回る回る運命の輪回る―僕と新米運命工作員 (電撃文庫 な 15-1)

【回る回る運命の輪回る 僕と新米運命工作員】 波乃歌/pun2 電撃文庫

Amazon

僕らが、運命という大きな機構の、小さな歯車だったとしても──

 どこにでもいる、平均よりちょっと下くらいの高校生、野島浩平。だが彼の前に現われた美少女工作員・ノアは、浩平が運命を狂わせる存在《イレギュラ》なのだと告げ、なぜか『弟子』として家に居ついてしまう。
 浩平の常識とは全く違う感覚をもつノア。そんな彼女と過ごす日々の中で、浩平の運命は少しずつ動き出して──。
 第17回電撃小説大賞4次選考作。読むと少しだけ強くなれる、明日への小さな一歩を踏み出すための物語。
ノアがエージェントという身の上にも関わらず、純朴で素直でホンワカとした、ただの世間知らずの女の子で、癒された癒された。
そもそも、話の展開に対して作品そのものの雰囲気がとっても温かいんですよね。それも、ぬるま湯のような温かさとは違って、浸かると傷口がジンジンと沁みるのだけれど、それ以上に体の芯から温もるような、凍えを癒してくれるような温かさがあったのでした。
浩平とちはると優。三人の男女は元々いつも一緒に遊ぶ家もすぐ近くの仲の良い幼馴染だったにも関わらず、家庭の事情や幾つかのすれ違いから、優は別の学校に進んだ末にドロップアウトし没交渉に。浩平とちはるも一緒の学校に進学したものの、一緒にいてもどこか気まずいギスギスした居心地の悪い雰囲気がまとわりついている。幾つもの後悔を引きずりながら日々を過ごす浩平は、おそらくそのままなら心に抜けない刺を突き刺したまま、徐々にちはるとも疎遠になっていき、俯き加減に大人になっていったのだろう。
そんな彼に訪れた転機が、事故をきっかけに発現した近時未来予知能力であり、ノアという少女との出会いだったのでした。特殊な環境で育てられたノアは、まっさらなキャンバスのように無垢で純朴で、そんな彼女の裏表のない人柄は、人と人との距離を縮める事に必要な小さな勇気をどうしても見つけられなかった浩平に、自分が出来ずにいた事が本当は決して難しいことでも何でもない事だというのを教えてくれるのでした。
それは小さくも大きなきっかけ。浩平が、いや彼だけではなくちはるや優が自分たちではどうしようもないと思っていた自分たちを隔てる壁が、実は些細なものでしかなかったのだと気づくためのキッカケ。それが、ノアという少女の存在だったのでしょう。
何故か、この物語全体に感じていた、切ないような心くすぐるような不思議な淡い感触。郷愁にも似たそれは、思えばこれが未来予知という能力を得た少年の物語でありながら、失った、手放してしまった過去を取り戻す話だったからなのでしょう。何年も訪れていなかった親の田舎に里帰りして、かつてそこで友達になった子と再会して、再び友誼を結ぶような。途切れていた絆が結び直されるような嬉しくも擽ったい、ちょっと泣きたくなるような淡い気持ち。それが、この作品をどこかハートフルなものにしていた気がします。
でも、それだけじゃないんですよね。どことなく「ホロホロ」とした気持ちにもさせられるんだよなあ。「ホロホロ」ってなんだよ、と言われると説明しがたいのですが。ほら、「ホロホロ」ですよ。
何気に好きだったのが、とあるグラビアアイドルと引退間際の野球選手のお話。分かりやすい恋愛感情とはかけ離れた、不思議な関係。運命から外れながら頑張り続ける男の人を、ずっとずっとただ見続けた彼女の彼のことを語る楽しげで優しげな言葉がとても印象的だったんですよね。そして、イラストつきのあの笑顔。
「ホロホロ」とね、来たんですよね。
運命なんてわかんないよ、という話のマトメとしての場面だけじゃない、心にじんわりと沁み込んでくるような特別なシーン。こういうシーンを書けるのって、凄いと思う。素敵だと思う。大きな武器だと思うんですよ。
イイ話、書くと思いますよこの作者さん。次回作、今からすごく楽しみです。どこか心慰められる良作でした。