竜王女は天に舞う5 (MF文庫J)

【竜王女は天に舞う 5.Toy Box 〜latter part〜】 北元あきの/近衛乙嗣 MF文庫J

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ヒューゴとエリーゼを相手に公共安全委員会庁舎で一戦交えたあと、ルノアとリラは気を失ったシグを連れて地下水路に逃げ込んだ。意識を取り戻したシグの提案により、公安委員と対立する組織である、〈竜の箱庭〉の大図書館に逃げ込むことにした三人。だが、シグが追っ手に捕らえられてしまい……。竜王女たちそれぞれの想いはどこに届くのか? そして、リンドブルムの叡智をめぐる戦い・ヴァルハラ舞踏会の結末は!? 交錯する魔術と陰謀と恋心は、加速する運命に導かれ、やがて収束の時を迎える――。どこまでも続く蒼色の空に描かれる蒼天世界ファンタジー、クライマックスの第5弾!
ジャンプの一部完的な完結編、と作者が自分で銘打っているように、これは打ち切り食らったのかなあ。勿体無い勿体無い。
MF文庫どころか、ライトノベル界隈でも珍しいくらいハードな諜報戦、ポリティカルスリラーかロマン・ノワールかといった風情の舞台環境が見所であり、魅力でもあった作品なんですが、それが逆にネックになってしまったのかなあ。いやしかし、それでも五巻まで続いたということはそれなりに自分みたいなファンは付いていたと思うんだが。

と、無念の愚痴はさておいて、最終巻である。暗躍するザウエルの掌で躍らされるように、竜の箱庭に集った残る竜王女たち。総じてぶつかり合うのは、思想でも信念でも正義でも欲望でもなく、男達の情念であり女たちの愛なのでした。愛を見失ってしまったクロイツェル。愛されず良いように利用されることを受け入れ女でありながら狗になったレニ。二人の女の末路はただただ哀れだ。何よりも大切な者を見つけながら、それを認められず自ら愛する者の手を離してしまったクロイツェル。彼女にはもう後悔しかなく、孤独でしか無く、死に場所を間違えた彼女はどれほど強者だったとしても、ただの迷った亡霊に過ぎなかった。レニはもっと酷い。彼女の生き様は、正体が知れれば目を覆わんばかりの無残で惨めで虚しいシロモノだった。でも、そんな愛し方でしか、彼女はもう人間で居られなかったのだろうな。矛盾しているが、彼女は狗で在ることでしか女で居られなかったのだ。狗ですらなくなってしまえば、彼女には本当に何も残らなかったのだろう。それほど、17歳の少女だった彼女を襲った諜報の闇は酷かったのだ。
そんな彼女にとって、ルノアやリラは。いや、女としてまっすぐに男を愛し、男からも愛される女たちは憎悪の対象だったのかもしれない。だからこそ、誰よりも愛することに真剣で、愛する人と生きて死ぬことに貪欲で、怯まず逃げずにまっすぐ進むリラに対して、彼女は犬ではなく女になってしまったのかもしれないなあ。哀れな話だ。
そう考えると、リラの強みってのは竜王女としての魔弾の能力云々じゃなくて、まず何よりその喧しいくらい直向きで賢明な恋心そのものだったんだろう。いつだって、リラはその強い想いが困難や絶体絶命の危機を打ち払ってきたのだから。さらに言えば、ルノアとシグの関係だってリラに煽られ後押しされたきらいがある。リラが居なければ、もしかしたらルノアとシグの関係はクロイツェルとグスタフのどうしようもなくすれ違ってしまったそれと似た道を辿っていたのかもしれない。
かと言って、お互い気持ちが通じ合い、求め合い、大切に思いあい、唯一絶対の関係になれたとしても、それがそのままハッピーエンドとはいかないのは、ヒューゴーとエリーゼの顛末がまた示している。現実は、敗者に対して常に残酷だ。二人の結末は、それぞれ本望というにはあまりにも過酷で、残酷で、突き放されたものだった。このへんの容赦の無さは、痺れますわ
とまあ、相当にシビアでダークでスリラー極まる展開が繰り広げられる最終巻ですけれど、そんな中でシグとルノアとリラのデレっぷりときたら、この三人もう末期だろう、おい。〈竜の箱庭〉に追われていつ離れ離れになってもおかしくない、殺されてもおかしくないというもうこの瞬間が最後かもしれない、という極限状態が続いたというのも作用したのか、ルノアとリラはもうホントにデレっぱなし。君ら、殺し合いの真っ最中に参ってんじゃないですよ。もう、ふたりとも可愛すぎるッ!!
さらに、シグの方も同じく極限状態でリミッター外れたのか、二人に煽られテンションあがってたのか、こっちも照れも何も吹き飛んで、自分の気持を繕わなくなってたもんなあ。
でもまあ、こんな終わり方もありですよ。よかったですよ。少なくとも、ルノアとリラが殺し合うハメにはならなかったわけですしね。二人がお互いのことを、好きだから殺したくない、と言ってくれたのは嬉しかったですし。何だかんだと良いトリオになってましたからね。
ってか、表紙が色々な意味で凶悪すぎるんですが。ベッドで裸ワイシャツのルノアとリラが恥ずかしそうに待ってる、というこの構図。ええいっ、好きなだけイチャイチャするがよろしいわっ! 望めるなら、そんなイチャイチャを描いた短篇なんか読みたいなあ。

打ち切りは残念でしたけど、自分好みの良作でした。次回作にも期待しております。

シリーズ感想