幕末魔法士〈3〉The eastern beast (電撃文庫)

【幕末魔法士 3.The eastern beast】 田名部宗司/椋本夏夜 電撃文庫

Amazon

坂本龍馬と共に偽の桂小五郎を追う。伊織たちを襲う異しき呪士と獣の正体は!?

 伊織と冬馬は、天下に混迷をもたらしている偽の桂小五郎が、倒幕の戦を起こして失敗し、幕軍の包囲下にある天誅組の本陣に出没していると知る。そこで二人は、暴挙に加わった土佐郷士を説き伏せ、海軍塾へ引き込もうと企む坂本龍馬と共に、小五郎の偽者を捕らえるべく、山深い吉野へと向かった。
 幕末を翔る男装の少女。その行く手に異しき呪士と凶悪な獣が現れる……。
 魔導の力が天地を揺るがし、無垢なる魂を外道へと堕とす。坂本龍馬もついに登場! 第16回電撃小説大賞<大賞>受賞の幕末ファンタジー、第3弾!

いやあ、これホントに面白いわ。前回の二巻は本格的な幕末という時代を鮮やかに描き出した幕末小説としてべた褒めしたんだけれど、この三巻ではそこにさらに一流の伝奇小説としての威風も示しはじめたようだ。それも、近年の伝奇モノよりも、八〇年代のそれを彷彿とさせる濃さなんですよね。特に、敵陣営の一片の理解の余地もない邪悪さ、悪虐非道さ、残酷で血なまぐさく享楽的な鬼畜外道の振る舞いは、最近では類を見ないほどの凄絶さ。いやいや、ここまでエグい真似をやりまくる敵というのも久々ですよ。味方や罪のない巻き込まれ利用された人が容赦なく殺されていく、だけならまだマシなんですよね。その殺され方が酷い、惨い。同じ死ぬにしても、これほど人としての尊厳を弄ばれ、足蹴にされ、嘲笑われて死ぬというのは救われないですよ。もう、悪意が半端ない。
でも、ここまでやるからこそ、敵としてまた映えるんですよね。同情の余地など一切ない、殺しつくしてもまだ飽きたらないほどの邪悪。これほど倒しがいのある、強大で得体のしれない、心底から何とかしなければならないと思えてくる敵役というのは、物語を引き締めます。動乱の時代そのものを重厚な闇によって縛り付けてくれます。お陰で、作品そのものに密度が生まれてくるんです。
あっさりとやられてくれないのもまた良い。これをすっぱり倒すのもまたカタルシスがあって気持ちいいのですけれど、敵は邪悪であると同時に狡猾で抜け目なく陰湿に幾重にも人の弱みや性格に付け込んだ悪意タップリの策を巡らせている。こちらは出しぬかれ、痛い目をみるばかりで、敵の強大さに果たして太刀打ち出来るのかという不安感に押しつぶされそうになっていく。この邪悪さだけじゃない何をやってもより大きな悪意や力でねじ伏せられるんじゃないかという圧迫感こそ、80年代の伝奇小説によくあったものなんですよねえ。正直、こういう敵は読んでいるこっちまでめげそうになるものなんですけど。味方もバッタバッタと死んでいくしなあ。
とはいえ、そういう過去の作品とこの物語が大きく違うのは、やはり「女の子」が主人公というところでしょう。面白いことにこの【幕末魔法士】って、あくまでも女の子の方が主人公で、男の方がヒロインなんだよなあ。冬馬にしても、今回登場した法鷲にしても、ストーリー上の立ち位置は完全にヒロインとして機能しているのだ。とはいえ、冬馬にしても法鷲にしても決して男らしくないヤワな野郎ではないんですよね。むしろ、幕末という動乱の時代を生きるに相応しい、とびっきりに気持ちの良い、一本芯の通った快男児と言っていいくらいのイイ男なんですよ。まあ、さすが幕末小説だけあって、出てくる連中みんな志を高く持った、文字通りの志士たちばかりなんですよね。だから、女に食われたからヒロイン扱い、というんじゃないんです。
でも、ヒロインなんだよなあ(笑
それだけ、伊織にしても、小夜にしても、そんなイイ男たちをヒロインという立場に括りつけてしまうほどの、イイ女だ、という事なのでしょう。冬馬や、法鷲にしたら、忸怩たる話なんでしょうけどね。彼らとしては、自分たちこそが彼女たちを守る立場に居たかったはずなんですから。でも、そんな男どもの心意気を上回るほどに、彼女たちの女としての強さが上回っていたわけだ。それは、痛快であると同時に、また悲劇でもあるのがまた辛い。
辛いよなあ。今回の話は色々とキツすぎた。前回も相当に救いがなかったけれど、今回はそれを上回る勢いだ。正直へこむ。
そんな中で僅かな清涼は、冬馬と伊織の雰囲気が完全に出来上がり出しているところですかねえ。相変わらず、伊織の鈍さは冬馬をして嘆息せしめるものですけれど、あの場面なんか邪魔さえ入らなければ、もう行くところまで行ってしまったんじゃないかというくらいに火が点ってしまってましたし、この期に及んで伊織も自分の気持ちに嘘はつけないでしょう。だいたい、伊織ってばちょっと冬馬が他所の女に振り向いただけで嫉妬しまくるくせに、あの素っ気ない扱いは冬馬がかわいそうだよ。いい加減、まめにご褒美あげないと。
でも、あんな事になっちゃったらなあ……とことんまで追い詰めてくな、この作者。容赦無いよ。

ちょっち嬉しかったのが、これまで西洋魔法ばかりだったところに、ちゃんと日本の術式体系も存在していたところ。やっぱり、両方揃ってないとねえ。
しかし、東洋に表向き古代文明の歴史が残ってないのって、西洋にしか存在しなかったのではなく、そういう話になってたのか。なんか完全に、クトゥルー神話に突入してきたぞ。

そして、幕末の超有名人物坂本龍馬が満を持して登場。龍馬はどんな物語に出てきても、ムチャクチャ魅力的で惹きつけられる男だよなあ。大人で兄貴分のこの人が一緒に居てくれただけで、綱渡りの展開にも関わらず随分と安心できましたよ。それでもなお、酷い展開になっていくあたり、色々な意味で悪辣ですが。
しかし、この龍馬はちょっとやそっとで暗殺されそうにないんだが(笑

1巻 2巻感想