EIGHTH(6) (ガンガンコミックスJOKER)

【EIGHTH 6】 河内和泉 ガンガンコミックスJOKER

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大切な人を守るための、二人の決断。 新しくエイスにやって来たまだ8歳の大先生・天王寺りお。
ナオヤはりおの護衛をすることになり、りおもまたナオヤの部屋の居候となってセルシアやヒカルと打ち解ける。
だがそのことで、セルシアはりおの身を案じある決意をするのだった…。
セルシアの能力(ちから)をめぐり、物語が加速する待望のiPS編、開幕!!
うわぁっ、これはわかりやすい! 近年何かと話題にのぼる「iPS細胞」。医療面にて革命的な進展をもたらすであろうこの奇跡の科学。具体的に何がどう凄いのか、ちゃんと理解している人はどれくらいいるんだろう。自分もある程度理解したつもりではいたんですよね。でも、これ読んで自分が如何に小難しい理屈や言葉をこねくり回した末の、大雑把な括りでしか「iPS」というものを把握していなかったかを痛いほど思い知らされた。
この天才小学生博士のりお先生の説明、もうドエライわかりやすいんですよ。科学知識なんか殆ど持ってない人でも、その辺の何も知らないオバちゃんでも、この説明を聞いたら「iPS」って何? って理解できるんじゃないでしょうか。それくらいシンプルでありながら、情報の核心をついた説明をしてくれてる。
んで、改めて「iPS」なるものを見なおしてみると……これ、マジでとんでもない代物なんだな。イメージとしてもっと限定的なものだと思ってたんだが、「iPS」を作るために使われている考え方を踏まえると、本当にとてつもない可能性が広がっていることが実感できてしまって、何だか震えが来てしまった。これもう、殆どSFの未来技術の領域に片足どころか首までどっぷり浸かってるんじゃないだろうか。実用段階に入れば、さらにそこから応用発展していくはずですし……うわぁ、これは凄いわ。えらいことだわ。

とまあ、ほとほと感心し切ってしまって心ここにあらずの状態になってしまったのですが、肝心のお話の方もかなりダイナミックに、しかし登場人物たちの心の移ろいは繊細に転がっていくのです。特に、最初期からエイスに匿われていたセルシアの決断は、この作品が一つの岐路を迎えたということなのでしょう。
むしろ決断してしまったセルシアよりも、決断させてしまったルカの方が現実に直面させられてしまったのか、これは。セルシアを守るために、意固地なほど一途にガードとして振る舞い、彼女に安息の地を与えようとしていた彼が、バチカンに匿われたセシリアの置かれた状況を目の当たりにして、自分がセルシアから逆に安息の地を奪ってしまったのではないかという苦悩に晒され、自分に課せられた役割と現実とのギャップに身を切られていくのである。彼は、彼の最善を尽くしただけだし、セルシアも最良を選んだつもりだっただけに、これは辛いなあ。バチカンですらこれなら、セルシアが穏やかに暮らせる場所は地上には一切ないことになってしまう。ナオヤの部屋から一歩も出てはいけなかったエイスが、心許せる人が回りにいるあそこだけが一番マシだったとは何という苦しい現実なんだろう。エイスだって、完全に所長たちの好意の産物であって、本来ならエイスだって彼女の能力を利用したい、という欲があるのは間違いなく、本社がセルシアの存在を知ればもしあのままエイスに居ても、あのままで居られたかどうか分からないし、何れにしても一室から出られないという環境は決して長続きするものでもない。こうして見ると、セルシアの置かれた状況ってホントに詰んでるんだなあ。最後の望みでありルカにとって正解だったはずのバチカンがあれだったとなると、本当に。

新登場の天王寺りお先生は天才だけあってとても頭がよいのですが、同時に歳相応の小さな子供なのがとても良かった。その賢さ故に周りから拒絶され、距離を置かれた事へのトラウマが小さな彼女を怯えさせていて、自分の知識をひけらかすことを極度に恐れている様子がねえ……。知っていること、自分が考えた事を周りの人達に喋ろうと、伝えようと、聞いてもらおうとするのは、このくらいの歳の子なら当たり前の事なのにねえ。そのしゃべる内容が歳相応の拙い内容ではなく、普通の人には難しい、或いは興味がない遺伝子工学だったりしたが故に、周りの人達は笑って相槌をうってくれるのではなく、嫌な顔をして困った顔になって遠ざかっていってしまったのだろう。可哀想に。だから、ちゃんと話を聞いてくれるナオヤたちの存在は嬉しかったんだろうし、この子にとっては救いであり、大好きになったんだろうなあ。聡い子だから、彼らの優しさも理解出来たんだろうし。逆に言うと、その優しさを察する聡さが彼女を追い立てる事になってしまったのだろうけど。
しかし、りお先生ほどの説明上手なら、全然言ってること難しくないしわかりやすいと思うんだがなあ。普通に話を聞いてあげてても、面白いと思うぞ。

河内和泉作品感想