疾走れ、撃て!6 (MF文庫J)

【疾走れ、撃て! 6】 神野オキナ/refeia MF文庫J

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「大丈夫です、貴方は『万能の杖』なんですから」――。美ヶ原での実戦から2ヶ月、通常訓練という“日常”を取り戻すかに思えた理宇たち「七二四一小隊」だったが、ダイダラの大規模発生の予兆を察知した軍上層部は、小隊に対して特別任務を与えることを決断する。激戦の予感に怯える理宇たちの予想に反して、与えられた任務は前線ではなく、国民的アイドル「リヴァーナ」の護衛任務だった!! 浮かれる小隊メンバーだったが、そこへ予想外の形で敵が出現して……!? さらに激しさを増す戦場、徐々に明らかになる謎、そして新たなる恋――。新感覚軍隊ラブコメ、激動の第6巻!

最近のミズキが、完全に虎紅隊長を愛でる会の会長に就任している件について。
墜ちたな、ミズキ。
あれだけ対抗心、敵愾心剥き出しにしていたのも今は遠い昔。近頃の彼女と来たら、理宇と一緒になって余人が気づかないだろう虎紅の愛らしい仕草や表情などを見出してニヤニヤしている始末。いいんだけどね。いいんですいいんです。
虎紅とミズキとの間の壁であり溝であった、お互いに抱いていたコンプレックスも、それが嫉妬や敵意、嫌悪へと繋がるのではなく、お互いへの尊敬へと発展していった事で抑えるのでも消し去るのでなく、いい意味で飲み込むことが出来たようだし。
尊敬を経て紡がれた友情は強固だよ。それが、実際の戦争においても恋においても戦友という間柄にもなれば。そして、理宇の余りにも意図も気持ちも通じない惚けっぷりから二人の恋愛闘争も出し抜きあうから、フェアな条件に基づきポイントを稼ぎ合うを通過して、ついには殆ど共闘状態に陥っちゃっているわけで、そりゃ友情や絆も目覚めるわなあ。さらには先述したように、ミズキったら虎紅個人の愛らしさに目覚めたらしく、冷静沈着頭脳明晰な完璧な隊長の振る舞いの中に僅かに垣間見える小動物めいた可愛らしい姿を目ざとく捉えてはほっこりしているご様子で。
いきなり下士官曹長から魔導士官になってしまい、勝手の違う立場や魔法の習得に大変な思いをしているところなんだろうけれど、何故か前よりも充実した毎日を送っているように見えるぞ。そりゃあ、理宇の一挙手一投足に胸を高鳴らせ、顔を赤らめてドキドキしていただけでも充足だろうに、そこに虎紅を愛でる楽しみまで増えたんじゃあ、普通の二倍は楽しんでるよなあ、ミズキさんてば。

そんなミズキが抜けたとばっちりを食うハメになったのが、先任下士官となりミズキから鬼軍曹役を引き継いだ鷹乃さんなのでしょう。あのミズキですら、憎まれ役の副隊長の任務には精神的に疲弊しまくってたのを考えれば、彼女より柔軟性の欠けた堅いまじめちゃんの鷹乃さんだと、なかなか部隊統制も大変だよなあ。とは言え、彼女は彼女なりに柔軟性を蓄えているし、家が軍人の家系だけあって非常に有能なのは間違いなく、上の理宇、虎紅、ミズキに下の俊太郎と美冬がしっかりと支えているから、不都合らしい不都合は出てないんですけどね。
むしろ、人が立場を作る、という言葉のように、以前からの理宇たちとの付き合いの影響もあるのだろうけれど、いい意味で柔らかく器大きくなってってるよなあ、彼女も。まだまだ危うい面も多いけれど、責任感と思い込みの強さが悪しき意味で変に絡まっていた以前と比べると、何だかんだと安心感が出てきてる。頼りがいも出てきたし。
だからと言って、今回みたいに盛大にぶっ壊れていいとは云わないがもっとやれ。このミーハーめ(笑
そんな彼女もまた、理宇に惹かれだしているようだけれど、美冬が洞察しているようにまだ覚醒はしてないっぽいんですよね。本格的に目覚めてしまってたら、あそこでミズキと虎紅のレーダーがラグとして見逃すはずもありませんし。むしろ、微妙に別の人とフラグ立ってたような気もするぞ。部下の男の子は別としても、今回ついにご本人初登場だった、ミズキと理宇の中学時代のトリオの一角、空軍に行った三隅と変なフラグ立ってたみたいだし。立ってたよね、あれ。
しかしこの三隅って子は、なるほどミズキと一緒になって大暴れして理宇に後始末させていたというだけあって、ヤンチャだわー。いくらオスプレイだって、あんなアクロバット飛行実戦でやらいでか!!

そんな青春只中にいる少年少女たちですが、今はまさに戦時。そして彼女たちが属しているのは軍隊であり、生と死を理不尽に強要する組織の只中にいる事は決して忘れる事はできないんですよね。
彼らはまさに戦うために日々を送り、生き残るために訓練を熟し、アンテナを尖らせて敵の、或いは上層部の気配を探り、生存闘争を絶えず続けているわけです。
「戦争もの」は決して珍しくないけれど、何気に「軍隊もの」はやっぱりライトノベルじゃ珍しいんだよなあ。軍隊という特殊な組織の文化を下敷きにした青春ものって。パッと思いつく限りじゃ、電撃の【EGコンバット】か榊版【ガンパレ】。あとはコバルト文庫で須賀しのぶさんが書いてた【アンゲルゼ】くらいだ。よくまあよりにもよってMF文庫でこれを出そうとしたもんだわ。
閑話休題。軍隊において軍人とは、大切に保護される財産であり、愛し慈しまれる子供たちであると同時に、効率的に消費されるよう計算される駒であり消耗品である事からは逃れられない。それは「特殊」である魔導士官も同様であり、「特別」である虎紅小隊、ひいては「万能の杖」と密かに呼ばれる理宇も、あのリヴァーナでさえ変わらない。いや、むしろ「特別」であるからこそ恣意的に運用用され、当然のように大切に使い潰される。
それは理不尽ではあるけれど、納得しなきゃならない理不尽でもあるんですよね。軍人とはそんな理不尽を最初から担っている存在と言える。そして、理宇たちは勿論のごとく、それを知っているし、最初から覚悟した上で備えを怠らない。生きることに、生き残る事に対して、極めて勤勉であることを辞めないのだ。
こうした軍隊モノの少年少女たちが眩しいのは、ただ毎日を過ごすことにすら一生懸命だからなんだろうなあ。明日をも知れない身だからこそ、誰よりも今を生き、未来を見ている。
政戦、暗闘、謀略戦の百鬼夜行と化している政府と軍上層部。その駆け引きの中心となり、突如発生した予定にない、しかし想定されていた大規模戦闘の只中に放り込まれる理宇たち7241小隊。
死闘である。

どうやら登場人物も出揃い、物語も佳境に入ったようだけれど、核心に近づくにつれてさらに謎は増えるばかり。理宇もまあこれ、二進も三進も行かない立場に……追い込まれたとしか言いようがないよな、これ。彼が怒るのもなんとなくわかるよ。
虎紅とミズキがどれだけ彼を守れるのか。なんか、そういう話になっていきそうだ。

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