オレと彼女の絶対領域<パンドラボックス> (HJ文庫)

【オレと彼女の絶対領域<パンドラボックス>】 鷹山誠一/伍長 HJ文庫

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未来を変えられたら、君にすべてをあ・げ・る
高校入学直後にオレが一目惚れした黒髪の少女――観田明日香先輩は、『絶対不可避の不吉を告げる魔女』として全校から恐れられる存在だった。自分が視た悪夢が100%現実化してしまう先輩の悩みを知ったオレは、従姉で生徒会長のサヤ姉の制止を振り切り、先輩の未来を変えるべく行動を開始! だが数々の偶然がそれを阻んできて……どうなるオレと先輩の運命!?
へぇ、これは随分と分かりやすいな。
定番といえば定番の量子力学。これって突き詰めれば突き詰めていくほど頭が痛くなってくる、ややこしさが尋常じゃない物理学なのだけれど、この作品ではその点を無視せずちゃんと量子論とは面倒なほど難しい理論であることを天才さんなサヤ姉が説明してくれた上で、問題となっている部分をシンプルに纏めて、明日香が見た夢が現実となってしまう事の原因と理由を導き出し、そこから解決法を引っ張り出していく。
この流れがちゃんと思考と結論の段階を踏んだ上で進捗し、非常に丁寧で分かりやすく纏めてくれてるんですよね。近年、量子力学ってのはライトノベルにおいてちょっとでもSF系入った作品では定番と言っていいくらいに使われているシロモノなのですが、大概持て余すか原型もないほど陳腐化して振り回している作品が多い中で、これはなかなか上手く物語の根幹を担うツールとして使いこなしていたんじゃないでしょうか。
明日香の悩みとなっている現象の不回避の原因も、その回避手段も、作中での解説と解釈を見せられたあとだとなるほどなあ、とかなりストンと納得させられましたし。
問題を変に難解にして煙に巻くでもなく、矮小化して適当に散らすでもなく、こうしてちゃんと段階を踏んでシンプルに理解できるようにまとめた上で、それを踏まえた答えを分かりやすく提示してみせる、というのは案外なかなかと難しい事だと思うのですよ。それを実直にこなしてみせた作者の描き方は、実に好ましい誠実さがにじみ出ていると感じました。

とはいえそれだけだと話としても弱いのですけれど、素晴らしいのはヒロインである観田明日香のキャラクターが非常に魅力的だったんですよね。
もうこの人ね、性格がめちゃくちゃかわいいのよ。キュートというか可憐というか。年上らしい余裕でもって主人公を可愛がってくれるのですけど、その一方で所々で甘えてくるような仕草や心境を垣間見せてくる。
かなり悲惨な境遇にあるはずなのに、常に笑顔を欠かさないんですよね、この人。元々快活なのもあるのでしょうけど、せめて表面上からだけでも不幸を撒き散らすまいとする健気さ。不幸に負けまいとする強さがあって素敵なんだよなあ。主人公が惚れるのもよくわかる。
萌えとか属性とかを抜きにした、純粋な意味での可愛らしさの持ち主である。ヒロインとして相当にレベルが高いキャラクターだ。少なくとも、そんじょそこらの有象無象とはわけが違う。
サヤ姉も本来ならメインを喰う勢いで気にいるだろうかなり好みのキャラだったんだけれど、相手が明日香となるとちと苦しいな、これ。だからこそ最後の告白だったんだろうけどね。自分の気持を隠したまま察してもらうことを期待してツンツンしてるような余裕がある相手じゃないもの。とはいえ、きっぱりと行動に出たサヤ姉は対抗ヒロインとして十分見所に溢れている。かなり苦しい戦況ですがね。

幸い、ちゃんと続きもあるようなので、次回もこの明日香先輩の可愛らしさを堪能し尽くしたい所存。嫉妬する姿まで可愛らしいとは、一部の隙も無しだな、うん。