とある飛空士への夜想曲 上 (ガガガ文庫)

【とある飛空士への夜想曲(上)】 犬村小六/森沢晴行 ガガガ文庫

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新たに紡がれる恋と空戦の物語、見参!
「美姫を守り単機敵中翔破一万二千キロ」その偉業を成し遂げたレヴァーム皇国軍の飛空士「海猫」の前に立ちはだかった最大のライバルにして、天ツ上海軍の撃墜王・千々石武夫。独断専行により一騎打ちを仕掛け、海猫に敗れた千々石は、再戦を胸に秘めていくつもの空戦場を渡る。「出てこい、海猫」激情の赴くままに撃墜を重ねる千々石のその胸中には、天ツ上の国民的歌手・水守美空の歌があった……。空前の大ヒットとなった『とある飛空士への追憶』の舞台、中央海戦争の顛末を描く、新たなる恋と空戦の物語。上下巻で登場!
地上よりも空へと心奪われてしまった男の生き様、というと同じライトノベル界隈では虚淵玄氏の【アイゼンフリューゲル】(これもガガガ文庫なんですよね)が思い浮かぶのだが、この千々石武夫は【アイゼン】の主人公よりも遥かに無骨で不器用な人間だ。これで無口で無愛想なだけだったら孤高となって人の輪から遠ざかるだけで済んだのだろうけれど、彼の傲然とし他人を見下した態度は自然と他者の恨みを買う。戦場では後ろから撃たれるタイプだよね。それにこの時代において航空戦はもはや個人技による決闘から、相互支援による編隊戦を重視し、レーダーと無線を活用した航空管制戦闘へと移行する過渡期にある。遠からず、彼は空の戦士として時代遅れになるだろう。彼がここしか自分が生きる場所はないと思い定めている空の戦場は、彼を必要としなくなってしまうのだ。それを彼はまだ知らないし、気がついても居ない。自分を求め愛してくれる女性に背を向け、ただただ好敵手との戦いに魂を奪われている。
哀れだ。
時代に置き去りにされようとしている男ほど、哀れみを抱かせるものはない。
でも、だからこそ彼には無様に生き残って欲しい。矜持も生き甲斐も居場所も死に場所すら失って、それでも惨めに生き残って欲しい。
夢を叶えた二人の男女。一人は空に駆け上り、一人は歌に身を躍らせ、望むべき世界へとたどり着き、夢の楽園にたどり着いたはずなのに、互いの夢はその心を縛り付け、立場を縛り、互いの距離を遠ざけようとしている。
千々石も、ユキも、空を、歌を奪われるということはきっと不幸なのだろう。夢破れたあとの人生は敗残の残り火なのかもしれない。でも、海猫と王女の恋物語の顛末を、カルエルとアリエルの愛情の行く末を見た今となっては、彼らと同じ「納得」を得た人生をこの二人には送ってほしくないのだ。彼らみたいな「幸せ」を、千々石とユキには受け入れてほしくないのだ。地位も名声も夢も覚悟も他の全てを失った先にある、ただお互いしか残されなかった死人のような平穏。
果たして、それは無価値なものなのだろうか。哀れで無残で悲惨でしかない余生なのだろうか。
夢を叶えて、夢に殉じる事は、否応なく素晴らしいとされるべきものなのだろうか。
シャルルとファナの選んだ道は、かけがえなく尊い想いの結晶だと今でも揺ぎ無く信じている。でもだからこそ、彼らの選んだ道と全く正反対の方向に、また尊く犯し難い、人の生きる道の光を見てみたいのだ。
ただの悲劇で、終わりませんように。

今回の空海戦、あからさまにミッドウェー海戦でしたね。それどころか、レヴァーム皇国の将官クラスがみんなどこかで見たことがある名前ばかりで吹いた。うん、まあ劣勢から攻勢に移る際に抜擢されるのって、概ねこの人だよね、ハルゼー提督。しかし、ナミッツは安易すぎるじゃないか、ナミッツは(苦笑

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