影執事マルクの契約 (富士見ファンタジア文庫)

【影執事マルクの契約】 手島史詞/COMTA 富士見ファンタジア文庫

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ついに暴走を始めた“アルス・マグナ”は瞬く間にロックウォールを壊滅させ、さらに周囲をのみ込んでいった。“空白の契約書”は徐々に失われ、契約者でなくなったマルクだったが、彼の求めることはたったひとつ。「揺り篭に囚われた我が主、エルミナを救い出す!」マルクの想いに仲間たちが応える。その行く手を遮ったのは、“アルス・マグナ”が創り出した過去の自分たちだった!?マルクとエルミナ、そしてそれぞれの想いがたどり着く未来は?影執事、最後の仕事が幕を開ける。
ヴァレンシュタイン家の使用人が揃えば、たとえ一国の軍隊が相手でも負けない。いつだったかマルクがそのような大言壮語を吐いていたけれど、まさか実際に軍隊相手に大活劇をやってしまうとは。しかも、本当に圧倒的じゃないか!!
軍隊とは言っても現実のものではなく、アルス・マグナが過去の記録から喚び出してきたその時代時代の軍隊なのだけれど、立ち向かうマルクたちからすれば現実の軍隊と何も変わらないわけで、本当にド派手な対軍戦闘になったよ、クライマックス! でも、本物の人間ではなく過去の幻影が相手なので、手加減せずに全力で薙ぎ倒せるという意味では、ヴァレンティイン家のフルスペックを発揮できたのですから、盛り上がりを考えるならなるほど素晴らしいセッティングでした。それでも、契約者たちに能力使用のタイムリミットが設定されてしまったあたり、対軍ですら力の差が隔絶してたんだなあ。
マルクを含めてこいつらパねえと思い知らされたのは、たとえ契約を失って普通に人間に戻ったあとでもみんな全然弱くなってないでやんの、なのですよ。あんたら、変わらず一騎当千のまんまじゃないか!! クリスやドミニクの例からも、別に契約者じゃなくてもむちゃくちゃ強い人はべらぼうに強いというのはわかっていたけれど、なるほど契約者の中でも最高峰と謳われた彼らの実力は、決して異能力によるものじゃなかったんだなあ。

いつもの使用人メンバーに加えて、ペインたちのような契約だけ交わして立ち去っていた人たちまで応援に駆けつけての総力戦。総力決戦。出し惜しみなしの全力全開フルバースト戦闘。
中世から現代にかけての軍隊が文字通りに蹴散らされていくさまは痛快の一途。ただ、“空白の契約書”が力を失っていくことで、能力もまた次々と失われていくという時間と使用頻度に伴って戦力が加速度的に減少していくという過酷な戦況は、まさに手に汗握る展開。絶体絶命のピンチにペインたちまで駆けつけてくれたのには、燃えたなあ。
リーンまでもが、あんな形で協力してくれるとは。ただの変身能力の持ち主だった彼女の力が、ああいう形で活かされるとは想像していなかっただけに、なんか妙に嬉しかった、うん。

一方のエルミナもただ眠りに囚われる無力なお姫様ではおらず、ちゃんと自力で力を尽くして脱出を図るさまは、さすがは皆のご主人様だと惚れぼれ。彼女を助けるクーフ・リンがまたかっこいいんだわ。元々なにかとお茶目な性格を垣間見せていた精霊でしたけれど、愛嬌と精悍さが相まった素敵なワンコでしたよ。
本当に全員に全員、見せ場があってラストバトル、これ以上無く堪能させていただきました。燃えた、痺れた、面白かったーー!
そしてオチはやっぱりオウマだったんですね。こいつ、存在感が無いから知名度なかったけれど、実力だけで言うなら四強すら上回ってたんじゃないか?
でも、存在感ないんだよな。“アルス・マグナ”からすら見逃されてたというのには吹いたw

エピローグは大団円、だけれどそれぞれの道を歩み始めるという結末はちょっと寂しかったな。オウマ、最後の最後にイラストに顔出ててよかったね。って、こいつ相当にイケメンじゃないか。ジェノバ、結構いい男捕まえたよなあ。セリアも何だかんだと上手いことアルバとやってるみたいだし、グレリオもやっとアイシャとちょっといい雰囲気になれたみたいで、色々と報われたなあ、うん。
一番意表を突かれたのが、カナメでした。何だかんだとエルミナとマルクを共有するかと思ってたのですが、マルクもカナメもそのへんはケジメをしっかりと取る人間なだけに、なあなあで関係を続ける事はしなかったんだなあ。その代わりに、彼女の隣にするりと滑りこんでしまったのがドミニクというのは、すごくびっくりした。あの当初からのドミニクのカナメへの奇妙な態度って、あれ本気だったのか! ドミニクはエルミナたちの母親との哀切極まる失恋話もあったし、カナメとマルクの仲が深まっていくのを見ても特に反応を見せてなかったので、彼のカナメへの変な態度はなんだったんだろう、と首を傾げる事もあったのだけれど……なるほど、彼女にはそういう心境だったのかー。
いやあ、ドミニクがカナメに接近する展開って、もっと拒絶感とか感じるかと思ったんだが、何か自分の中でもすんなりそれもありなんじゃないかな、と思えた事にびっくり。まあ考えてみると、ドミニクがこれまで味わってきた思いを考えるとね、彼には幸せになって欲しかったし、同じ辛いけれど幸せな失恋をした者どうし、ドミニクならカナメの相手でも許せる、と思えてしまったんだろうなあ。
ちなみに、ラストのイラストではカナメ、以前エルミナから送られた和服をみにつけてるんですが、これがびっくりするくらい似合ってるんですよね。短く揃えたおかっぱ髪も相まって、物凄く可憐。カナメってやっぱり侍女服よりも和装が似合うんだー。

心ひかれてしまったのが、後書きに書き添えられた夢オチの、みんなが離れ離れにならずに揃ってヴァレンシュタイン家の使用人として家族として暮らしていく情景。これはこれで理想的な、それこそ夢の様な大団円だったんだよなあ。掌編として読ませてくれただけでも、有りがたかった。言わば、2つのエンディングを見れたようなものですしね。

なんか結局微妙にマイナーなまま完結してしまった本シリーズですが、個人的には最後まで最高に面白かったです。バトルにラブコメ、ドタバタコメディとどれも水準高く、埋もれてしまうのが勿体無いくらい。作者の作品にはこれからも最大の期待を持たせていただきたいと思います。どうやらもう新作の製作にも掛かっているようですし、ガガガ文庫の方からも出すみたいですし、うん、どんどん読みたいなあ。
素晴らしい作品、ありがとうございました。

シリーズ感想