カンピオーネ! 10 槍の戦神 (カンピオーネ! シリーズ)

【カンピオーネ! 10.槍の戦神】 丈月城/シコルスキー スーパーダッシュ文庫 

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神殺しは呪縛される――! 護堂が囚われた呪いとは? 黒き貴公子との対決の時が迫る!!

アテナとの最期の別れを経て、湖の騎士・ランスロットとの再戦に備える護堂たち。
イギリスの地に降り立った彼らは、白き姫君の力を借り、かの騎士の正体を突き止めようとする…。しかし、護堂は謎の女性との邂逅をきっかけに、神祖・グィネヴィアと共闘を強いられることに。当然、彼女を仇敵と定める神殺し・黒王子アレクとの対立が避けられるはずもなく、神殺しが相撃つ激闘が始まってしまう!
一方、護堂と引き離されたエリカやリリアナたちは…!?
ほんっっっっとうに大迷惑な存在だよな、カンピオーネってのは(笑
今までも散々散々言われ続けていた事だけれど、今回改めて再認識させられた。
人類にとってカンピオーネは「まつろわぬ神」に対抗できる唯一の存在だけれど、それを踏まえてなお大迷惑極まりない。生きた人間でありながらその実、台風だとか地震だとかと同じ自然災害と大して変わらない。
この【カンピオーネ!】なる作品。一応現代ファンタジーや伝奇ものというカテゴリーに当てはめられるんだろうけれど、最近これ「怪獣映画」なんじゃないだろうかと思うようになってきたくらいである。
さて、サブタイトルの槍の戦神。一体誰を指すのか発売前から色々と想像を巡らしていた訳ですが、ここは素直に前巻の続きからランスロット卿だった模様なのですが、その円卓の騎士たるランスロット卿の正体こそ驚愕でした。ヘロドトスさん、マジグッドジョブ。まさか、全身鎧の完全武装の騎兵というカテゴリーをそんな風に関連付けてひっくり返してくるとは。これは発想の勝利だし、何よりも面白い、実に面白い。ランスロットの正体に纏わる古代ローマ帝国と騎馬民族との和合の歴史も、歴史好きとしては非常に興味深いものだった。
私なんぞはこのカンピオーネ!の神話や伝説、歴史の薀蓄こそが何よりの楽しみだし、作品の醍醐味だと思ってるんだが、案外とこのあたり嫌い人も多いのかな。これがなけりゃカンピオーネ!じゃないし、「まつろわぬ神」という敵とのバトルにも「身」が無くなってしまうと思うんだけどなあ。
このカンピオーネに出てくる神様は、名前だけの存在じゃなくて神話に纏わる歴史そのものなのである。故にこそ、歴史が失われれば残された名前の意味も変わってきてしまう。
アーサー王を復活させようとした神祖グネヴィアの失敗も、護堂が戦ったランスロットが次に受肉したとしてもそれはアーサー王伝説の円卓の騎士ランスロットであり、護堂が知っているランスロットはもう二度と現れない、というのもそういう事。「まつろわぬ神」って、言うなれば情報によって構成された存在と言ってもいいのかもしれないな。

しかし、アーサー王が既に6年も前に復活していて、アレクたちによって討伐されていたとは驚いた! 「最後の王」がアーサー王でないのは間違いないと確信はしていたけれど、まさか既に「最後の王」ではないアーサーが現出していたという形で以て完全無欠に否定されるとは思わなかった。同時に、その「最後の王」がアーサー王伝説の元となった人物であったのも語られている。
そのアーサー王伝説がグネヴィアの肝いりで意図的に流布されたもの、という話はこれ面白かったなあ。アーサー王伝説を流行らせた著者たちがみんなとなるあの組織のメンバーだった、というのも実に興味深い。とは言え、仕込みが上手く行きすぎて大失敗につながってしまうあたり、グネヴィアって策謀家というわりにポカが多いよなあ。アレクは彼女の欠点についてえらく具体的に論っていたけれど、なるほどなあ。

