まもなく電車が出現します (創元推理文庫)

【まもなく電車が出現します】 似鳥鶏/toi8 創元推理文庫

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芸術棟が封鎖され、困ったクラブや同好会が新たな棲処を探し始めた。美術部の僕は美術室に移動して、無事作品に取り掛かれるかと思いきや、美術部の領地と思しき開かずの間をめぐる鉄研と映研の争いに、否応なく巻き込まれてしまう。しかし翌日、その開かずの間に突如異様な鉄道模型が出現!? 表題作を含む五編収録の、山あり谷ありで事件に満ちたコミカルな学園ミステリ短編集。
たった一人の美術部員葉山くんが主人公の学園日常ミステリー第四弾は短篇集。時系列も第一作の直後から、新学期後までと押し並べてありますなあ。
<まもなく電車が出現します>
表題作は第一作【理由あって冬に出る】の直後。あの事件の煽りを食って、梁山泊のようだった芸術棟が封鎖、部室難民が続出してその影響が美術部にまで押し寄せてきたのですが、葉山くんからすると完全にとばっちり、というかもう関係ないじゃんw 実のところ、これ葉山くんが関わる必要は美術部の権利を放棄した時点で無いような気もするのだけれど、流れだか何だかよくわからないうちに事件の渦中に取り残されてしまっているあたり、この子巻き込まれ体質だけじゃなくて、巻き込まれた場所から脱出する気合がないよなあ(笑
同じくまったく関係ないのに交渉役としてスカウトされ駆りだされてくる柳瀬先輩は何なんだろう、この人。親しい友だちからの依頼というわけでもなく、別に普段はあまり喋らない相手から頼まれる、というあたりにこの人のキャラは知れ渡ってるのが俄に伝わってくる。まあこの人に限らず、この学校個性的な人多いみたいだけどね。難民同士の領土紛争が起こりかけた時に全員招集して大会議をやってのけた吹奏楽部の部長というのもアレ相当だぞw


<シチュー皿の底は平行宇宙に繋がるか?>
小学校の頃は覚えているけれど、高校生で調理実習ってやったっけかなあ。さすがに十何年前の話しになるので記憶がまるでない。どうやらこの学校では高校二年生になっても調理実習を行うようである。シチューってそこそこレベルの高い料理な気もするけれど、高校だったらそれくらいは作るか。
さて、ここで問題になるのは柳瀬先輩の演劇部の手下一号であり、葉山くんの親友ミノこと三野小次郎の謎の行動であり、彼の食べたシチュー皿にだけ何故彼の嫌いなジャガイモが入っていなかったのか?
本作のどの短編にも通じるんだけれど、日常ミステリーとして事件の動機がどれも身近でささやかで、でも切実なものなのは感心させられる。どれも大騒ぎになるような事件じゃなくて、小さなミステリーなんですけれど、決して終わってみればどうでもいい、という話しじゃないんですよねえ。今回のもさり気ない思いやりの篭った話で、なんかじんわり来てしまった。しかし、これでミノの方の恋愛話もなんか気になってきたぞ!?
それにしても伊神さん、受験の真っ最中なのに呼ばれたらひょいひょいフットワーク軽く来るなあ。そして奔放すぐる。


<頭上の惨劇にご注意ください>
これって、どの時点で惨劇になるんでしょうな?(笑 あとがきを読むとこのタイトルは偶然からできたもので企図したものではないことがわかるのですが、オチがオチだけにあれも惨劇だよなあ。
取り敢えず、柳瀬さんにちょっかいを出した時点で運がなさすぎたのでした。事件が起こった直後からの柳瀬先輩の恐ろしいまでの行動力は凄いわー。前々から演劇部員を手足のように使うその指揮能力といい、役者というよりも前線指揮官の方が似合ってるんじゃないのかしら?


<嫁と竜のどちらをとるか>
うははは、なんでその話からだけで分かるんだ!? いや、説明されたらなるほど、と思ったけれど、伊神さんでないと気づかないよ。本当に普通の会話内容なんですもん。そして、相変わらず飲食店は鬼門の伊神さん。そうそう、第一作でこの人のエキセントリックさを思い知ったのもファーストフード店だったような覚えが。ほんと、注文しろよ!! いらないよ、と言いながら人の飲み物を勝手に飲むなw


<今日から彼氏>
今日から俺は、は名作です。さて、本巻一番の問題作。葉山くんに彼女が出来る、の巻。おいこれ夢オチか? と思ってしまうほどマジに彼女じゃないですか。柳瀬さんはもとより、葉山てめえ希ちゃんという存在がありながら。私、伊神さんが葉山くんの彼女について訊きに来たのを見たときには、もしかして希ちゃんから依頼されて探りに来たのかと思ってしまいましたよ。本巻で一切出てこなかったところを見ると、希は柳瀬さんの対抗馬にはならないのかなあ。
何れにしても、葉山くんのお付き合いと柳瀬さんとの関係の変化があまりにもガチだったので、本気でハラハラしながら読んでました。今までで一番心臓に悪かったですよ。何気に成長したな、と思わされたのが葉山くんが誰の示唆もウケずに自分で気づいたこと。案の定、答えは間違っていたにしても大元のズレについては彼当人の観察眼で気づいたわけですしね。浮かれたようにみえたんだけれど、それでも見る所は見てたんだなあ。
取り敢えず最後の柳瀬さんの反応を見て、前巻で抱いた間違いないかな、という感覚は確信へと変わりました。いい加減、愛妾扱いはダメでしょう、柳瀬さん。って愛妾ってなんだよ!?w


似鳥鶏作品感想