はたらく魔王さま!〈3〉 (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 3】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

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魔王が“パパ”で勇者が“ママ”!? 波乱必至の庶民派ファンタジー第3弾!

 魔王城(築六十年の六畳一間)の庭に、異世界からのゲートが開く。そこから現れた少女は、魔王をパパ、勇者をママと呼んだ! まさか2人がそんな関係だったなんて……とショックを受ける芦屋や千穂だが、一番混乱していたのは魔王と勇者だった! 
 魔王城で預かられることになった少女を巡り、魔王と勇者がまさかの大接近!? フリーター魔王さまが繰り広げる庶民派ファンタジー、第3弾!
生活感のリアリティについては凡百の作品とは一線を画する魔王と勇者の現代日常コメディ第三弾は、育児編! この【はたらく魔王さま!】シリーズの事だから、幼児を出すとなったら子育て描写も生中のものにはならんのだろうな、と思ったら全くその通りだった! 自分、小児用の経口補水液なんてものがあるなんて初めて知りましたよ。子育ての経験でもあるんじゃないかという実に詳しく実践的な育児知識の数々に、思わずほぉと感心してしまったほど。よっぽど勉強したんだろうなあ、と思ったらあとがきでそのあたり触れてましたが、中途半端は嫌いなんだろうなあ。そして、単に得た知識を転載するのではなく、作中の登場人物たちの身となり肉となり、実際にそれらの育児の知識を実践したり応用したりとちゃんと生きた知恵になってるんですよね。このへんは、この作品の特徴である生活感の出し方と共通で、この地に足の着いた描き方はもう才能だよなあとほとほと感心してしまいましたよ。
育児以外でも、例えばアイスを食べたあと、ごく自然に分別してる描写があるんですが、ここで思わず絶句してしまったのが、その描写が魔王がいちいちアイスのカップを洗って分別して捨てている、というギャップを強調して魅せようとしているわけじゃないところなんですよね。もう誰もその行動を注視もしてないし、誰も突っ込まない。登場人物視点からしても、ごく自然な行動として流されている上に、作者視点からもセリフとセリフの間の特に益体もない、強調する必要もない当たり前の挙動の1つとして処理されてしまっているのです。このシリーズ、こうした感じの、やたらと身に覚えのある、普通に生きていると普通にやっている行動や反応が、作者サイドからは何のライトアップもされないまま、登場キャラの言動、一挙手一投足にいちいちついて回るのです。これ、自然なのがいいんですよ。いちいち強調されてしまうと、嫌らしいし段々と辟易してくるけれど、それが気にならない形で登場人物の生活習慣として描かれているので、そのままダイレクトに生活感として伝わってくる。
これ、何気に余人にはなかなか出来ない特別な技ですよ。

今回登場のアラス・ラムスによって、真奥と恵美の関係は否応なく強化されてしまったみたいですが、今のところまだ個人同士ではきちんとした人間関係、信頼関係は出来てないんですよね、この二人。いや、信頼関係は一応構築されているのか。それでも、それはどちらかというと一方通行のもので、気持ちが通じ合ったという形の繋がりはまだ出来てないっぽいんだよなあ。
ただ、その関係構築が出来ない大きな原因の一つであった、魔王サタンの得体のしれなさや、心の奥底で何を考えているのか、何を目的にしているのかという点が、彼の過去が明らかになることでかなり見えてきたのは大きい進展じゃないだろうか。少なくとも、魔王サタンがどういう存在であったかがわかったのは、この先の話のすすむ先と着地地点が見えてきたという点でも大きいです。少なくとも、真奥も芦屋も人間同然に力を失ってからあんな性格になったわけじゃなく、考え方も庶民的になってしまったわけじゃあなかった事がわかったのは、足場として機能するんじゃないだろうか。いやまあ、庶民的にスケール小さくなってしまったのは否定できないかもしれないけど。うーん、しかしだとすると彼がファーストフード店で出世していくことがのちのちの世界征服に繋がるのだ、という主張には絵空事じゃない、ちゃんとした理由があるのかもしれないな。
ともあれ、アラス・ラムスが来たことでパパとママになった以上、真奥と恵美には魔王と勇者という敵という以外の平和であり、また様々なことで協力していかないといけない関係が構築されたわけで、今まではフラグらしいフラグも立てられなかったけれど、これから関係が変化していく可能性、高くなってきたなあ。これは、千穂ちゃん大ピンチだ。もう彼女、お助けキャラとして縦横無尽の活躍をしてまわってたんだけれど、どうも一番美味しいところは持ってかれてしまいそうな雰囲気が常につきまとっているので、うん頑張れ。超頑張れ。
艱難辛苦な千穂ちゃんと違って、何気に順当にフラグ当てているのが恵美の同僚の梨香さんである。なんかとんとん拍子でこの人、芦屋と接点深めて距離感詰めてきてるよ!?

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