烙印の紋章 9 (電撃文庫 す 3-23)

【烙印の紋章 9.征野に竜の慟哭吹きすさぶ】 杉原智則/3 電撃文庫

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皇帝VS皇太子の戦いがはじまる! 英雄への道を描くファンタジー戦記!

 西方より舞い戻り“皇太子ギル”として復活をとげたオルバ。ビリーナとも再会を遂げ戦いに向け準備をはじめる。
 一方、皇帝グールは帰還したギルを偽物と断じ、一軍をアプターへ差し向ける。
 圧倒的な戦力差のなか、皇太子として反皇帝の狼煙をあげなければいけないオルバは、寡兵をもってして鮮やかな勝利を得るべく策を練る。
 両軍はついに激突の時を迎えるが──。

うがぁ、やりやがった。どうして、この作者は主人公ここまで孤独に追い込むの好きなんだろう。




王たるものは常に孤独と隣り合わせの生き様、というのはよく言われることだけれど、それでも誰かしらは居てもいいと思うのですよ、胸襟を開いて付き合える相手が。決断や責任は一人で背負わなければならず、決して余人が立ち入れない領域を抱えなければならないとしても、だ。
でも、この作者が描くシリーズの主人公って、本当に一人ぼっちなんですよね。先の【てのひらのエネミー】なんかでもそうだった。彼を助けてくれる部下たちや、彼を慕うヒロインたちが居たにも関わらず、あの主人公は常に一人ぼっちで苦しみもがいていた。彼の心の内側まで立ち入り、彼の苦しみを理解し、一緒になって悩んでくれる人はだれも居なかったのです。
そしてこのシリーズの主人公であるオルバもまた、余人に自分の内側まで立ち入らせようとせず、その他人に明かせない秘密や狷介な性格もあって、オルバという個人を思ってくれる人は本当に少なかった。彼の理解者という意味ではそれこそ、数えるほどしかいなかった。
そんなオルバの最大の理解者であり、むしろオルバ本人よりもオルバの気持ちを汲み取り、先行きを示すような手助けをしてくれる、もう一人の兄のような存在がシークだったのです。ビリーナがどれだけオルバと心通わせ、シークと同じようにオルバの事を理解してやれるようになっても、未だ彼女はオルバの正体を知らない以上、シークと同じような事は絶対にできないんですよね。いや、もし秘密を全部知ったとしても、彼女は隣に一緒に立ってくれる人であって、影に日向にオルバを支えてくれる人とはまた違うのです。その意味ではシークの代わりになるような人はだれもいないんだよなあ。ゴーウェンのおっさんはあれでオルバの事を親身に考えてくれてるけれど、シークのような献身と才覚は持ち合わせていない。そこまでベタベタするような仲とは違うんですよね。
他に誰も代わりがない、最大の理解者を……ここで亡くさせるのか。

これでもう、剣闘士奴隷だったオルバは、オルバ個人としての退避場所を本当に失ってしまったわけだ。ただひたすらに、王たる道を行かなければいかなくなってしまったわけだ。死を恐れた瞬間、剣闘士としてのオルバは死に、自分に味方してくれた皆のために、国のために生き抜かなくてはならないと心定めたとき、皇太子ギル・メフィウスとしての生が本物になる。だが、それは本当の孤独の道。
自分で選んだ道とはいえ、苦しい生き方だよなあ。早い所、もうビリーナには打ち明けてしまえよ、と思ってしまうところだ。

ってか、折角ようかく、再会なったというのにこの二人ときたら。泣いて縋るんじゃなく、激怒して撃ち殺そうとするあたりが、さすがはビリーナ姫といったところなんだろうが、オルバも不器用がすぎるぞ。あれだけ戦場では頭がまわるのに、どうして女の前だとあれだけぎこちなくなれるのか。ビリーナも人付き合いではむしろ不器用な方だし、不器用×不器用って色々とどうしようもないぞw
それでも、肝心の場面ではオルバの不明を見抜き、叱咤してみせた彼女はシークとは別の意味でもうオルバの最大の理解者になってるんだろうなあ。やはりこの人はただ甘やかせ励ますよりも叱咤激励する方がよく似合う。

メフィウス王国、人材居ないよなあと思ってたら結構ちゃんとしたのいるじゃないですか! それでも、やっぱり数値70台前半くらいの微妙さ加減でありますけど。でも、この手のオルバと同じタイプの深慮するタイプの将軍は見なかっただけに、この人が味方に加わればなかなか使えそう。仮にもオルバの立てた作戦を見抜いて呑みにかかった相手は殆どいなかったわけですし。勝敗を分けた差は、戦域全体を見渡し策を練れる後方と実際に剣をふるい血の匂いをかぐ最前線両方に立つオルバとの視野の広さの違いによるものなんだろうな、これ。僅かな戦場の空気の機微の読み間違えが、致命的な友崩れに繋がったみたいだし。
うん、戦記ものとしてもやはり面白いぞ。

杉原智則作品感想