ログ・ホライズン1 異世界のはじまり

【ログ・ホライズン 1.異世界のはじまり】 橙乃ままれ/ハラカズヒロ エンターブレイン

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廃墟アキバから世界を変える!
老舗オンラインゲーム「エルダーテイル」の世界に
日本人ゲーマー3万人が閉じ込められた!

モンスターとの戦闘、味を失った食料、死ぬことのない境遇。
昨日までプレイしていた「剣と魔法の世界」が今日からの「現実」。
未だ、混乱続くエルダーテイルで、
<腹ぐろ眼鏡>で<引きこもり体質>の主人公・シロエが、
旧友直継、美少女暗殺者アカツキらと、世界を変える冒険を開始!
あれ? あらすじだと日本人限定みたいな言い回しになってるな。あくまで日本エリアに三万人であって、実際は世界中で取り込まれているのだが。
いやあ、こうしてイラスト付くと映えますねえ。アカツキちっちぇえー。ちみっこ可愛いっ! これで二十歳過ぎというのが味噌なのですよ。ちびっ子というのはどうしてもリアル幼女か幼女にしか見えない高校生。もしくは完全に成人したロリババア、というパターンばかりで実は二十歳前後の若い女性のちびっ子というのは完全にエアポケットなのである。子供っぽさと大人っぽさがバランスよく、或いはバランス悪く同居しているこの年頃で、同時に外見もアンバランスであるアカツキのキャラクターは実に大きな魅力を秘めている。今のところはまだ優秀なプレイヤーとマスコット的な立ち位置に終始していますけれど、将来的に世代的外見的アンバランスさを起因としたヒロインとしての大きな変動を見せ始めるので、彼女には注目なのでありますよ。
シロエも、ウェブ版で読んでいたときはもっと線の細い印象があったのだけれど、こうしてみるとクレバーさが引き立つなあ。なるほど、これは腹黒メガネというあだ名がよく似合う。主人公というよりも、むしろフィクサーだよ(笑 まあ一番ガツンと来たのは、マリ姉ですけどね。なにこのカワイイ生物。うははは、マリ姉だ、マリ姉だ。

さて、第一巻は文字通り導入編。ゲーム内に取り込まれるタイプの小説は今の流行りでもあるのですけれど、この作品の興味深いところの一つに、リアルな部分とゲームの部分のアンバランスさが挙げられる。彼らが取り込まれてしまった世界は、まさに異世界そのもの。なのだけれど、リアルというにはあまりにも大きくゲームの要素が残されている。死んでも蘇ってしまう、というあたりはその最たるもの(尤も、完全にノーリスクでないことはのちのち明らかになるのだが)。故にか、【大災厄】と名づけられたこの事件に巻き込まれたゲームユーザーたちは、ここが今まで暮らしてきた現実とは全く世界を異にした新たな現実であるという認識や覚悟が定まらず、現状をどう捉えたらいいのかわからずに混乱ばかりが広がっていくわけです。その混乱が、突然現出してしまった万を超える人間たちの社会を、無秩序な惑乱へと転がり落としていくのである。
この一巻はシロエたちが自分たちの現状を把握していくのと同時に、新たな現実となった世界が秩序ある社会を構成できずに無秩序と混沌に染まっていくさまをシロエの目と感情を通して捉え、ススキノからの救出劇を通じて現状が看過出来ない状況である事を実感させるための話となっている。これまでソロプレイを嗜んできたシロエが、世界そのものに関わる意思を芽生えさせるためのプロセスと言えよう。尤も、覚悟が定まるまでまだもう少し紆余曲折と、大きな事件が必要となるのだが。それでも、今のこの有様を許せない、という気持ちが生まれるというのは大きな事ですよ。
これって何気に凄いんですよね。現状がどれほどひどくても、ほとんどの人は自分の手が届く範囲の改善にばかり意識が行くものです。普通の人の視野や視点というのは、決して遠くまで広がらないものですから。ですが、シロエが抱いたのは社会状況そのものへの不満であり、危機感。
根本から、社会構造の仕組みをひっくり返し、新しく構築しないといけない、と考える発想は、普通の人には無いものなのです。彼のこの視点の高さは、戦闘において後方から全体をプロデュースするスタイルとも絡んでいて、なかなか興味深い。
この【ログ・ホライゾン】、先に橙乃ままれさんが書籍デビューした【まおゆう】とは全く表現方法の違う作品ではあるんですけれど、「世界を変える」という一点においては全く同じ、と言えるんですよね。
明確な敵がいるわけでもない。分かりやすいクリア目標のあるクエストでもない。そもそも、どうすれば思い描く世界へと辿りつけるかがわからない。いや、望む世界が何なのかがまず見えていない。そんな手探りで進むしかない中で、個人の力の強さ、というのは有効な武器や道具の一つではあっても、逆に言うなら武器や道具の一つにしかならないんですよね。何もかもを解決してくれる便利なアイテムとは到底成り得ない。
シロエの最大の武器とは何なのか。知恵や智謀といったものとは階梯が違うところにあるもの。体中に電気が走ったような思いを抱かせてくれた、あの【まおゆう】の「魔王」と同じものを見せてくれる事件は、次の二巻になるのか。既に手元にあるので、近いうちに読んでおきたいと思います。うん、やっぱり面白いなあ。