ボーイ・ミーツ・ハート!−彼女のフラグは難攻不落!?− (GA文庫)

【ボーイ・ミーツ・ハート! 彼女のフラグは難攻不落!?】 鳥羽徹/H2SO4 GA文庫

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 たとえば予知能力者と透視能力者がトランプで勝負したらどうなるか?
 超能力者が暮らす砂拠市は、そうした一般的な種目を使った異能バトル・PSYゲームが日常的に行われる街である。

 そんな街の住人で、音を操る力を持った征司は、他人の心音を聞くのが趣味という残念な高校生だ。
 彼はある日、幼なじみの少女・狭霧と再会するが、その印象は昔と大きく変わっていた。

「彼女を取り戻したい(おもに心音的な意味で)」

 かつての狭霧を取り戻すため、征司は奔走し始めるが――!?
 ちょこっと変則学園異能ストーリー登場!
おおおっ、なにこれ。キャラの掛け合い、めっちゃ面白いやん!?
前作シリーズの【オルキヌス 稲朽深弦の調停生活】は一巻だけ読んでその後はスルーしていたのだけれど、こっちも評判ヨさそうだし、この掛け合いのノリを楽しめるなら改めて読んでみる事にしよう。
それくらい、軽妙でノリの良い掛け合いが楽しかった。どちらかというと大人しめのヒロインかと思ったら相当の毒舌系だったり、主人公は真面目に見えてすっとぼけた受け答えで狭霧の毒舌にヒラリヒラリと対応し、とんでもない性格の従姉のネーちゃんに弄られ、クラスメイトの女の子を逆に弄ったり、かなりの自由闊達な逸材である。
と、惚けたボケと突っ込みの応酬ばかりではなく、ここで描かれるのは失ってしまった光を、かつて分け与えた相手から時を越えて返して貰う話である。
幼い頃、彼女はその胸に抱いた輝きで絶望と憎しみに彩られていた一人の少年の価値観を、彼の生き様そのものを一変させてしまった。にも関わらず、彼女自身はその持ち得た強さ故に自分の中の輝きを見失ってしまったのです。彼女にとって重ね続けた勝利は、勝利を確約してくれた能力の強さは、むしろ彼女の自由を縛るものになってしまった。勝てば勝つほど、奪われていく可能性。勝利は喜びではなく義務となり、敗北は自身の今までの全否定となっていく。結果、ついに彼女が敗れ去ったとき、彼女の中からは自分を形作っていたものがすべて崩れ去って失われてしまった。
そんな抜け殻になってしまった彼女が落ち延びたその先で、自分が全否定した弱さに彩られながら、かつて自分が持っていた輝きを失わずに胸に抱いている少年と再び巡りあう。
それはただの幼馴染との再会ではなく、自分が否定し失ったものとの再会でもあったわけです。彼を認めるということは、これまでの生き様も、抜け殻となった自分さえも否定してしまうということ。自分が道化であったと認めてしまうことになる。彼女が、征司に惹かれながらもPSYゲームについては頑なに拒絶し、反発したのも道理なのでしょう。
一方で征司は征司で、今の彼女は決して認められなかったわけです。狭霧こそ、今の彼を形作っている原点であり、輝きを与えて未来を指し示してくれた人。それが、かつての自分を否定し、拒絶している。幼き日の狭霧の輝きの否定、それすなわち、今の自分の否定です。いやそれ以上にやはり、彼に取って狭霧とはキラキラと輝く人であって欲しかったのでしょう。ならば、今の彼女は絶対に否定しなければならない。
戦いは必然である以上に、必要であったのでしょう。自身の証明、若者の戦いとしてはすこぶる燃えるシチュエーションじゃあないですか。
その肝心の勝負ですけれど、征司って予想以上に寝技師だな、これ。弱い能力を上手く効果的に使う、というだけではなく、口八丁の詐術を使って上手いこと相手の意志を誘導し、陥穽にはめ込んでいる。彼女の敗因は油断や能力の強さに頼り切った強引な試合進行、とも言えるけれど、それ以上に上手くハメられたから、と見ていいんじゃないだろうか。狭霧に油断がなかったとしても、最終的に征司に騙された挙句に勝ちをさらわれた気がする。勝負強いよ、彼。
この罠に罠を三段重ねしたような仕掛けは面白かった。弱い能力が強い能力を上回る、という以上に情報をパッシブに使った作戦勝ちという手法は面白かったなあ。試合も戦闘じゃなく、ルールのあるゲームをそれぞれの超能力を使って有利に進め、勝利を勝ち取るというのも、こんな風に見せてくれたら毎回楽しみだ。
今後も期待できそうなシリーズのはじまりである。