楠木統十郎の災難な日々―ネギは世界を救う (電撃文庫)

【楠木統十郎の災難な日々 ネギは世界を救う】 南井大介/イチゼン 電撃文庫

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ネギを片手に世界を救え!? 痛快スラップスティック・コメディ登場!!

 県立星ヶ峰中央高校三年C組、穴があったら突っ込みたい年頃の楠木統十郎は、気がついたら──死んでいた。
 何を言っているのか分からないだろう。被害にあった統十郎も何が何だか分からない。だが、目の前にいる猫耳ロリ(自称・高次元生命体)は言うのだ。今、統十郎は彼女のミス(お前のせいか!)で自身の存在をアノマリーとかいう“バグ”に世界ごと飲み込まれてしまい、アノマリーを倒さないと死んだままですよ、と。そして統十郎の手には、何故か新鮮なネギが……。
 かくして楠木統十郎の災難な日々が幕を開ける!? ハイテンション&ハイスピードで贈る痛快スラップスティック・コメディ!!
【ピクシー・ワークス】、【小さな魔女と空飛ぶ狐】に続く南井大介第三作目。またぞろ、とんでもないキャラクターの主人公を放り込んできたな。ここまで性格が狷介凶悪傲岸不遜な主人公は特異だろう。いくら何でもエッジが尖すぎる。しかし、その尖り猛った性格こそが、グイグイとこの物語を牽引する原動力になっているのだから油断できない。多分、彼の性格が当たり障りのない温厚なものだったら、この作品ここまで面白くはなかっただろう。まあ、南井さんの出すキャラクターが温厚で穏当だった試しはないような気もするけれど。
ともかく、その頭の回転の速さと容赦ない冷酷さ、一方で身内を大事にする熱量と敵は容赦しないという攻撃性が、デブで運動が苦手という大概惰弱なデブオタにされがちな小太り型主人公を恐ろしいまでのアクティブな牽引役として機能させていることは注目に値する。状況だけ見ると、典型的な巻き込まれ状況で受身な展開なんですよね。なのに、印象としては主人公サイドが率先して障害を噛み千切り踏みにじり喰い破っていくかのように見える。実質の案内役であるネコ耳ロリがまた、原因にして発端にして責任者にも関わらず協調性が欠片もなく、完全に上から目線で状況を面白がって主人公たちを見下し嘲り弄んでいるだけだもんなあ。申し訳なさそうな顔の一つもしないものだから、果たしてこいつら本当に協力関係、支援関係にあるのかと疑いたくなるくらいに仲が悪い。顔を突き合わせれば罵詈雑言の応酬で、さすがにこれでケンカするほど仲が良いとは思えないレベルでやりあっているものだから、むしろラスボスはアノマリーじゃなくて猫耳ロリなんじゃないかと疑いたくなるほどだった。まあ、こいつがラスボスになってしまうともはや無理ゲーなのですが。本質的にGMみたいなもんだもんな。
和希には思いっきり騙された。勿体ぶらずに速攻で正体明かされてしまったのだけれど、これはこれで開幕冒頭に一発KO食らったような威力だったよなあ。出会い頭の一発ほどキツいものはない。
男の娘だったとは。
まあキャラの好みは妹でちゃんと女の子な優希の方だったから良かったんだけれど。その優希だけれど、彼女と主人公の関係は面白いなあ。統十郎はあの性格で、さらに幼馴染にも女にも容赦しない奴だから、和希が懐いている分も反作用に働いて、二人の関係は険悪に見えるのだけれど、これで優希は統十郎を嫌ってはいないんですよね。むしろあれだけ喧嘩していながら、一緒にいることを好んでいるしそれを自覚すらしている。
これがただの幼馴染補正なら言及するところはないのだけれど、彼女が統十郎を好んでいるのは身近さではなく、彼の知性というところが実に面白い。優希自身、知性と理性に重きを置き学と識に楽を覚えるたちだから、統十郎と面合わせると自然と起こってしまうアカデミックな会話に快感と満足感を感じているのだ。彼女にとってその辺の同世代と接するよりも、性格こそ悪かろうが、統十郎と喋っているのが純粋に楽しいんですね。
とはいえ、統十郎と優希の関係が普通の他人、知り合い同士なら優希も幾ら楽しいからといってあんな狷介な性格の男との付き合いは続けないでしょうけれど、統十郎ってあの性格で幼馴染も女の子も平気で自分のいいように利用する人間でありながら、実は本当にいざとなると身内はすごく大事にするタイプであったりするわけで、和希と優希は彼にとっての数少ない身内に含まれているわけです。
普段の態度には頭に来て仕方ないけれど、一緒にいると楽しいし他の人では得られない充実感を感じる上に、いざという時頼もしいことこの上ないし、本当のところは大事にされているのはわかっている。となると、そりゃまあ離れがたいわなあ。見た目冴えないどころか、とてもモテそうにない外見の小デブキャラの主人公に彼女みたいな娘がくっついている理由としては、ただの幼馴染関係だけというよりよほど納得できる関係性だ。
ラストでちょっぴりデレた優希はなかなかキュートで可愛かった、うん。

主に主要人物のキャラでもってとてつもない勢いで突き進んでいくドタバタ劇、これまでの作者の作風と全く違うようで所々でやっぱり南井大介だと思わせてくれる空気感。うん、楽しかったです。
とは言え、作者の物語はやっぱりもっと硬派な方向で暴走している方が好きなので、デビュー作みたいな方に戻るか、或いは続編出すにしても作品の組み立てをあんな感じで描いてくれると嬉しいな。統十郎なら主人公交代しなくても舞台変わっても十分やってけそうだし。