薔薇のマリア  16 さよならはいわない (角川スニーカー文庫)

【薔薇のマリア 16.さよならはいわない】 十文字青/BUNBUN 角川スニーカー文庫

Amazon

痛くても、泣きたくても、なにがあっても、負けない。
エルデン崩壊!?(※そしてサフィニアとトマトクン急接近!!)


幾度も侵略を退けたサンランドの魔導兵たちは、ラフレシア帝国軍の前に沈黙し、軍勢はエルデンに迫る。噂と混乱に満ちるエルデンで、あるものは逃げようと奔走し、あるものは絶望に身を投げ、あるものは喧騒に乗じて略奪と殺戮に走る――。 そんな中、マリアが、ユリカが、サフィニアが、皆それぞれの時を惜しむように、愛する人との時を紡いでいた。 そして圧倒的な破壊の先陣は疾り来たる!! それでもZOOは生き残るために戦う!!

……絶句。為す術なく絶句。超剣士同士の常識はずれの大決闘とか、大魔導師たちの常軌を逸した魔法大戦など、あまりにも途方も無い戦いにむしろ緊張感は解けてたんですよね。軍隊による蹂躙という、個の介在しない逆らいようの無い暴虐の到来によって何もかも叩き潰される、これまで積み重ねてきたもの、築きあげてきたものを巨大な力によって一顧だにされずすり潰されるという、圧殺するような恐怖感、どうしようもないという無力感、ただ逃げ出すことしか出来ない、立ち向かう事すら出来ないという為す術もない有様に慄いていただけに、むしろ剣鬼の爺さんや閃光の魔女マチルダの襲来は、その持ちたる力は未曾有の圧倒的な代物であるにも関わらず、戦争という現実と比べると何故かほっとしたところがあったんですよね。どれほど強大な相手だろうと、それが個人ならそれほど怖くないんですよ。実際、マリアたちも混乱し翻弄され彼らの戦闘が巻き起こす大破壊に逃げ惑っているのだけれど、エルデンから脱出することを決めて、アサイラムと行動をともにし出すまでと比べると、その緊張感は確かに緩んでたんですよね。
その戦闘のド派手さに、話としては大いに盛り上がりながらも、同時にここまで張り詰め続けていた緊張の糸はここで一旦緩みを帯びていたのです。それこそが油断です。
まさに、逆撃が一番効果的に決まる瞬間でした。
一度緩んだ緊張の糸は、一瞬では引き絞れないのです。心の身構えは、簡単には戻らないのです。
突然思わぬところから押し寄せてきたすべてを圧壊させる「戦争」に、マリアたちも読み手であるコチラでもすらも濁流に飲まれた木の葉のように、為す術無く翻弄され、慌てふためき、何も出来ないまま押し流されてしまったのです。
もし、南門についた時点でそのまま戦争に突入していたら、ここまで惑乱することもなかったでしょう。ある程度、どんな事が起ころうと、どんな展開が起こってしまおうと覚悟ができていたはずです。それが、無防備に足をすくわれ、「え? ええ? ええ!?」と落ち着く事もできないまま右往左往した挙句、ラストのあれですよ。もう、呆然です。絶句です。為す術なく言葉を失うばかりでした。完全に緩急にしてやられましたよ。これで次巻に続くって、凶悪にも程がある。しかも、どうやらある程度最後の場面から時間が経っているようだし……ほんとにどうなったんだよ、もう!!

とまあ、後半の怒涛の流れに圧倒された巻のあるこの16巻なのですが、前半は前半でまったり、とは違うのですけれど、刻々と近づいてくる破局を前に、いやだからこそやおら盛り上がる恋人たちの描写の数々がもう甘いような切ないような、どうしたもんですかこれ。いつの間にか、カップル増えたよなあ。ユリカと飛燕だけじゃなく、ヨハンと琺瑠も此処に来て結ばれちゃっているようだし、まさかのカタリ大成功。いや、カタリがそれっていいのかマジでw ダリエロとか、お前凶悪悪漢キャラじゃなかったのかと言いたくなるくらいの、子供好きのお父さんキャラになった挙句にベティといい雰囲気になりやがっておめでとう。本人たちは「はぁ?」という感じのようだけれど、傍目には完全にコンビだよね、この二人。何か得体のしれない関係になりつつあるのがSIXとリーチェなんだが、ここは一体どういう方向に行こうとしているんだろう。サフィニアはむしろ想いが届いてしまったことが逆に悲恋フラグ立ってしまった気がして怖い。
と、気になる純愛模様が幾つも幾つもあるはずなのに、それらが全部どうなってしまったのか、あの状況じゃわからないんだよなあ。楽観視するには、あのラストが見事に釘をさしている。十文字さんは偏執的に悲劇惨劇を演出するタイプじゃないし、どれほど悪夢的な展開でも希望を消したりしない人なんだけれど、やるとなればためらわずに幾らでもやってのける作家でもあるから、ホントに楽観は何も出来ないんですよね。なんかもう、磨り減るわー。
一応、脳や心臓は破損していないはずだから蘇生式は施術可能のはずなんだが、あの状況で遺体を回収して坊主呼んできて式を行えるだけの場を用意できるかというと、とてもじゃないが期待できようはずもなく……あー、あかん。こりゃあかん。あかんわ〜……。

十文字青作品感想