ログ・ホライズン4 ゲームの終わり(下)

【ログ・ホライズン 4.ゲームの終わり(下)】 橙乃ままれ/ハラカズヒロ エンターブレイン

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異世界化した<エルダーテイル>で、はじめての大規模戦闘へ――
海岸沿いでみられたモンスターの大量発生は、サーバー全体と思われる異常事態に発展。
チョウシの町を救うべく急ぐ新人チーム、大遠征軍を指揮する“狂戦士”クラスティと参謀の“腹ぐろ眼鏡”のシロエ、そして貴族の誇りをすて声をあげる〈大地人〉の姫。
異世界の危機に、〈冒険者〉と〈大地人〉が手を取りあった共同戦線がはじまる!!
ミノリの作戦立案センスがこれ、中学生離れしてるよなあ。チョウシ防衛戦なんて見事なくらいの機動防御による各個撃破戦術ですよ。彼女の思考の優れた点は、防御能力が無いに等しく戦力も乏しいチョウシを守りきらなければならない、という状況において、如何にしてチョウシの防衛力をあげるかではなく、徹底して敵戦力の集中を阻害することに傾倒したことでしょう。机上で考えるのは簡単かもしれませんが、現場で突然モンスターの大軍が街を蹂躙するコースで進軍してきたという生の、しかもタイムリミット付きの急報が飛び込んできて、なかなか咄嗟にこういう発想はできませんよ。彼女の際立った視野の広さは、パーティー戦闘指揮にも現れていて、ここで描かれた「全力管制戦闘」という概念には正直全身に電流が走りましたよ。これ、単なる息のあったコンビネーションとかチームワークとは完全に次元が違う話なんですよね。
情報整理と分析による未来予測を導き出した上で、電撃的な戦術判断の連続で戦域を支配し切る。やってることは実質航空戦における早期警戒管制機「AWACS」みたいなものなんじゃないか。
いや、むしろこれは、TRPGで磨かれるような能力と考えるべきか。実際、TRPGのリプレイなんかを見てると度々ベテランのプレイヤーが、何ターンも先の流れを完璧に読み切ってプレイヤーに指示を出して、戦闘を支配するシーンを見たことがあります。ただそれをリアルタイムの本物の戦闘でやれとなると全く別の話ですし、そういう観点・アプローチからバトルシーンを描いた作品はあまり見たことがない。
そして実際に描かれてみると、これがもう凄まじいと言っていいくらいの凄味があって、体中に電気走りまくり。戦っている子たちは決して特別な能力を持っているわけじゃなく、レベル的にもまだ中堅にも達していない新人の殻からはい出たくらいのヒヨコたちなのだけれど、そんなの何の問題にもならないですね。もう痺れるほど燃えた。

こよなく怠惰を愛し自堕落たらんとしながら、誰よりも貴族らしく高貴なる義務を果たすべく、冒険者たちに誠意と敬意を以て飛び込んできたレイネシア姫。恩恵も何も無いにも関わらず純粋な憧れから冒険者になろうとしたルンデルハウス。二人の大地人の見せた気概と見るものを奮い立たせる魂の輝きは、彼ら大地人が<冒険者>と対等の存在であることをこれ以上なく示したと言える。
それ以上に、最後にシロエが編み出した本物の魔法は、大地人と冒険者の境界を無に帰すものであり、気持ち的な問題だけじゃなく、世界を織り成すシステム上の観点からもNPCだったはずの大地人と、ゲームのプレイヤーだったはずの<冒険者>が存在として伍するものだと証明されちゃったんですよね、これ。
クラスティーの証言から、不死と思われた冒険者たちも死ぬ事によって現実世界の記憶が失われていくというリスクがあることが明らかになり、もはやこの異世界で日々を過ごしていくということは、この異世界で「生きていく」という事そのものになろうとしている。未だゲームの延長線上という意識から逃れられていない者たちは、ススキノは他の国のサーバー上で好き勝手暴れている連中のように、捨て鉢になって無軌道に、刹那的に過ごしているのだろう。或いは諦観や絶望感に苛まれて、無気力に過ごしているのかもしれない。
でも、このアキバの皆のように、ゲームの終わりを実感し、自分たちがこの異世界で生きていかなければならない、と理解した者たちは、覚悟を決めはじめているのだ。いつか、どうにかして元の世界に戻る方法を探しだすにしても、まずそれまで、この世界の一員として生きていく覚悟を。大地人という隣人と交わり、友人たちと普通に笑って、今日を勤しみ、明日の事を考える、そんな当たり前に一日を過ごしていく覚悟を、だ。
そして、その覚悟を持ってこそ、未来という希望を抱ける。
このアキバが素晴らしいのは、その覚悟と希望をみんなで共有できた事なんでしょうね。レイネシア姫のお願いに明るく活況を以て応えれたのはその証かと。他のサーバーなどでも、個人やギルド単位で前向きに生きる覚悟を決められた人たちはたくさん居るでしょうけれど、それでも狭いグループ内だけだとやっぱり辛かったり苦しかったりする事は多いはず。その点、街ぐるみ、生活空間ぐるみで共同体意識を構築できたアキバは素晴らしく恵まれた環境として機能している。シロエがあの時立ち上がらなければいったいどうなっていたか。西日本がどうなっているかが後々明らかになるのですが、その事実を踏まえるとアキバの在り方は奇跡的にすら思えてきます。
ミノリたち新人プレイヤーたちが、あんなふうに素直に<冒険者>の本分に身を任せることが出来る環境。レネイシア姫の思いに、あんなに明るい笑顔で応えられるだけの心の余裕を以て、この異世界に生きる事ができている事。シロエがあの時守ろうとしたものが間違いなくアキバの街に根付いて、ゲームとしての終わりを迎える事が叶ったのがわかるシーンをこうして目の当たりにすると、何だか今更ながら妙な感動が沸き上がってきた。

このあたりになると、段々とカップリングらしきものも見えてくる。いきなり鉄板のようになってしまったレイネシア姫とクラスティーや、最初からにゃん太を気にしている様子が明らかだったセララ以外にも、マリ姉と直継が何気にいい雰囲気だったり、五十鈴とルンデルハウスが実に面白い形で相性の良さを発揮していたり(お手は正直酷すぎると思うぞw
しかし、一番の注目はシロエを取り巻く女性たちでしょう。今のところはピッタリと寄り添うアカツキが不動っぽく見えるんだけれど、一途にシロエを慕うミノリが中学生ながら、その純粋なまでの憧憬を元手にして一気にまくりあげてくるんですよね。ミノリのひたむきさと勤勉さは物凄く好ましいんだけれど、やっぱりアカツキには頑張って欲しい。頑張れ、小さなお姉さんw

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