泳ぎません。 (MF文庫J)

【泳ぎません。】 比嘉智康/はましま薫夫 MF文庫J

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だがスク水。
グラウンドから野球部のランニングの掛け声が聞こえてくる。「おーっ、ぱいおっ、ぱいおっ、ぱいおっ!」……なんで「おっぱい」って叫んで走るの? 綾崎八重はビニールボートの上でボンヤリ考える。ここは学校のプール。ほかにはストレッチしてる茂依子と、ござを敷いて本を読んでいる榛名日唯。たった3人だけの水泳部。別に大会とか目指してないから放課後は毎日こうやってプールでのんびりしてる。「あたしって学校生活の三分の一以上、布きれ一枚で過ごしているんだなぁ……」徹頭徹尾スク水! でも泳ぎません。すこぶるつきの彼女たちのプールサイド・トーク!
泳ぎません。この句点の「。」がポイントです。「!」じゃないんですよね。これが【泳ぎません!】といったタイトルなら、何やら断固とした理由があって頑なに泳ぐまいとしているかのような内容になってしまうのでしょうが、本作はあくまで【泳ぎません。】なのである。
いっそ【注:泳ぎません。】でも良かったんじゃないか。
というわけで、水泳部員たちが長すぎる休憩時間を利用して、プールサイドでだらだらと時間を潰す、ただそれだけのガールズトーク・ストーリー。いや、ストーリーというほどの物語も起きないのだけれど。本当に、だらだらと駄弁っているだけなのである。
前作の【神明解ろーどぐらす】も、基本的に下校路でわいわいと駄弁りながらブラブラするだけのお話でしたけれど、この【泳がない。】が凄いのが、舞台が学校のプールから全く動かない所なんですよね。ホントに場面がプールサイドから殆ど動かない。何度か学校内の別の場所でのワンシーンがあるくらいか。【神明解ろーどぐらす】はあれで毎回帰るルートを変えての寄り道が恒例だったのでいろんな場所でシーンを展開できたのだけれど(逆に校内での描写はほぼ玄関のみで極力排していたのが面白い)、ここまで場面を固定してしまうと本気でトークだけがメインとなってしまうので、話広げるの結構たいへんだったんじゃないかなあ。
そう考えると、神卵太郎というイレギュラーは、基本的にプールの外の存在で、校内をうろちょろしているだけにも関わらず、外から様々な刺激を八重たちに送り込んでくる不思議なファクターなんですよね。彼女たちのトークの材料となり、好奇心の対象となり、心を擽る存在に徐々に徐々にスライドしていく。彼がプールサイドに現れて彼女たちと会話するのは僅かに一回。メインキャラの八重ですら、それ以外ではたまたま校内で遭遇した時に一言二言言葉を交わしただけの関係にもかかわらず、プールサイドからチラチラと見える校内のあちこちを動きまわる神卵太郎の小さな姿や、校内放送から聞こえる声だけで彼女たちの中に妙な存在感が増してくるのである。
この奇妙な関係性の盛り上がりの流れ、変な感じなのだけれど、これがなかなか擽られるのだ。面白い。

平和な日常モノと思われていた【神明解ろーどぐらす】が後半に凄まじい超展開があった事もあり、デビュー作の【ギャルゴ!!!!!】の内容も相まって、この第三シリーズもまさかの超展開、プールサイドを舞台にした猟奇事件でも発生するんじゃないかという不安だかwktkだか分からない警戒心が消し切れないのだけれど、さすがにもうそれはないよね? ないよね? 

一応【神明解ろーどぐらす】とは学校が違うはずなのだが、何故か「勝ち越しの会」の名前があったぞ!?(笑

しかし、また最近の長文タイトルに挑戦するかのような、短文一言スタイルのタイトルである。やがてこちらへの潮流も発生するのだろうか。何気に長文よりも短文一言の方がセンスが求められそうだけれど。たった一言でインパクトと作品内容をズバリ、或いは面白く言い表したタイトルってかなり難しいと思う。その点この【泳ぎません。】はかなり素晴らしいですよね。たったワンフレーズでよくもまあ……。