この中に1人、妹がいる! (MF文庫J)

【この中に1人、妹がいる!】 田口一/CUTEG MF文庫J

Amazon

在学中に彼女をつくれ。
ただし――この中に1人、妹がいる!

将悟は父の遺言に従って政財界のお嬢様たちが多く通うこの学園に編入した。「在学中に伴侶となる女性を見つけること」つまり彼女を作ることが遺言だったのだ。ところが将悟には顔も知らない生き別れの妹がいることが判明する。そして将悟の誕生日、差出人不明のケーキが届き、携帯の着信音が鳴る。「お誕生日おめでとうございます、お兄さま。お慕いしております」――どうやら妹もこの学園にいて、将悟に正体を明かさずに近づこうとしてる!?将悟は妹と“正しく” 再会して彼女を作れるのか!? 魅惑の変則ラブコメ始まる!
これ、ノリの軽いドタバタラブコメになってるけれど、内実は相当のスリラーだぞ。
学園生活の中で好意を寄せて近づいてくる女性の中に、実の妹がいるかもしれない。ここで主人公が危惧しているのは、実妹とは恋愛ではなく親愛を以て接したいという健全な思考に基づいて自分が近親相姦を犯してしまうのではないか、という点であって、実妹の人間性や危険性、恐ろしさには考えが及んでいないようなのだ。私が恐怖を覚えたのは血がつながった妹云々ではなく、好意をひけらかして擦り寄って来る女性の中に、正体や本当の意図、本性や本心を隠したまま結婚まで漕ぎ着けようとしている女が、確実にこの中に存在するという事実そのものだ。
めちゃくちゃ怖くないか? 純真に恋に打ち込み、一途に思いの丈をぶつけてくる可愛らしい女性の顔の裏側に、実の兄に歪んだ愛情を抱き兄を弄んで自分のものにしてしまおうと画策している危ない女が潜んでいるのだ。誰かは間違いなく嘘をついている。きれいな笑顔の裏で、誠実そうな姿勢の裏で、何気なく屈託ない気安い態度の裏で、ひっそりとほくそ笑んでいる奴が居るのだ。
とてもじゃないけど、近づいてくる女性に対して平静に接するなんて出来るもんじゃない。年頃の女性としては過剰なスキンシップも陥穽なんじゃないか、コチラを心配する態度も謀ったものじゃないのか。密かに明かしてくれた秘密の立場も、実はコチラを油断させる罠なんじゃないのか。誰もが疑わしい、誰も信じられない、これは女性不信、人間不信に陥ること必定な状況である。
そう考えると、主人公は呑気なものだ。本人は必死で大変なつもりなのかもしれないが、状況のスリラーさ加減を思えばおおらかなものである。大人物と言ってもいいかもしれないし、財閥グループを統率するには人間に対して鈍すぎるとも言える。まあ彼がどちらなのかは、今後の展開を見ていればわかるのだろう。
それにしても、ヒロインみんな都合よいくらい好感度があがりやすい、というか最初から高いものだから余計に怪しさぷんぷんだよ。冷静になってシニカルな見方をしてしまうと、妹云々を抜きにしてもこの子ら主人公が将来大企業グループのトップに立つのが決まっている人間だから媚び売ってるんじゃないか、と疑ってしまいたくなるような腰の軽さだもんなあ。いや、そんな軽薄な女に見えるような子たちじゃないんですけどね、普通に可愛いし。ただ、妹の件によって相当疑心暗鬼にさせられる話ですし、果たしてどこまで本心で本性かわかったものではない、と自然と構えさせられた以上、ね? もし実際にそうだったらある意味神がかった作品になるかもしれないぞ(笑