黒王子アレクと護堂の相性の悪さは、近親憎悪でしたか。お互いに自分だけはカンピオーネ!の中で常識人だと思っている者同士。そりゃあ、なんかカチンと来るわなあ。アレクも、ちょっとはまともな人だと思ってたら、言ってる事もやってる事も無茶苦茶もいいところで、自分の非常識さを全く省みていないあたりは護堂よりも酷いと思うぞ。護堂はまあ、それなりに自分の破壊神っぷりには自覚あるし、なるべく被害を出すまいと心がけているし。それが実ったこともないし、そもそも肝心な場面になったら心がけなんてさっぱり忘れていますけど。
ヴォヴァンは魔王そのものだし、翠蓮姉さんはあの通りの人だし、ドニはまるっきりのバカだし……まだ名前しか登場していない一人を除くと、アレクも護堂もこの有様だとすると、一番まだマシなのってやっぱりジョン・スミス・プルートーになるのかなあ。あの人、残念な人だし変人だしプルートーになりきっている時はもうどうしたもんだろう、というタイプの厄介な人だけれど、それでも中の人は基本的に護堂よりも常識人だもんなあ。少なくとも、正体を見破られない程度には一般人として溶け込んでいるのはその証左でしょう。
ただ、プルートーがメインで描かれる事があったら、やっぱりこいつも所詮カンピオーネだ、という事になってしまいそうだけれど。
……「最後の王」はいわゆるカンピオーネを殲滅するための存在、なんだそうだけれど、この魔王どもがやられてしまうイメージが一人足りとも浮かばないんだが。無理だろう、これ。


粗筋にもあるように、今回の護堂さんは敵にある呪いをかけられてしまたことで、普段は頚木によってつながれているはずの本性が、完全にオープン状態に。
建前に縛られなくなった護堂さんの無敵っぷりが……あまりにもあまりにも。
やばい、護堂さんノリノリだ。プレイボーイっぷりが留まるところを知らないぜ。これ、性格を変えられているわけじゃなく、あくまでしがらみを取り払っただけ。これこそが素なのだというけれど……やっぱすげえぜ護堂さん。
むしろ、女性関係よりも闘争本能の方が凄いことになってた事のほうがインパクトはあったかも。本当の護堂さんはこんなにも好戦的だったのか。
女性を魅了してやまない護堂さんだけれど、面白いことに他にちゃんと意中の相手がいる女性は護堂さんには反応しないんですよね。アリスや、アレクの部下のアリシアなんかを見てるとよくわかる。ああ、そう言えばアレクってあれ自覚ないけれど、だいぶアリスの事気にかけてるんだなあ。グネヴィアに不快を通り越して殺意を抱いている理由の大きな一つが、どうやらアリスに纏わることだったのをポロッと漏らしてたし。アリスはアリスで、アレクのこと天敵だかみたいな事言っているけれど、護堂にアレクについて話している時なんて、「うちのアレクは」ってノリですもんねえ。二人してツンツンしてないでもうちょっとちゃんとイチャイチャすればいいのに。アリスも、護堂さんの陣営は進んでるなー、などと感心してないで。
と話を戻すと、護堂さんのプレイボーイっぷりはたとえ神様だろうと女であれば通じてしまうのですが、女神が護堂にベタボレになると「彼と死力を尽くして思う存分心ゆくまで戦いたい!」になるのはなんか凄い。さすが「まつろわぬ神」「戦神」というべきか。「好敵手」と書いて「親友」と読む、というのはよくあるけれど、カンピオーネのこれはさしずめ「好敵手」と書いて「愛人」と読む、とでも言うのか。
そんな二人の戦いはとかく痛快、楽しげに笑いながら存分に全力を振るい死力を尽くしあう闘争は燃える燃える。もう無茶苦茶熱い戦いだった。
敵でありながら誰よりも心通わせあった「運命」。なればこそ、アテナやこの女神の権能は護堂に受け継いで欲しかったなあ。どうやら作者は護堂の権能をウルスラグナと天叢雲に限定するつもりのようだけれど。まだウルスラグナの権能と天叢雲との合わせ技は見せていないパターンがいくつもあるし、今回「剣」の使い方にアレンジを加えたようにさらなる進化を秘めているようで、ネタ切れという事はまずなさそうではあるのだけれど。

ラストには、まさかの「彼女」の復活!? うおおおっ、これはまったくのサプライズ。とは言え、以前とは多分存在としては「異なる」もののはずで、護堂との関係も果たして前と同じ形になるのか。いずれにしても、彼女がまた出てきてくれるとは嬉しい限りだ。

次回は一旦本編を中止して、再び過去編へ。そう、カンピオーネになりたての護堂とメルカルト神との決着編であり、エリカが本格的にデレることになるエピソード2である。エリカが以前から「自慢」している、護堂に純潔が奪われた、というエピソードも多分ここのはずなんですよね。色々な意味で楽しみすぎる。

シリーズ感想