超特急便ガール!! (メディアワークス文庫 み 3-2)

【超特急便ガール!!】 美奈川護 メディアワークス文庫

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 上司をぶん殴って一流商社を辞めた、吉原陶子24歳。いきなり目覚めた「ある能力」に相変わらず振り回されながらもバイク便会社・ユーザービスの風変わりな同僚たちとともに、手渡しで荷物を運ぶ「ハンドキャリー便」担当として騒がしい日々を送っていた。自転車メッセンジャー便担当の天然新人が加入したり、社長がスリ被害に遭ったり、過去に一件だけ起こった「配送事故」問題が再浮上してきたりと、事件が絶えない中……陶子自身にまさかの引き抜き話が降って湧き、大きな岐路に立たされることに――!?
 荷物を巡って東奔西走! 異色のワーキングコメディ。
表紙のとーこさんが怪鳥すぎる件について。
跳ぶのは全然構わないんだけれど、そのポーズはいくら何でもはっちゃけ過ぎだ。ガールとか通り越してもう妖怪じゃないのか、これ!?

てっきり一巻で完結だと思っていたけれど、なるほど前回では悠さん個人としての未練は解消出来たのだけれども、残された如月社長、菅野、さおりんの気持ちの方はまだあの事故から止まったままだったんだな。
つまり、決着はついていなかった。
結果、悠さんが与えたと思しきとーこさんの強制空間跳躍能力は消えること無く継続してしまっていたわけで……冒頭、いきなり砂浜で黄昏ているトーコさんの様子に、わりと真剣にシリアスな展開を予想して身構えてしまった私に緊張感を返せ。
まあ思わず黄昏てしまったトーコさんの気持ちも嫌というほど分かるんですがね。誰だって、いきなり心の準備もなく、沖縄になんぞ跳ばされたら現実逃避するわ。しかも、この能力は会社のみんなには内緒の為に、帰りの交通費は自腹。沖縄から東京までの交通費って、片道でもエラいことになりますがな。行き場のない憤りを溜め込んだトーコさんの恐ろしいこと恐ろしいこと。この人、ただでさえがらっぱちな所あるのに。年齢だけじゃなくて性格的にもガールじゃないよなあ、この人は。
しかし、一旦沖縄まで跳んでしまったからか、その後も同じ関東圏内とはいえ都心から相当遠くに跳ばされるケースが続発したにも関わらず、トーコさん、やった今度は近い! と安堵していらっしゃる。慣れって怖い。
しかし、このどこに跳ばされるかわからないという恐怖感はとてつもないですよ。まだ日本国内だから良いものの、下手をすると海外に跳ばされる事だって考え得るんだから。海外なんか飛んじゃったら大変どころじゃないですよ。完全に不法入国で拘留されてしまいます。ってか、帰れん!
この巻では、もしかして海外に飛びかねない事案もあったので、その際にはドキドキものでした。この能力、トーコさんの方の事情なんか斟酌してくれないもんなあ。

トーコさんの後輩となるブレーキ着いてないようなワンコ系直進青年、自転車便のジョーも加わって、スタッフも充実してきたのだれど、此処に来てトーコさんが前の会社を辞める原因となった取引先の人間がトーコさんに注目し、彼女がなぜここで働くのか、という動機と前社長である悠さんの死に未だ囚われる社員たちのしがらみが合わさり、話は拗れていくことに。
というよりも、トーコの心情が拗れていったというべきか。会ったこともない人だけれど、能力を通じて悠にこの会社の人たちを託されたという気持ちのあるトーコにとって、自分は如月たちと同じ仲間である、という意識が強くあったのに、同時に自分は身内ではないという疎外感に苛まれ、自分がここで働く動機、存在意義にゆらぎが生じ始める。自分と一緒に前に進んで欲しいのに、過去に囚われ動かない菅野たち。自分もまた彼らを引っ張って動かすだけの「何か」を持っているわけじゃない、という心もとなさ、自身の喪失。それらが幾重にも重なって、強引だけれど巧みな取引先の勧誘もあって、思わずトーコは会社を飛び出してしまうわけだ。
でも、外に出たからからこそ、よく見える景色がある。自分がいた場所を、よく見直す事ができる。仲間たちが本当な何を考えていたか、自分のことをどう見ていてくれたのか。そして、自分の中には最初から、この会社で働き続けることを決めた時から芽生えていた動機が、離れたことでようやく見えてくるのである。
それはきっと、如月社長や菅野、さおりんにとっても同じだったんだろうなあ。如月社長なんか、最初からお見通しみたいな言動しているけれど、見通している事と自分から動き出せる事とは違うんですよね。見えていても動けないことはある。力強く牽引してくれる輝きは、やっぱり必要なわけですよ。
それがまぎれもない、トーコさんだったわけだ。
そして、皆の止まっていた時間が動き出す。自分の仕事に誇りを持って、彼らは託された思いを手に走りだす。
心に響く、良作でした。

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