棺姫のチャイカIII (富士見ファンタジア文庫)

【棺姫のチャイカ 3】 榊一郎/なまにくATK 富士見ファンタジア文庫

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「む……胸!?」「先ずそれかよ」「豊胸。秘訣。是非教授」チャイカの“捜し物”を求めて旅するトールたちは温泉で休んだのも束の間、英雄がいるという『帰らずの谷』でジレット隊と衝突、全員崖から落ちてしまう――
ふーん、そうかー。今回のお話のテーマは『信頼』。そもそも今回は編集さんから絆が深まるお話にしましょう、みたいな提言があったらしく、それを踏まえて一本のストーリーを構築したそうですが、絆とは人と人との繋がりであり、その繋がりとは信頼を以て成立する。ならば『信頼』、すなわち人を信じるという事柄はそもそもどういうものなのかを、トールの視点に寄って掘り下げていったのが今回の話になるわけですな。
そも、人を信じるという行為はその人個人に立脚するものであり、ぶっちゃけ信じられる相手側からすると何の関係もないんですよね。それが、何故だか『信頼』が裏切られる結果となると、その責任は信じられていた人に押し付けられてしまうケースが多々見受けられる。その人を信じた自分の責任については、まるで存在しないかのように扱われてしまう。でも、それって思考停止の無責任じゃない? というのが、お話の意図するところですな。
「責任ある信頼」。今回の話のテーマであり、また作者の初めての長編シリーズ【スクラップドプリンセス】の没になったタイトル案でもあったというそれをして、榊さんは原点回帰したのかもと仰っているけれど、改めて作者のこれまでの作品を振り返ってみると、とりあえず自分の読んだ範囲での話ですけれど、物語の主格をなす登場人物たちは、皆常にこの「責任ある信頼」、人を信じるとは相手に預けちゃうのではなく、自分で背負うこと、を実践していたような気がします。或いは、それが出来ていなかった人がそれを身につけていく、という形の成長譚もあったよなあ。【イコノクラスト】や【ストレイト・ジャケット】も言わば「責任ある信頼」を身につけ構築していく話だったのかもしれません。
とはいえ、そんな常に物語の根底の柱の一本としてあったそれを改めて主題として話を書いたことは、やはり原点回帰というんでしょうな。
でも、実際はなかなかトールみたいな境地まで、信頼を深める事は難しいですよ。信じていた人に裏切られた時、それを諾々と受け入れられるのか。多分、最初から疑いもせずに信じてしまった関係なら、耐えられないんだろうな。何度も疑い、疑念を募らせ、それでもなおこの人なら信じられる、と覚悟した末なればこそ、たとえ裏切られてもそれを自分の判断の結果であり、責任だと受け入れられるのでしょう。
でもね、人に信頼をよせるのにいちいち「覚悟」まで要するなんて、やっぱりあんまり無いんですよね。人を信じるって、多分とても簡単な事なんだろうと思う。簡単で、そして何ら難しい事ではないのだ。だから、わざわざ「覚悟」なんて踏まえる必要を見出す人は少ないのでしょう。だからこそ、信頼を相手に押しつけず、自分だけで背負える人も少なくなってしまう。それに、裏切られ方によっては「覚悟」なんて容易に吹き飛んでしまいますものね。
トールだって、もし彼が見せられた裏切りが自分だけでなく、アカリをもすら破滅させるものだったとしたら。かつての八英雄の一人が狂う原因となった裏切りのように、それが自分以外の周りの親しい人をも巻き込む手酷いものだったとしたら、果たして受容できたかどうか。
うーん、でも類が他人にまで及ぶのなら、それは自分一人で背負う範囲を超えているのかもね。自分が信じた結果、報いを自分だけが受けるなら兎も角、周りの関係ない人間にまで類が及んだとしたら、それは信頼した自分が落とし前をつけなきゃいけないのかもしれないな。それが、信じた責任を果たす事とも言えるようにも思える。

うん、何にせよテーマをガリガリと掘り下げる分、じっくりと腰を据えて読めたのが良かったのか、何やら味わって楽しめたな、今回は。
案の定、フレドリカが手綱をとって操縦はできないものの、何とかパーティーの戦力となってくれそうな見通しは立ったのは、通常の態勢でのジレット隊にはどう足掻いても太刀打ち出来ない事が今回の戦闘で立証されてしまったトールたちからすると希望の光だよな、これ。いずれジリ貧になるとわかっていただけに、やっぱりフレドリカの参戦は大きいわ。ただその分、ボケ娘が三人になってしまい、唯一のツッコミ戦力であるトールの疲労度がパねえ事になってしまっているのは、これはもうご愁傷様としか言いようがない。ご苦労様である。圧倒的劣勢、ってやつだな。ある意味、対ジレット隊よりも分が悪そうだw

しかし、ツッコミ役のトールがいない場面だと、意外にもチャイカが抑え役に回るんだな。ってか、アカリってトールがいなくてもフリーダムなんだな、この義妹。でも、わりとあからさまに嫉妬やら自己アピールやら可愛い反応も見せてた気がする、今回。チャイカも反応見てると結構トールのこと意識しているみたいだし、のちのち甘酸っぱい展開とかもあるんだろうか。ちょっとは期待したいなあ、うん。

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