社会的には死んでも君を!3 (MF文庫 J い 5-3)

【社会的には死んでも君を! 3】 壱日千次/明星かがよ MF文庫J

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ちょっとスケベなハプニングが起こる呪い『ラブコメ現象』のせいで、周囲から嫌われている男子高校生・薩摩八平。彼の周りにも、ようやく彼のことを理解してくれる人々(だいたい美少女……だが変態)が集まってきた。八平は、彼女らと共に無人島へと旅行へ行くことに。美少女たちの水着姿に歓喜したり、懐かしの人間大砲で飛ばされたりと、楽しい(?)時間を過ごしていた。しかし、彼の前に試練が訪れる。それは、八平が心から愛する幽霊の少女・香月の消失だった――! 純情少年と幽霊少女が織り成す、ハートフル・アンチ・ラブコメディ待望の第3弾!
香月の正体が予想の斜め上……いや、斜め下を行っていた。これは酷い、誰が悪いって訳でもない話なんだが、これは酷い! いくら何でも香月がこれ可哀想すぎるだろう。ある意味死にたくなるような正体だぞ。ってか、普通に死んで幽霊になってた方がまだマシだったんじゃないだろうか。少なくともそれなら、生前の歴史が彼女には備わっていたはずなのだから。
八平以外で唯一香月の存在を認識できる柚姫の登場で辿り着いてしまった香月の謎の真相は、八平と香月にとって僅かな期待をもなぎ払うものだったはずだ。香月の正体が分からない、という事はもしかして香月には戻れる肉体があるかもしれない。【GS美神】のおキヌちゃんみたく、生き返る余地があるかもしれない。それは二人にとって期待するにも値しないゼロに近い可能性だったかもしれないけれど、奇跡として夢見てもいい可能性ではあったわけですよ。ところが、真実はそうした淡い期待をも一切許さないものだった。
と、同時に八平にはこれまでの不遇に耐え続けてきた頑張りが報われるように、彼が侵された呪いを知った上で彼の気高いまでの努力を讃え、受け入れ、呪いも含めて彼を愛してくれる女性たちが現れたのです。
決して報われる事がないと分かってしまった人との恋と、これまでの苦労をすべてを報いてくれるだろう女性との恋。丁度、相対する道が現れた時、香月が以前の彼女の自作自演と違って本当に八平の前から消えてしまいます。香月はついに八平にとっても姿が見えず、声も聞こえない存在になってしまったのでした。
それでも、ようやく陽の下を真っ当に歩める、幸せが約束されたような道が示されながらもなお、彼はそれに背を向けて、香月の元へと向かうのです。全部知った上で好きだと身も心もなげうって告白してくれた相手に、キッチリとごめんなさいをして、彼は決して報われないと分かってしまった恋へと脇目もふらずに走りだしたのです。
昨今稀に見る、一途な主人公ですよ、こいつは。
中学生の頃から暗黒のような日々を送っていた八平は、鈴音たちから好意を向けられ、これまで自分が培ってきた努力を認められ、褒められた事にとても感動してたんですよね。嬉し泣きしそうなほどに、幸せを感じていた。そんな描写が繰り返し繰り返し描かれてた、それだけ本当に八平は天にも昇る心地だったのでしょう。
それでも、八平はようやく報われた幸福を投げ打って、香月を選んだのです。たとえ再び暗黒の時代に戻ろうとも、香月と一緒に居ることを、自分以外の誰にも存在を認識できない、客観的に見れば脳内彼女でしかない香月と居続けることを。
最後まで漢でした、薩摩八平は。
何も知らなければ奇行を繰り返す上に性犯罪紛いのセクハラを何度もやらかす危ない人間なんですけどね。香月が見えていた柚姫は別として、よくまあ何も知らない鈴香は薩摩八平という男の本質を見抜いたもんです。よっぽど男見る目あったんだろうなあ。八平が正直鈴香にはかなりぐらついたのも無理ないのでしょうか。

結末は大団円とするには、八平と香月には辛いだろう繋がりのままなのですが、二人がそれで満たされているようなので、ちゃんと悲恋混じりとはいえハッピーエンドだったんだろうなあ。何だかんだと限定的にだけれど、香月が八平だけにしか見えないし声が聞こえない存在、ではなくなり、香月がみんなとちゃんと友達になれて孤独じゃなくなった事については文句なしのハッピーエンドだったわけですし。
期待したよりもちょっとより定例的なラブコメよりに傾いた最終巻でしたが、それでも決して結ばれない男女の切ない一途な悲恋モノとして、最後まで飽きさせない読み応えのある一作でした。次回作も期待。

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