涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版(64ページオールカラー特製小冊子付き) (角川スニーカー文庫)

【涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版】 谷川流/いとうのいぢ 角川スニーカー文庫

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長門が寝込んでいるだと? 原因は宇宙人別バージョンの女らしいが、どうやらSOS団もどきのあの連中は俺に敵認定されたいらしい。やれやれ、勘違いされているようだが、俺もいい加減頭に来ているんだぜ?
ハルヒによるSOS団入団試験を突破する一年生がいたとは驚きだが、雑用係を押しつける相手ができたのは喜ばしいことこの上ないね。なのに、あの出会い以来、佐々木が現れないことが妙にひっかるのはなぜなんだ?
涼宮ハルヒシリーズ、四年ぶりの新刊である。一時期は本気でもう続きなど出ないものだと諦めていただけに、極初期からのファンとして嬉しい限りだ。ただ、ブランクも長かったですしね、既刊もクオリティの高低が激しいシリーズだっただけにあまり期待値はあげないようにしていたんですよ。アニメがまたやたらめったらハードルあげまくってくれましたしねえ。それに釣られて変に美化しすぎてしまうと、楽しめるものも楽しめないぞ、と戒めながらページを開いたのでありました。
案の定というか、冒頭らへんは手探りというか試行錯誤の経過が見え隠れしているようで、筆が滑らず一つ一つ手作業で積み上げているみたいな感じで、読むリズムに乗りきれなかったのですが、むしろキョンの勿体ぶった独り語りが物語に馴染むのに手助けしてくれたように、段々とスイスイと読めるようになってきて、あとはラストまで一気でした。いやあ、面白かった。なに期待値下げてくれてんだよ、と蹴飛ばされたみたいに面白かったです。とは言え、期待値アゲアゲにしてたら期待ほどではなかった、と言ってしまったかもしれないけれど。こういうのは、やっぱり受け入れ態勢はフラットでいるのが一番ですね。なかなか難しい話かもしれませんが、楽しみをむやみに損ねる勿体なさは回避できるように思います。
相変わらず、この作者は張り巡らせていた仕掛けが一気に収斂していくクライマックスの盛り上げ方、疾走感が半端ないですわ。学校シリーズと違って、このハルヒシリーズではなかなかそうした大仕掛を見せてくれなくて、四年間の空白を抜きにしてもやきもきとさせられていたものですが、消失以来の大仕掛けには十分楽しませていただきました。

しかし、久々に読むと意外に思うことも多かった。ハルヒシリーズって、というか谷川流という作家さん自体がキャラクターに対して物語を担う役者ではなく、作品を動かすための駒としての役割しか求めていない、というイメージがあったんですよね。過去の感想でも触れているのですが、キャラの魅力や萌えで勝負するのではなく、物語の構造そのもので挑んでくるタイプというか。ハルヒたちに対しても、類型を逸脱しないパターン化された造形なのだと。
それが、久々に読んでみると何やら個々のキャラクターの描き方に随分と感覚的なものが増えてる気がしたんですよね。特に顕著だったのが古泉とハルヒ。今回、えらくキョンがやる気になって燃えてましたけれど、その陰で古泉も何やららしくないくらい意気込みや熱気といったものを帯びてたんですよね。あれ、古泉ってこんなに情緒を表にはみ出させる事を許容するキャラだったっけ、と戸惑うくらいに。
それからハルヒである。消失前後からだいぶ丸くなり聞き分けのよくなってきていたハルヒだけれど、正直ここまで女性的な柔らかさを感じさせる反応を見せるキャラだっただろうか。彼女の微妙な反応や意味深な言動って、これまでもっと頭で考え明瞭な形で組み上げた理解した上で、ああこの反応はこう言うことなんだろうなー、と把握するみたいな形だったのが、この驚愕のハルヒの言動って何か感じたものを言語化する前にフッと染みこんで腑に落ちる、みたいなところが多々見受けられたんですよね。
このへんは、もしかしたらアニメの影響って大きいのかもしれない。あのアニメのお陰でハルヒたち登場人物は良きにつけ悪しきにつけ、記号的では居られなくなったもんなあ。実際、文章読んでてこれだけ明瞭アリアリと映像や音声が脳裏に浮かぶとは思わなかったですし。
そもそも、佐々木とキョンの関係の描き方からして、その過程から結末にいたるまで恐ろしく叙情的というところが目新しい。佐々木の役割ってもっとシステマティックになるとばかり思ってただけに、これだけキョンの青春を土台から揺らす相手になるのは驚きでしたよ。佐々木との再会と彼女からのアプローチは過ぎ去った時間と現在を同期させ、しかしその最後の会話における二人の共有できる時間と空間は過去だけのもので、現在においては重ならない選択が下されたという事実は、キョンに今という時間におけるモラトリアムを強烈に意識させたようですし。モラトリアムを意識する、というのは同時に未来を意識する、ということですしね。
キョンが自分とハルヒたちの未来を遊び半分の空想ではなく、いずれ必ず来る現実として意識する日が来るとはなあ。
さて、こうして再開なったハルヒシリーズですけれど、果たしてここからさらに続く事は出来るんだろうか。これで打ち止め、というのは回避して欲しいなあ。コンスタントに出せとは思わないけど。

谷川流作品感想