クーデレな彼女とキスがしたい (一迅社文庫)

【クーデレな彼女とキスがしたい】 水口敬文/たろプン 一迅社文庫

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悪趣味なくらいのホラー・グロテスク好きとクールな態度で他人を寄せつけない雪穂。しかし、和希は彼女の意外な一面を知り衝動的に告白し、驚くほどあっさり雪穂の彼氏になれた。しかし肝心の雪穂は恋人関係というのがどういうものか理解しておらず、いつものマイペース。和希は「雪穂の彼氏としてキスくらいはしたい!」と本当の意味で雪穂の恋人になろうと頑張るのだが、ホラー苦手の和希とホラー大好きの雪穂では接点がなく、どんな努力も空回り。それでも少しずつ互いのことを理解できはじめ距離が縮まり始めた矢先、「ずっと前から和希が好きだったのに…」と、和希の幼なじみでもある藍那の態度がおかしくなりはじめ…。

好みとは違う。趣味が合わない。相性の悪さ。価値観の違い。そもそも彼女は和希をまだ異性として好きなわけではない。これだけの障害があってなお、和希の「好き」という気持ちは二人の関係を繋ぎとめ、徐々にだけれど太くしていく。
和希が偉いのは、彼自身雪穂との相性の悪さに内心で悩んだり迷ったり怯んだりはしているんだけれど、それを一切雪穂には見せないところだろう。実際は顔や態度に滲みでてしまっている部分はあるんだろうけれど、少なくとも見せまいとする努力は欠かさないし、其れ以上に自分の雪穂を好きだという気持ちに対してだけは一切疑いを抱かず、雪穂に対して誠実に一途で在り続けている。この最初から最後まで一切ぶれなかった和希の努力は賞賛に値すると思うのだ。
対して、雪穂の方も人の気持ちの機微に疎い部分はあっても、彼女もまた和希の差し向けてくる誠実さを決して裏切らない態度に終始している。彼女自身、自分が人の機微に疎くややも常識から外れているという自覚があり、それを変える必要性は全く感じていないものの、そうした自分の在り方が和希を苦しめる事に関してだけはちゃんと否と考え、和希への気遣いを欠かさないんですね。
そうしたお互いの歩み寄りが、徐々にしかし着実に二人の関係を進展させていき、やがて雪穂に和希への恋心を芽生えさせていくのである。好感度高いのは、和希にしても雪穂にしても独り善がりにならずに常に相手を理解しようというスタンスに終始していたところでしたね。これだけお互いの趣味や性格の食い違いや儘ならない相性の悪さが続出すると、ついつい内に篭って自分一人の考えに迷走してしまい、相手のことを考えているつもりで自分の思い込みに縋って変な方向に行ってしまいがちになるものなんだけれど、雪穂と和希についてはそれが断固としてなかったんですよね。歩み寄るというのは、相手と自分をしっかりと見ていないと出来ないこと。相手しか見ていなかったり自分しか見ていなかったりしたらできないことなんだということをわかっておくべきなんだろう。
しかし、恋愛感情ゼロからはじまるお付き合いというのも素晴らしいですね。殆ど無関心と言っていい態度だった相手が徐々に親しげな態度を見せ始め、やがて好意らしきものをチラつかせてくれた上で、ついにはハッキリとデレてくれる。最初からデレ状態だったり、急に好感度全開にカンストしてしまうような展開だと、この段階を踏んで仲良くなり、恋愛感情が芽生えてくるという特別な過程は楽しめないわけですしね。特に、これだけ相性の悪い相手同士でありながら、ただ好きという感情だけで手繰り寄せたものならばなおさらに。
暖簾に腕押し、糠に釘な状態だった雪穂から、段々と手応えがうまれはじめ、ついには思いっきりデレてくれた時のニヤニヤマックスな展開ときたら、いやはや思ってた以上に堪能させていただきました。

その分、幼馴染のガチなヤンデレっぷりには背筋が寒くなりましたけど。いや、なんちゃってじゃなくてガチだったよ、この娘。よくもまあ、この主人公逃げずに宥められたよなあ。普通は背中向けて逃げるだろう、これ。よっぽど、それまでの幼い頃からの幼馴染としての関係を大切に思ってたからなんだろうけれど、ある意味手酷い裏切りだもんなあ。まあ、何とかこれ以上悪い展開にはならずに済むところまで山は超えたようなので良かったですが。
もう一人の幼馴染はよく意味がわからんかったぞ?

続編があるかどうかはわかりませんが、なかなか楽しめたクーデレでした。でも、クーデレってまだまだ発展の余地があるジャンルなんだろうけれど、ツンデレなんかと比べて難しそうだ。