オブザデッド・マニアックス (ガガガ文庫)

【オブザデッド・マニアックス】 大樹連司/saitom ガガガ文庫

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級友たちを襲う死者の群れ……ほくそ笑む僕。
授業中、いつも妄想していた。もしも今、この学校をゾンビたちが襲ってくれたら──。逃げ惑うクラスメイトたち、何もできずおろおろする先生……。ざまあ見ろ、最高だ! ゾンビ映画ばかり観て現実と向き合えない高校生、丈二。しかし、嫌々参加したクラスメイトとの夏の合宿で、本物のゾンビハザードが丈二とクラスメイトを襲う!  ボンクラでオタクな僕が、みんなを救ってヒーローになる!?  さらに学校一の美少女も思いのままに!? 怨念じみた妄想が現実になったとき、待ち受けるのは天国か、それとも地獄か!?
おおおっ!? なんぞコレ!? 面白い面白い、すっごい面白かった。ゾンビを愛する少年が主人公なせいか、メタなゾンビ作品ネタがこれでもかと投じられるんだけれど、まさか【凶鳥(フッケバイン)】までパロネタがあるとはw
既存のゾンビものと違うのは、ゾンビのパンデミックが発生してしまった世界でのサバイバルが主眼じゃない、という所である。ゾンビとは非日常の象徴に過ぎず、これは永劫に続くはずだった日常が突如壊れた事によって一度白紙に戻った人間関係という人の檻をどう捉え直すか。夢想と現実をどう編み直すか、という話になっている。故に、ゾンビの脅威はそれほど切迫した問題じゃなくて、この辺はかなりギャグじゃないのか、というノリで処理されてしまうんですよね。もうこのコメディノリには開いた口が塞がらなくて、そのまま笑い転げてしまった。いいのかそんなんで!!
ただ、前半から中盤のポンコツなノリとは裏腹に、中盤以降ショッピングモールに立て篭もって以降の展開はゾンビそっちのけで、スクールカーストを主題とした群像劇が描かれるのだ。
日常という檻の中で人をゾンビのように腐らせる現実世界への絶望と反逆、そして革命と統制が引き起こす理想の崩壊、という極限状態での閉鎖環境において構築された社会秩序のもとで繰り広げられる理想とエゴの鬩ぎ合い。
それは、苦しみしか無い腐ったような日常に膿み切った主人公の妄想が具現化した、望むべき非日常の世界。彼がずっと待ち望んできたパラダイスだったはずなのに、彼を戸惑わせるのはゾンビたちが巻き起こす現実の惨劇などではなく、同じ夢を共有していたはずの仲間の変質であり、これまで彼が知らなかった人と人との繋がり。
テンションあがってはしゃぐばかりで、空回りしてばかりだった主人公が、自分の居場所を与えられてようやく地に足の着いた状態になった途端、その与えられた自分の居場所に疑問を持ち出し、ちゃんと自分の意志で考えだして、最後にはちゃんと自分の言葉で叫んで、それこそ主人公らしく突っ走りだした瞬間は燃えたなあ。お間抜けで卑屈なんだが妙な愛嬌があって当初から憎めなかった主人公ですけど、途中から本当に好きになってしまった。ヘタレで根性曲がった男だったくせに、熱いイイ男じゃないか!
ゾンビ映画のみならず、ホラー、スプラッター系ならその存在だけで速攻死にそうな死亡フラグの塊である金髪ビッチのいずなも、散々腐れビッチ分をまき散らしながら後半思いっきりいいところを持ってっちゃって。
最悪どんな悲惨な救いようのない話になるかと中盤以降の暗い圧迫感のある展開から戦々恐々としてたんだけれど、思いの外痛快で気持ちの良い話になって、なんかもうスッキリさせていただきました。
いや、最後の姉ちゃんのあれははっちゃけすぎだと思わないでもないけれど、いいじゃない、そんな戯けたノリだって。
スプラッタなゾンビサバイバルアクションかと思わせといて、日常や学校、クラス環境への絶望感を綴った青春群像劇、と見せかけ、最後にはそれら全部を巻き込んだ上で吹っ飛ばし、アツい友情にまみれた痛快娯楽作品に。ゾンビ愛にあふれすぎて拗らせたあげく不思議な踊りを踊りだしたかのような、とにかく面白い作品でした。いやあ、楽しかった楽しかった。