幕末魔法士〈2〉大坂鬼譚 (電撃文庫)

【幕末魔法士 2.大坂鬼譚】 田名部宗司/椋本夏夜 電撃文庫

Amazon

 大坂の町に現れた人食い鬼。薬種問屋武州屋の娘が突然、鬼と化し人を喰って逃げたのだ。適塾の魔法士・来青が彼女のもとへ通っていたため適塾の関与が疑われ、塾は閉鎖。塾長の緒方洪庵は行方不明となり、松江から戻ったばかりの伊織も追われることとなった。
 犯人捕縛のため壬生浪士組の土方歳三や沖田総司が動き出すなか、伊織と冬馬は真相究明に乗り出すが……。
 第16回電撃小説大賞<大賞>受賞作、魔導が奏でる幕末ファンタジー、待望の続編登場!
うわっ、何これ、一巻よりめちゃんこ面白くなってるよッ!! 凄い凄い、これは面白い!
非常にしっかりとした物語でありながらどこかもっさりとした感のあった一巻と比べて、格段に話のテンポがリズム良くなっている。それでいて中身が軽くなったのではなく、むしろみっしりと充実して密度もあがっている。重厚感すらある話をこれだけ軽快に振り回されたら、そりゃあ面白いよ。当然だ。
もう一つ素晴らしくよくなっているのが主人公の伊織を含めたキャラクター、というよりも伊織と冬馬のコンビでしょう。松江での事件の際は出会ったばかりで信用も信頼もなかった二人ですけれど、今や以心伝心命も預け合える仲。いや、命を賭けさせる事も出来る仲、というべきか。下手をしなくても死にかねない無謀な賭けを、頼むの一言でやらせるなんざ、言う方も請け負う方も余程の信頼と覚悟がなきゃあ出来ませんよ。それが男女の間柄となれば、もうとびっきりだ。
前巻の感想で散々、伊織にもっと女の子らしい顔があったらなあ、と愚痴ってたものですけれど、この二巻に至ってはもう完璧に女の子ですよ。嫉妬に独占欲に八つ当たり。そういった可愛らしい反作用もさる事ながら、わりと素直に冬馬に甘えてみせたりと、甘酸っぱい表情を山ほど見せてくれて、これがあの伊織さんかとw
以前からの知り合いが、随分と変わったねえ、というくらいだから実際だいぶ硬質さもほぐれたのだろう。
これで、自分が実に女の子らしい感情を持て余していることにサッパリ気づいていないニブチンさんなのだから、冬馬のアンちゃんも苦労するわけだ。あれだけ一途に好き好きオーラ出して、わんこのようにつきまとっているのにねえ。でも、だからこそ伊織という女性キャラが主人公というのが生きてくる。冬馬が主人公だったらここまで面白くなかったと思うもの。この兄ちゃんは情に厚くイイやつだけれど、純粋に伊織の守護刀であって、伊織至上というシンプルさは主人公としては面白みに欠けるんですよね。
その点、伊織は実に多種多様で複雑な内面、立場、考え方を内に抱え、それを時に持て余し、時に都合よく利用し、悩み苦しみ悶えている。実は彼女も彼女で冬馬の事が最優先の至上だったりして、最終的に彼女が選ぶのは冬馬なのだと決まってはいるのだけれど(もうこの部分だけで甘酸っぱくて仕方がない)、とは言えそこに至るまでに彼女には多岐に渡る選択と決断が横たわっているのである。
長州藩士として、医者として、適塾生として、様々な社会的要求が求められ、男として、男を装った女として、一人の少女として、選択を強いられ。義理人情に揺さぶられ、個人としての正義に拘り、家族への報恩に悩み、友誼を手放せず、自分の一番大事なものを見定めた上で、何を選び何を捨て去るのか。常に決断と覚悟を迫られ続ける。
まったく、主人公として実に見所たっぷりの有り様なのです。
そんな彼女が渦中に置かれる舞台もまた、彼女を映えさせる要素となっている。
前巻が真っ当な時代劇風の時代小説だったとすると、こちらは完璧に幕末小説なんですよね。幕末の名高い人物たちが、主要キャラとして颯爽と物語の中央へと踊りだしてくる。ノリだけのキャラ小説ならともかく、これは本格的な幕末モノとして読んでもいいくらい、しっかりとした質実の出来栄えの作品ですからね。読み応えありますよ。
発売してすぐに読まずに居たのを後悔するくらい、素晴らしく面白かったです。来月8月には三巻が出るようなので、すぐに続編を読めるというのは嬉しい事でありますが。

1巻感想