はたらく魔王さま!〈2〉 (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 2】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

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フリーター魔王さまがついに“店長代理”に昇進!?
庶民派ファンタジー、第2弾!


 店長代理に昇進することになり、ますます張り切る魔王こと真奥貞夫(まおう・さだお)。そんなある日、魔王城(築60年の六畳一間)にご近所さんができる。なんと隣の部屋に、儚げな和装の女の子が引っ越してきたのだ。魔王に恋する女子高生・佐々木千穂と、魔王の命を狙う勇者エミリアこと遊佐恵美(ゆさ・えみ)は、いろんな意味で心穏やかではいられない。
 時を同じくして、魔王が勤めるファーストフード店マグロナルドの向かいに、競合他社のセンタッキーフライドチキンが進出してくる。センタッキーに売り上げを負けたら減給だと言われた魔王は戦慄し、店長代理の職務を全うするため奔走することに。不思議な隣人とライバル店の登場で、魔王城は俄に騒がしくなっていき──!?
 フリーター魔王さまが繰り広げる庶民派ファンタジー。第17回電撃小説大賞〈銀賞〉受賞作、第2弾登場!
あ、相変わらずこの目の前にありありと思い浮かぶ、というかひしひしと伝わってくる生活感の実在性に関しては頭ひとつ抜けている作品である。本筋の魔王だ勇者だ、という所を抜きにすると、これって都会の生活に関するドキュメンタリータッチの話なんじゃないかと思えてくるほど。
聖法気の補充に関するイベントなんて勇者としての力を現代でも取り戻せるという話なのだから恵美ももっとこう、聖法気についてテンションあがればいいのに、それはそれとしてお気に入りの雑誌の表紙にガムテープが張り付いて破れてしまって凹むだの、御飯作るの面倒だからレトルトカレーを晩ご飯にして寂しい夕食に凹んだり、明日ジャンプーの買い替え分買っておかないと、とかテレビの番組表をチェックしたり、と心構えから完全にOLになりきってます、勇者様。
いや、まだサトウのごはんをチンして世知辛い気分に陥ってるくらいならまだいいんですよ。勇者としてそれでいいのか、と思ってしまったのは、防犯対策として男性の下着を購入して洗濯物と一緒に干してる、というお話。いや、それは一人暮らしの女性としては全く以て正しい対策ですけどさっ、勇者としてはどうなの!?
染まってる、もう完全に現代女性に染まってしまってるよ、勇者エミリア!!
他にも細々と感心させられる描写があらゆるところにあるのですが、例えば恵美が勇者として魔王が悪行をはじめないか監視するために、魔王たちが住むアパートに張り込むという展開があるのですが、この作品の生活感の生々しさの凄いところはアパートを張り込む所そのものじゃなく、その前後にあるのです。恵美がOLとして働いている以上、勤務中はアパートの監視なんて出来ないわけんです。だから、必然的に監視は仕事の後になるのですけれど、仕事が長引いたりするとどうしても魔王のアパートまで足を伸ばせない、特に週末なんかは忙しいので終業時間が押してしまう、そもそも仕事の後は疲れてヘトヘトなのでさっさと家に帰りたい、という方向に話の観点が向いてしまうんですよね。しかも、自宅のマンションと魔王のアパートとでは降りる駅が違うので、電車代も気にしないといけないと悩んだり、定期の区間内だからラッキーとほくそ笑んだり、ついでに定期も更新したり、とそういう話ばっかりなんですよ。
手作り弁当イベントでも、必ず、暑い日は防腐対策のためにちゃんと保冷室で保管しよう、という話なんかが出てくるし。とにかく、魔王と勇者のファンタジーな関係に基づくイベントだろうと、ラブコメイベントだろうと、一から十まで実感を伴う生活臭漂う細々とした描写が付帯してくるんですよね。それを実演しているのが、本来魔王や勇者や異端審問官や、といった生活感からは一番程遠い突飛なキャラクターだからこそ、いちいち彼らが普通に生活している様子が可笑しいのです。
いっそ、シリアスな異世界の問題を持ち込まない方が面白いんじゃないか、と考えてしまうくらいに。
正直、鈴乃の問題意識の発露、信念と現実とのすりあわせの葛藤は掘り下げ方が浅かったと思いますし。
ただ、此処に来て他ならぬ現代人である千穂から、この物語が成り立っている前提の虚を突くようなヒトコトが発せられて「おっ!?」と思う所があったんですよね。

「――真奥貞夫になる前の、魔王サタンに会ったことあるんですかっ!?」


そう言えば、そうなんですよね。魔王サタンは配下の魔族を率いて世界に侵攻してきて悪逆非道な行いで阿鼻叫喚の地獄絵図を描き出した、そういう話をエミリアたちの体験を通して話は聞いていたし、真奥たちも別にそれを否定もしてこなかったので、魔王をやってた頃の真奥たちはそういうものだったのだ、と特に深くも考えてなかったのですが、そう言えば実際に真奥が魔王として君臨していた頃の描写は全然無いんですよね。
そして、エミリアたちの知る魔王とこちらの世界での真奥の人間性のギャップ。それを魔力を失って肉体のみならずメンタル面まで人間的になってしまった、とするには幾度か魔力を回復した状態となってなお彼の性格が変わっていない事からも否定的に捉えざるを得ない。
でも、かと言って本当はイイ人だったんですよ、と断言してしまうには真奥って得体の知れないところがあるんですよね。腹に一物抱えている、という風ではないのだけれど、エミリアたちと比べても妙に見識が広いというか彼女らが知らないことも含めて多くを悟っている、というような賢者の風格がたまに見え隠れするんですよね。単純に推し量るのをちょっとためらってしまうキャラクターなんだよなあ。だからか、真奥って主人公っぽくはないんですよね。むしろ、恵美の方が主人公っぽい気がする。妙なくらい前向きで楽観的な真奥と比べて、現代社会に順応しながらも迷いを抱え、疑問を覚え、自分の行く道を探りながら進んでいる所がありますし。
次あたり、もしかしたら「魔王サタン」とは何者なのか、という点について話の焦点が合わさる事もありそうな気がするなあ。

それにしても、ルシフェルは真奥たちと同じ有様になって彼らと同居する、という話になったときはあんな敵キャラどうするんだ、と思ってたら見事なくらいに見事なニートキャラになってて、似合い過ぎて笑ったw
なんて如何にもなひきこもりなんだw

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