獅子は働かず 聖女は赤く あいつ、真昼間から寝ておる (集英社スーパーダッシュ文庫 や 2-9)

【獅子は働かず 聖女は赤く あいつ、真昼間から寝ておる】 八薙玉造/ぽんかん(8) スーパーダッシュ文庫

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ファンタジーですが、主人公はニートです。
でも、それだけじゃ終わらない物語が始まる!!

禍竜戦争と呼ばれる大乱に見舞われたガルダ正統帝国。
戦が終わり、国が平和を取り戻しつつあるそんな頃、聖職者見習いのアンナは、毎日自分を見つめる青年の姿に気づいた。その青年・ユリウスが何か悩みを抱いているのだと勝手に思い込んだアンナは、持ち前の行動力で、彼の自宅を強襲する。妹のような少女・サロメを働かせ、自分は働きもしないユリウスに怒るアンナは、彼を更正させることを誓うのだった。
しかしそんな彼らに、運命と過去が戦いを引き連れて迫る!
竜と鋼と魔女のファンタジー、時々コメディ。物語がついに始まる!!
ファンタジーでニートというと、最近では富士見Fの【柩姫のチャイカ】の主人公の兄ちゃんが最初そんな感じだったけれど、丁度あちらもこちらも大きな戦争が終わった後、という環境が共通しているな。文明レベルが中世レベルであることが多いファンタジー世界だと、そもそもよほど裕福で地位や身分が高い家庭の子女でないと無職でブラブラなんて社会的にも存在が許されないと考えられる。そんな中でニートなんてのが成立し得る社会情勢というと、戦争で国や仕事を失った難民や、戦争終結により軍を放り出された兵士崩れが続出し世情も落ち着かず戦火の残り火がくすぶっている<大戦後>、という所になるのでしょう。
これが主人公が公職についている側だと、治安維持と社会不安の解消に奮起する、世の理不尽と向きあう事になるとしても正道を歩む物語になるのでしょうけれど、これがニートなんていう生産性のない、戦後社会の歪みの一端を担うような立ち位置にいる人物が主人公なんぞになってしまうと、これが自然と反社会的なサイドへとまわってしまうものらしい。
とはいえ、既に戦争の終結という形で既に大方の命運は決してしまっているわけです。これを個人の反抗から訪れた平和そのものをひっくり返すというのは非常に難しい。必然的に彼らは既に終わってしまった所をスタートラインにして、敗北を背負い、過去のものとなってしまった遺物を縁にして、現在と未来を司る者たちを相手に戦いをはじめなければいけない事になる。最初からなかなかヘヴィーな立場じゃないですか。
今回については、敵はある意味主人公たちと同じ敗残者であり、過去に囚われた亡者だったが為に、過去の精算という形に終始してましたけれど、先々これはなかなか厳しい展開になりそうです。
しかし、このユリウスなる主人公、本気でパラサイトしてやがるな!! 完全にサロメに養って貰ってるじゃないか。しかも家事はしない、働かない、あれこれ言い訳して食っちゃ寝食っちゃ寝。サロメが何気に精神的に疲れはててるあたりが切羽詰ってるよ!! それでいて強く言い聞かせる事もできずに現状に流されているあたり、完全に働かずにブラブラしてる息子を持ったお母さんだよ!!
ちゃんと目的あって働いてないのかと思ってたら、サロメもそう思ってたらしいが、よくよく言動を見ていると目的は目的でさておいて、働かないのは働きたくないからだというのが透けて見えてしまうやる気の無さ。
駄目だこいつ。
そんな残念な方向に強烈すぎる個性を振りまくユリウスとサロメのコンビの印象を吹き飛ばすくらいに、メインヒロインのアンナのインパクトがすごすぎた。
このヒロイン、既に三、四人過失で殺してるだろう! 
天然で危なっかしいヒロイン数あれど、ここまで無意識に意味なく殺しに掛かるヒロイン観たことないよ! 思い込みが激しく熱弁を振るえば振るうほど、無意識に手に持った刃物も一緒に振り回す、という銃刀法違反で逮捕しないとマジ危ない少女である。取り敢えずなぜ刃物を持つ!? デフォで包丁を持ち歩くな!
主人公、敵と戦って危うくなるよりも、遥かにアンナに殺されかかってる回数が多いし。この主人公、死にそうになり過ぎだと思うんだが、その全部がヒロインの無意識の攻撃によるものというのは如何なものか。

あらすじでコメディですよ、と主張しているように、常時暴走しているヒロインはじめ、個性的なメンツで緩いやり取りを繰り広げながらも、そこは八薙玉造である。サクサクッと人が死に、ヒロインが足蹴にされて、人間が壊されます。さすがに【鉄球姫】ほどエグい展開はまだないけれど、油断してると同じファンタジーですし、サクサクっと血みどろになりそうですから、気を付けないと。