こうして彼は屋上を燃やすことにした (ガガガ文庫)

【こうして彼は屋上を燃やすことにした】 カミツキレイニー/文倉十 ガガガ文庫

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彼氏にフラれた私・三浦加奈は、死のうと決意して屋上へ向かう。けれどそこで「カカシ」と名乗る不思議な少女、毒舌の「ブリキ」、ニコニコ顔の「ライオン」と出会う。ライオンは言う。「どうせ死ぬなら、復讐してからにしませんか?」そうして私は「ドロシー」になった。西の悪い魔女を殺すことと引き替えに、願いを叶える『オズの魔法使い』のキャラクターに。広い空の下、屋上にしか居場所のない私たちは、自分に欠けているものを手に入れる。「鳥肌モノ」と麻枝准が賞賛した、心に残る青春ジュブナイル。

わはーーー。これはやられた。好みにどストライク。Marvelous!!
真っ向勝負の青春ド直球なお話なのだが、勢い任せのど真ん中じゃあないんですよね。言うなれば外角低めのストライクゾーンぎりぎりに唸りを上げて放りこまれたストレート。タマの切れ味と制球力が合わさった見事な一球というべきか。
青春モノらしく、此処に出てくる若者たちは皆、心に傷を負っている。自分を粉々にして死んでしまいたいと思い詰めるくらいの痛みに打ち震えている。彼らの心は繊細で、ガラスのように脆い。支えを無くし、立ち上がることすらもう出来ず、だから彼らは復讐で痛みを紛らわし、呪いを拠り所にして自らの弱さを耐えしのび、「その日」が来るのを指折り、屋上という思い出になってしまった場所で待ち続けていた。
心のないブリキ。知恵のないカカシ、勇気のないライオン。
自らの欠損をオズの魔法使いになぞらえた三人は、ドロシーのいないブリキとカカシとライオンのはずだった。彼らのドロシーはもういなくなってしまっていて、彼らは永遠に欠けたものを埋められない三人だったはずなのだ。
そんな終わりを待つばかりだった三人の前に現れた「三浦加奈」を、なぜ彼らはドロシーと呼んだのだろう。
予感があったのだろうか。それとも、心の何処かで期待をいだいていたのだろうか。ただ、道連れが欲しかったのだろうか。彼らがいだいていた死への渇望は、決して若者特有の流行病のような空気にあてられたものではなく、自身の愚かさと無力さに端を発した悲劇に基づく絶望であり、自分自身への憎しみだ。はたして、彼らがフラフラと現れた見知らぬ自殺志願者に、何かを期待したとも思えない。死を望む理由に上下の格を付帯するような子らでもないし、実際カカシはドロシーの悲嘆に親身になって共感してくれる。それでも、彼らがドロシーに何か特別なものを感じたとは思えない。
だが、三浦加奈は、しかし正しく「ドロシー」だった。

私がこのお話を特に好みに思えたのは、ドロシーを初めとしたこの子たちの感情が、演出過剰とは程遠い凄く率直で謙虚なものだったからなんですよね。この手の青春モノって、どこか作者自身が酔っ払って登場人物の内面にどっぷり溺れてしまっているパターンが結構合って、そういうのはどうもうんざりしてしまうのですが、これはその辺微妙に抑制がきいてる感じなんですよね。冷静とまでは行かないまでも、ちゃんとラインは保っている、ような。
彼らは一生懸命で必死なんだけど、その必死さがとても素朴で分かりやすい。ブリキたちの痛みもよくわかるし、そんな彼らの痛みを目の当たりにして泣きそうになりながら、それでも走りまわるのをやめられないドロシーの矢も盾もたまらないといった気持ちも凄く率直に伝わってくる。えらく上から大上段に切って捨てることもなく、ドロシーからライオンたちに投げかけられる視線も、ライオンたちから帰って来る目線も、何より読んでいるこちらとの目線も決して上下に差が出ることなく目が合うのです。情緒に訴える話でありながら、根本的なところでロジカルであり、ライオン、カカシ、ブリキの関係性とかかえる痛みが一気に連鎖し一綴になっていく、実は整いまくった構成力もまた、感性だけに任せた暴走気味のものとは程遠い作品で、理性と感情のバランスがもう絶妙なんだわ。胸にダイレクトに突き刺さってくると同時に、所々で「これは巧い!」と唸らされるのだからたまらない。特にラストのドロップキックのシーンなんか、状況自体は感情に任せまくったハチャメチャなシーンなのだけれど、物語全体で見るならば、回り回って皆の後押しを受けてドロシーが最後に綺麗に片をつける、気持ち的にも物語の構成的にも、スカっと清々しいこれ以上ない見事な締めだったんですよね。
一人ひとりでは耐えられない痛みでも、誰かと分かち合うことが出来れば、きっと乗り越えられる。痛みを抱えているもの同士だからこそ、分かり合える。きっと居場所は見つけられる。
死にたくなるほど、自分を殺したくなるほど生きることに一生懸命な人たちの姿は、何故か無性に愛しい。そんな彼らが、心から笑い合える日が来たことが、この上なく嬉しい。
文倉さんのイラスト。最後の挿絵は、もう最高でした。
新人作品ということで、まだ乱暴極まりない部分も結構あるんだけれど、それを補って余りあるほど美味しい作品でした。御馳走様。次の絶品も期待しております。