神様のメモ帳〈8〉 (電撃文庫)

【神様のメモ帳 8】 杉井光/岸田メル 電撃文庫

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 年末年始、四代目を悩ませていたのは頻発する雀荘荒らしだった。なぜか麻雀打ちとして駆り出された僕は、雀荘で奇妙な男と出逢う。雛村玄一郎――なんと四代目の父親!
 緊迫する親子勝負の裏で、雀荘荒らしをはじめ、無関係に見えたいくつもの事件が結びついていき、やがてよみがえるのは一年前のあの悪夢。
「あの事件をもう一度、完膚無きまでに終わらせるんだ」
 アリスが、テツ先輩と四代目が、そして彩夏までもが、赤い悪夢の残り滓に突き動かされて走り出す──。加速するニートティーン・ストーリー、第8弾!
雀・鬼・降・臨!!
って、鳴海、ついに麻雀の代打ちまで始めちゃって、どこまで行ってしまうんだ。既に学校の方でも鳴海は裏世界の顔役として名が轟いてしまっているようで、ついに表の社会にまで威名が(笑
これで傍目には気弱で押したら押したぶん引いてしまいそうな草食系で、実際も概ねそんな感じのはずなんだがなあ。何がどうしてこうなってしまったのやら……まあ殆ど自業自得なんですけどね? あながち虚名でもないわけだし。挙句、ついに四代目の親父さんを通じて、どうやら関西にまで名前が届いてしまいそうな勢いだし。既に平坂の兄貴経由で関西には情報が流れてそうだし、知らないうちにあちらでは鳴海の名前はえらいことになってるんじゃないのか?w
というわけで、序盤は上京してきた四代目の両親のお話。完全に経済ヤクザだw 【羽月莉音の帝国】でもそうだったけれど、財界とヤクザというのは切っても切れない仲なんだろうかしらねえ。親父さんの振る舞いを見ていると、ヤクザである自分と経済人としての自分に何の矛盾も感じていないみたいだったし。あれで四代目だって、カラーギャングまとめて粋がっているわけじゃなく、先のバンドのプロモートを請け負った芸能関係のイベント会社をはじめとして、ちゃんとした会社として色々と動いているらしいですもんね。まさか、ちゃんと銀行から融資を受けて資産を回しているレベルだとは思わなかった。だって、平坂組って四代目以外頭使えるやつ皆無じゃないか。総務から経理に営業まで、全部四代目一人で回してるんだろうなあ……ごっついな、この人。
まあ今回の両親登場の話で驚かされたのは親父さんよりもむしろお袋さんの方だったわけだが。てっきり最初に出てきた時は旅先まで連れ回してる愛人かと思ったよ。あの四代目がこの人から生まれた、というのは充分驚く要素だろう。極道の妻、って雰囲気じゃ全然ないもんなあ。それでも彼女が相当のくせ者、三代目のパートナーというのは話が進むにつれて大変良く実感できたわけだが。

これは、他人が踏み込みようのない、どうしようもないほどの家族間の軋轢だったわけですけれど、それにズケズケと踏み込んでいく鳴海の言い分が、小気味よくて好きなんだなあ。この子、最初は意味もわからず半ば押し付けられるようだった四代目との義兄弟の契りを結ぶ盃を、ほんと良い意味で利用するんだよなあ。四代目と鳴海が義兄弟なら、そりゃあ雛村家の問題だって鳴海の家族の問題になるってものだ。これ、四代目怒りながらも嫌がってないのが味噌ですよ。最初は多分、そんなつもりはなかったんじゃないかな。もっとクールな、信頼で結ばれる盃であったはず。それがいつの間にか、もっと距離の近い、本当の家族としての兄弟という関係になっていた事に対して、四代目、何も言わないんですよね。言わないんですよ。文句があるなら、断固としてはっきり言うだろうこの人が、怒った振りをしながらも否定的なことは何も言わないんです。
嬉しいんだろ、あんた(笑 大事で大切な事ほど口に出したりしない人だからなあ、四代目は。
それは後半の話にも如実に繋がっていて、何だかんだと後半に二人の間に入ってしまった亀裂は、作中でも誰かが言ってたみたいに、ようは兄弟喧嘩なんですよね。鳴海もムキになってたけれど、あれは四代目も充分ムキになってましたよ。四代目ならもっと上手く立ち回れるはずなのに、やたらと意固地になってましたしねえ。四代目があれだけ大人気なくなるなんて、それだけ甘えている、と言ったら変かもしれませんけど、クールになりきれない相手だったからなんでしょう。それは鳴海も同じで、ココぞという時にはびっくりするくらいにクレバーになる彼が、この件では勢い任せで感情を激発させている。あとでもっといい方法があったはずなのにと後悔しているくせに、でも四代目に譲って頭を下げようとはしないのだ。
事態が深刻なだけに和んでる場合じゃないしそんな雰囲気じゃなかったのだけれど、でも改めて振り返ってみるとこの時の二人って、馬鹿だけどかわいいよ。

そして、これまである意味眠っていたと言っていい彩夏の覚醒。再びエンジェル・フィックスに纏わる騒動が起こり始め、終わったはずの事件は傷つき眠っていた彩夏を渦中へと引き戻してしまう。それを何とか食い止めようと、彩夏を悪夢から遠ざけようとする鳴海だったのだが……彼女、逃げなかったな。
なんというか、一巻の初登場時から通してみても、ここで初めて彩夏という少女の真の姿がやっと表に出たような気がする。これが、本当の篠崎彩夏だったんだ。
これ、もしかしてミンさんをすら上回る、ニートたちが頭の上がらないヌシ様の誕生じゃないのか?(w
結構イイたいことズケズケ言いなさるし、アリスを含めたニートたちの言い分など一顧だにしない強制力。アリスと鳴海を纏めて首輪をつけて飼育調教してしまいそうな勢い。これまでの存在感のはかなさが嘘のような彩りのまばゆさに目を眇めてしまった。カップルとしてはもうアリスと鳴海が鉄板過ぎて入り込む余地はなさそうなんだが、それでも二人への多大すぎる影響力の強さを見てしまうと、入り込まずに二人纏めて包み込んでしまいそうな雰囲気ではあるなあ。これなら、これからもヒロインの一人としてかなり大きな位置を占めるのかも。

事件の真相は、予想外の方向へ。これは、誰にも悪意がなかっただけに中心になってしまった人には同情を禁じ得ない。特にあの女性には。あの人、本当に何も悪くないもんなあ。結末も大団円とはいかず、結構な凄惨な流れに。最悪の事態を食い止められただけでも良かったのか。
全部読み終えたあとだと、表紙の風景が、舞い散る白い花弁が胸にしみる。幸せの行方に思いを馳せる。生きるって簡単なはずなのに、時にどうしてこんなにも難しくなってしまうんだろうなあ……。

杉井光作品感想