公の性格も面白いものでしたし。誠実さと、まあ何とかなるさ、という楽天的というか細かい事は気にしないところがミックスされた性格は、妙に大人物っぽいんですよね。それでいて、故国では侮蔑と嘲弄の対象だった自分の弓の腕前を褒められ敬意を寄せられることに純粋に喜びを感じる可愛らしいところもある。同じく心身のバランスが安定していて、少女らしさと領主であり軍司令官であり姫である部分が無理なく同居している、いわゆる大人なキャラクターなエレンとのコンビは見ていて安心できるものだった。大人同士であるが故に、逆に素直に愛嬌や隙を見せ合える関係、というのか。冗談を交えた掛け合いにも余裕があるんですよね。お互いに余裕があるからこそ、稀に相手の反応や言動に面食らって余裕を無くしてしまうシーンが栄えるわけで、こういう川口さんのラブコメ、やっぱり好きだなあ。
何気に、性懲りも無くハーレム街道へと突入している気配があるし。この人、作風が地味だ地味だと言われる割に、ハーレム思考は筋金入りなんですよね。しかも、浮ついたハーレムじゃなくて地に足の着いたハレムなのがなお素晴らしい(笑

とにかく、近年の作者のシリーズでも特に面白い出だしで、期待のシリーズとなりそうです。