断章のグリム15

【断章のグリム 15.ラプンツェル(下)】 甲田学人/三日月かける 電撃文庫

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影から伸びる白い手。掴まれた先にある闇は──。
鬼才が描く悪夢の幻想新奇譚、15幕!


「いま敵じゃないひとは、いつか敵になるひと。まだ気づいてないだけだよ……」
 葬儀屋の蘇りによる影響はまだまだ続く。蒼衣に復讐を誓う少年は、自分も死ぬ覚悟で蒼衣を苦痛の海へと沈めていく。遠くなりかけた視界に佇むのは、かつて蒼衣が破滅させ、いまは蒼衣を破滅させつつある、死した少女の姿だった。
 そして、蒼衣の窮地を救った雪乃も、勇路を始末するべく、動き出す。いまだ真相の掴めない〈泡禍〉に加え、勇路の存在は危険すぎた。蒼衣を置いていくことに不安は残るものの、雪乃は一人〈泡禍〉の渦中へと飛び込んでいくのだが──
この作品がアニメ化されたら、毎週のように視聴者阿鼻叫喚になるんだろうなあ……どう考えても地上波で放送デキませんが。
それでも、この人の作品は一度映像として見てみたいと思うのは止められない。見たら見たでトラウマになりそうですが。

今回は普段に比べてグロくなかったなあ……なんて感想を抱いてしまうのは相当感覚がおかしくなっていると自覚しておいた方がいいのでしょう。それに、ビジュアルを刺激する直裁的な肉体の損壊という意味でもグロテスクさでは普段よりも大人しかったかもしれませんが、シチュエーションは最悪ですよ、これ。瞬間的な衝撃度、恐怖感は小さいかも知れませんが、この光景を見続けてるとジワジワと頭がおかしくなりそうです。精神的にねじり切られていきそうだ。
それでも、今回の〈泡禍〉の印象がどうしても小さくなってしまったのは、それ以上に衝撃的で絶望の底が抜けたような展開が待っていたからなんでしょうね。〈泡禍〉のもたらす狂気よりも恐ろしい、壊れきってしまった人間の狂気に完全にアテられてしまい、放心状態に陥ってしまう。よりにもよってあの人が……。
これまで仮にも〈泡禍〉と立ち向かってこれたのは、同じ方向を見ながら同じ恐怖に対処してくれる人たちが居てくれたからです。そうでなければ、人として死んでしまう。蒼衣と出会う前の雪乃のように、自らを人ではなく兇器とするか、リカのように人として破綻するしかない。
ただでさえ、いつ踏みしめている地面が抜け落ちて底へ底へと堕ちるかもしれない恐怖と隣合わせなのに、手を握り合い支えあっていたはずの人がまったく信じられなくなったとしたら、いったいどうしたらいいんだろう。
絶望感よりも途方にくれたような呆然とした気持ちにさいなまれる。ただでさえ蒼衣はもう破裂寸前の爆弾を抱え、破滅へのカウントダウンがはじまっているのに。
世界も、他人も、自分も恐怖であり悪夢でしか無い。そんな絶望のさなか、唯一の寄る辺が雪乃さんになってしまった。本当に、「なってしまった」としか言いようがない。〈泡禍〉を潰すことしか考えていなかった雪乃さんが、〈泡禍〉を放置して蒼衣を心配して戻ってくるなんて。騎士としての役割を投げ捨てて、蒼衣の為に戻ってくるなんて。あの、雪乃さんが。
それは雪乃さんがいつの間にか「鬼」から「人」に戻っていた、という意味では喜ぶべきことなんだろうけど、〈泡禍〉を放置した結果、救えたかも知れない人もまとめて死に絶え、雪乃は蒼衣の為に他人を見捨てた、という形になってしまったわけだし、さらに物語としても決して良い方向に進んでるとは考えられないんですよね。
断章が暴走しかけている蒼衣のストッパーとして雪乃が機能し始める。それは二人の絆がより深まった、とも言えるのだけれど、とうとう雪乃さんが蒼衣を優先しだし、ある意味デレはじめた、とも言えるのだけれど……普通なら唯一の希望へと繋がりそうなその絆は、この作品の場合だと余計に救いのない絶望を、より悪夢めいた惨劇をもたらすための布石にしか見えてこない。元々脆く希薄なシロモノより、より頑丈できつく結びついたものの方が、壊れ潰れ破綻しぐちゃぐちゃにすり潰されたときのショックが大きくなるもんなあ。上げたら、必ず落される事を覚悟しなきゃいけないのである……いや、これまで上がった事なんてなかったかもしれないが。

それにしても、神狩屋さんがなあ……。
どこまで狂ったかと戦々恐々だった勇路が、少なくとも目の前の〈泡禍〉の被害者を無視できずに助けてしまうほどにはまともさを残していたのには安心したけれど……今回さらにぐちゃぐちゃにされてたし、楽観は禁物か。蒼衣を殺す気は満々のままだし。なにより、彼の抱えたあの絶望感の描写は凄絶ですらあった。こういう暗黒方面への心理描写については、未だにこの人はちょっとおかしいくらいに怖いヨ。
もう此処まで来るとハッピーエンドなんて欠片どころか塵ほども期待できないけれど、せめて全滅エンドだけは逃れてほしい。それすらも、望み薄なんじゃないかと思えるこの絶望感……。

甲田学人作品感想