火の国、風の国物語13  英傑雄途 (富士見ファンタジア文庫)

【火の国、風の国物語 13.英傑雄途】 師走トオル/光崎瑠衣 富士見ファンタジア文庫

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この戦乱の歴史に終止符をうつため、アレスとフィリップが率いる二つの軍勢が、激突する!! 勝利を掴み、次代の王になるのは、果たしてどちらか。壮大な歴史絵巻の幕がついに閉じ、物語はついに完結へ――!!

クラウディア様、貴女騙されてる、さり気なく騙されてるから!! 一番したたかで狡猾にアレスに迫ってくる女はベアトリスだと思ってたら、一番食えなかったのはクラウディアの侍女シオーネでした。この女、自分の主人完全に良いように利用しやがった(爆笑

文字通り一騎当千の騎士アレスの英雄譚、ここに完結。いやあ最後まで面白かった。素晴らしきは、アレスというキャラの特異さを殺さないまま、見事に戦記ものとして最後まで仕立て切ったことでしょう。普通、軍勢と軍勢がぶつかり合う戦記ものというジャンルにおいて、たった一人で大軍をなぎ払ってしまう無双キャラなんてタブーもイイ所なのに、このシリーズは真面目に「戦場にて実際に無双する騎士が居たら」という題材に取り組んでいたんですよね。勿論、どれだけ無敵だろうともたった一人で出来ることには限界があるという冷厳とした現実は、この物語でも有効であり、実際アレスは中盤から自分一人で戦うことの限界にぶち当たり、幾つもの挫折を繰り返すことになりますし、この巻での決戦でも手痛い敗北を喫することになります。がしかし、アレスがたった一人で戦いの帰趨を決してしまいかねない巨大な戦力であるのもまた事実なわけです。この巻で描かれた、彼のその特異すぎる特性を殺すこと無く、逆に活かしまくった、まさにアレスが居なければ成し得ない戦術など、まさに一騎当千の騎士が実際に居るなら、という設定に真面目にふざけず真っ向から取り組んだ結果だったんじゃないでしょうか。あれ読んだ時はひっくり返ったなあ(笑 あれはもう発想の勝利。アレスという前提条件が現実にあり得ないから、普通は思いつかないよ、あんな戦術。
思いつく限り、この戦術を実際にできそうなのって、上杉謙信くらいだよなあ。いや、本当にではないですよ。イメージですよ、イメージ的に。

フィリップはちょっと可哀想だった。相手が悪すぎたと言わざるを得ない。とは言え、情報の絶対的アドバンテージを握っていたんだから、ちゃんとハンデはついていたはずなんですよね。言い訳は出来ない。それでも、最後まで小物化することなく、しかし超然としすぎて人間離れしてしまわず、頑張って悪役らしい悪役を貫ききったのは、敵キャラとして親しみすら湧きそうな好感度の高さでした。

ラストの展開はもう吟遊詩人が歌う英雄譚そのもの。ハリウッド映画でもそこまでやらねえよ、と言いたくなるような、お前それ実際の話しを大げさにふくらませすぎだろう、と言いたくなるような展開なんだが、アレスの存在はそのデコレーションしすぎな英雄譚を本当にやっちゃうのだからたまらない。そりゃ、周りで彼を見てる人は腰を抜かすだろうし、大笑いするだろうし、興奮の絶頂に達してしまうのも無理ないだろう。おとぎ話の英雄が現実に存在してしまったら、そりゃあもうジェレイドみたいに泡を吹いてひっくり返るか、ジェレイドみたいに躁状態になって大はしゃぎしてしまうしかないじゃないか。って、敵だったり味方だったりしたジェレイドはいろんな立場の人がみるアレスへの印象を一人で色々体現してらっしゃいますなあ(笑
だからまあ、最後のアレスの選択は荒唐無稽もイイところで、王様としてふざけるなと呆れ果て怒り狂われても仕方ないむちゃくちゃなものだと思うんだけれど、それがアレスがやるとなるともう「アレスなら仕方ないな」或いは「アレスならそれしかないな!」と思ってしまう摩訶不思議でございました。なんというリアル暴れん坊将軍(笑

ちょっと残念だったのは、パンドラ様がデレてくれなかった所かなあ。絶対内心ではアレス贔屓だと思うんだが、パンドラ様。彼女とその背後の神様については曖昧なまま終わってしまったのだけれど、あとがきによるとまた別の形でアレスの物語は続く可能性があるようなので、そちらでもしかしたら描かれるのかしら?
多分、どう考えても戦記モノにはならないだろうけど(絶対痛快ちゃんばら活劇だ)、またぶっ飛んだアレスの活躍が堪能できそうなので、是非是非新たなシリーズ描いて欲しいところです。
あー、面白かった。

師走トオル作品感想