羽月莉音の帝国 9 (ガガガ文庫)

【羽月莉音の帝国 9】 至道流星/二ノ膳 ガガガ文庫

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革命前夜――革命部いよいよ建国のとき!

俺たち革命部が創設した新市場KKネクストを中心に、世界経済の景気は急上昇し、空前の巨大なバブルを引き起こす。その一方で、俺たちはKKネクストのインサイダーで稼ぎ出した莫大な資金を、次々と金銀財宝に変えていった。過去最大の世界恐慌が到来したとき、それら物質資産の価値は爆発的に激増するはずだからだ。やがて世界の崩壊が訪れる。その瞬間こそが俺たち革命部の建国の狼煙となるのだ。
 ここまで来たらもう後には引き返せない。家族に別れを告げて、俺たちはそれぞれの覚悟を胸に建国の地となる猿島へと上陸した――。だが、世界は当然、建国など許すわけもなく、アメリカをはじめとする列強国は、俺たちの革命を史上最悪のテロ行為とみなし宣戦布告する。

 前代未聞のビジネスライトノベルいよいよ怒濤の革命編へ突入!
ついに自ら世界大恐慌の引鉄を引き、独立国を立ち上げた革命部。
本当に、自ら世界恐慌を引き起こしちゃったよ。これ、史上最悪のテロ行為と言われるのは妥当でしょうね。報道や公式発表で革命部が建国の際に何万人もの人間を虐殺した、なんて情報操作が(しかも時間が経つにつれて虐殺者数が上昇カーブを描いていく形で)なされてしまうのだけれど、これって実は直接革命部が手を下したわけじゃないとしても、彼らが引き起こした世界恐慌を原因として発生した犠牲者の数、と捉えてもいいのではないだろうか。文字通り、彼ら革命部が殺した数である。このたった五人の少年少女が思い描く素晴らしい世界を生み出すために死ぬ羽目になった人間の数である。
そして、その数はこれからもうなぎのぼりに上昇していくのだろう。それはまさしく血塗られた道だ。無欠の革命などこの世には存在しない。世界の変化には必ずといっていいほど犠牲者が生まれる。それが世界の社会構造を根本から根こそぎひっくり返そうとする革命ならばなおさらだ。
さて、ならば世界の人民はその犠牲に耐えられるのか。その革命が大衆の意に叶えば、犠牲は殉教となり、或いは最初から無かったかのように記憶の果てに追いやられ、変化は歓呼を以て受け入れられるだろう。しかし、その変化を大衆が拒めば、犠牲者は呪詛となり、変化の起点は絶対悪として殲滅される。人類は、人類の敵を絶対に許さない。絶対に許さない。
それを踏まえれば、経済の掌握と同じ階梯を以て情報の制圧の重要性が認識できる。
革命部は世界の経済を握りつぶしたが、同時に人類の敵になり果ててしまった。革命は、世界が受け入れなければただの破壊で終わってしまう。果たして、革命部はここから世界の正義に返り咲けるのだろうか。

個人的には、だけれど結局巳継の父親と同じ凡人でしか無い自分には、彼らの目指す理想郷が全く理解出来ないので、彼らの高尚で純粋な尊いと言っていいだろう決意と覚悟は正直言って、気持ち悪いとすら感じてしまった。彼らだけがたどり着き、彼らだけが立つに至った高み。そこから見下ろされる気分を心地よいと思えるような人間ではなかったんだな、自分は。
恒太が言うところの愚かで蒙昧な愚民は、だからこそ恐ろしいぜ。よくぞまあ、大事な家族や親族を置き去りにしていけたなあ、と思う。世界恐慌、経済の崩壊、至近にテロリストが陣取り、いつ頭上から核兵器が降ってくるか分からないという極度のストレス下に置かれて、果たして個人は兎も角として大衆は平静でいられるだろうか。ヒステリー状態に陥った愚民が、人類の敵の身内をどう扱うかなど想像もつかなかったんだろうか。
せめて、ジリヤに庇護下において貰ってから行けばよかったのに。と言ってもジリヤでは守れないか。アメリカを始めとする国家群が身柄を押さえようとしたら、まず抵抗出来ないもんなあ。
自分だったら、まず家族を人質を取ることを考えるよな、これ。巳継も同じ事をやってたわけですし、常套手段でしょう。

しかし、果たして核兵器がここまで抑止力として機能するんだろうか。いや、核兵器の抑止力そのものには疑いを持たないけれど、保有しているのがたった五人の人間であり、拠点が小さな島一つというのはねえ。結局抑止力ってのはイメージなんですよね。もしかしたら、核兵器が起動する前にプチっと潰せるんじゃね? という印象が勝れば勝るほど核兵器そのものの抑止力は減衰して行ってしまう。現状の革命部だと、核兵器を撃たれるリスクと、核兵器を撃たれる前に処分できる可能性がバランスとれてないんだよなあ。革命部の内実って、非合法じゃなくちゃんと正規のルートで資材が調達されたのを考えれば、CIAなんかのアナリストによって戦力から何から丸裸にされても何もおかしくはないし。
勿論、攻撃を仕掛けるにはリスクが高いとイメージを強化するためにこそ、ラストみたいな強行手段を仕掛けたんだろうけれど。それでも、猿島なんかで独立宣言してしまったのは、こうして見ると見通しが甘いように見えるよなあ。本当に潰そうと思うなら、たとえ核兵器のボタンを握っていようとも、無数の弾道ミサイルを保有していようとも、猿島程度の防衛拠点とたった五人の人員だけなら、何とでもなりそうな気がする。
この「気がする」は無視できない要素ですよ。重要な局面だろうとこの「上手くいく気がする」で動いてしまう例は決して珍しくないんだから。
それに最悪ね、誰が攻撃したか分からないようにさえすれば、カウンターとして核兵器を叩きこまれるリスクも殆ど無くて済みますしね。猿島に篭ったテロリストが、地球ごと自爆も辞さないような狂人でさえなければ。そして事実はどうあれ、そんな狂人が居るなんて信じて怯えて手をこまねくような弱気な国家というのは、少数派でしょうし。
作中でもロシアの情報機関をはじめとして何度も語られた、各国の非合法工作活動のえげつなさを想像できたら、莉音たちの現状は丸裸で路地裏の行き止まりに篭っているようにしか見えなくなってくる。
こうしてみると、原子力潜水艦という極めて不可侵に近い場所を世界にケンカを売る国家として選んだ【沈黙の艦隊】はやっぱり大したもんだわ。ほぼ完全に一方的だもんなあ。

平穏を拒んだ彼らの至る結末は、はたして無常の悲劇か無益な喜劇か。何れにしても、みんな幸せに暮らしましためでたしめでたし、だけは想像できないなあ。

シリーズ感想