ゴールデンタイム〈3〉仮面舞踏会 (電撃文庫)

【ゴールデンタイム 3.仮面舞踏会】 竹宮ゆゆこ/駒都えーじ 電撃文庫

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自称完璧なお嬢さまは今回もハイテンション!
竹宮ゆゆこが贈る青春ラブコメ、第3弾!


 はれて彼氏彼女の関係となった記憶喪失男・多田万里と、自称完璧なお嬢さま、加賀香子。
 ラブラブな日々が幕を開ける一方で、万里は過去の関係が白日のもとに晒されたリンダとは真っ直ぐ向き合えずにいた。
 そして凹んだ男が一人。柳澤光央は一年生飲み会での盛大な自爆のため深く落ち込んでおり、そんな彼を励ますために万里の部屋でお泊まり会的イベントが発生するが──!?
 キーワードは仮面。それぞれがかぶるそれとその下に隠された思惑とは?
こ、これって相当エグい残酷な話になるんじゃないのか? ひええ……。
そもそも記憶喪失をキーワードにした恋愛ストーリーって、記憶を失っている間の記憶が、記憶を取り戻したときに消えてしまうが故の悲恋、というパターンをよく見るんですね。それ故に、記憶を失っている状態の人格は、記憶を取り戻す事を自身が殺される事のように怯え、苦しむことになる。そうした記憶の断絶を乗り越えてなお想いは結ばれ、二人の男女のラブストーリーはハッピーエンドに終わる、或いはそれぞれの道を歩み始める悲恋へと収束するのです。
ところが、この【ゴールデンタイム】。既存のこうした記憶喪失恋愛ものとは根本から設定をひっくり返してきた。って、これ厳密には記憶喪失じゃないんじゃないのか? だって、過去の記憶がない状態と、記憶を取り戻した状態がスイッチをオンオフするように切り替わるなんて、今までの記憶喪失ものでもちょっと見たことがない。
やや変則的ではあるけれど、あの幽霊の万里とラスト近辺の驚愕の事象を鑑みるに、これってむしろ多重人格ものじゃないのか!?
もちろん、新しい人格にはそもそもの記憶がなく、通常の多重人格のような完結した人格があるわけではなく、それどころか以前の万里とは殆ど性格にも差異がない。違いといえば、過去しかないか現在しか無いか、という違いしかないのだけれど、それでもそれぞれ独立した人格が並列的に同じ体に存在していたら、それは多重人格としか考えられない。守護霊みたいになっていた万里の存在が、これまで意味不明だったのだけれど、幽霊という自称に完全に騙されてたな。自分の体に戻り、自分の体として動かせるなら、それはもう幽霊なんかじゃないでしょう。しかも、記憶喪失の万里と幽霊の万里、それぞれがお互いを全く別の人間と認識してしまっているのだから。

これ、悲惨ですよ。記憶喪失だと思ってた時は、まだ香子とリンダと万里の三角関係って、まだ失われた記憶を綱引きの綱にした引っ張り合いという恋愛模様として描けたし、三者の決着は万里が記憶を取り戻した時の選択に委ねられる、という結末が予想できた。ところが、これが記憶喪失という仮面を被った多重人格になると、香子が好きな万里と、リンダが好きな万里は別人であるのに、香子とリンダからすると万里は一人という形になってしまう。なまじ記憶喪失と周知されてしまっているのが、関係が拗れていくのに拍車をかけている。これは、どうなったって悲惨な話になりますよ。
まだ最近アニメにもなった某ゲームみたいに、それぞれの人格が別人と言っていいくらい違ったら話もまた変わってくるんだろうが、コチラの万里は殆ど同じ人間なんだもんなあ。それこそ、過去から今に至るまでの記憶があるか、それとも過去の記憶がないかの違いしか無い。というか、これはもう同一人物と言っていいのか。この点からしても、通常の多重人格ものとも言えないんだよなあ。人格統合なんていう決着のつけ方もデキないし。この【ゴールデンタイム】でそれをやると、単に過去から記憶喪失になったあとも浮遊霊として全部見てきて今に至るまでの記憶を持っている幽霊の万里に集束してしまい、過去のない万里が消えてしまうだけの話になってしまうし。

心情としては、リンダがこのままだとあまりにも可哀想すぎるので何とか彼女が泣かない結末を持ってきてほしいところだけれど、それだと香子が割を食う、というよりも今の記憶喪失の万里がそれこそ「殺される」結果となりかねないだけに、どうやって着陸させたらいいものか。なんか、物語のエンディングの難易度がべらぼうに高くなった気がするんだが、大丈夫なのか?

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