B.A.D. チョコレートデイズ(2) (ファミ通文庫)

【B.A.D. チョコレートデイズ 2】 綾里けいし/kona ファミ通文庫

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『B.A.D.』な日常と過去に迫る短編集第2弾!

「小田桐【おだぎり】君の好みは、ビキニだよ」繭墨【まゆずみ】あざかの手紙に水無瀬白雪【みなせしらゆき】は首を傾げた。一族の復興と、亡き兄を思い胸を痛める日々に降って湧いた疑問。彼が喜ぶビキニとはなんだろうか――『白雪は「びきに」を知らない』。私は繭墨あさとが怖い。その親友、小田桐勤【つとむ】も苦手だ。彼らの前で表情を作りそびれたあの日から、私の平穏な学校生活は不安に苛まれるものとなった――『私と異分子な彼と彼女と狐』。他2編で贈るチョコレートデイズ・セレクション第2弾!

短篇集というと、本編より軽めのコメディタッチな話になるものなんだけれど……【B.A.D.】だもんなあ。いや、まあ確かに本編に比べてみれば確かに明るめの前向きのコメディタッチな話なんですよ、だいたいどの話でも。ただ、あくまで相対的に、であって元々【B.A.D.】が底抜けにダークネスな話だけあって、それからやや明るめになったとしても、一般的な観点からしたら暗めの話だよなあ。
うん、でもそれでもどれも前向きに終わっているあたりは、ちゃんと短編集しているのかもしれない。


『白雪は「びきに」を知らない』
び、ビキニも知らないのか! というかこの人、水着自体知らないっぽいぞ!? 浮世離れにも程がある。さすがは小田桐くんなんかに惚れ抜いてしまうだけある。件の静香の件もあって、もしかしたら小田桐くんはヤバい系の女性に好かれるたちなのかとも疑ったのだけれど、白雪さんは世間知らずではあるけれど人間的にはとてもちゃんとした人なのでどうやらその可能性はないようだ。単に、男の趣味が悪いんだな、というほど小田桐くんが悪い男とは思わないけれど、彼は静香やあさとのお陰でいい具合に人間としてひしゃげちゃってるからなあ。
そんな、ある意味人として終わっちゃっている男に惚れてしまった白雪さんですが、この人の偉いところは決して小田桐くんの存在に依存しているわけじゃないところなんでしょうね。彼のお陰で異能の一族の当主として押し殺していた少女としての弱さを取り戻してしまった彼女ですが、その弱った部分を小田桐くんで穴埋めしようという心づもりは全くない。それどころか、この短編では敬愛する兄に裏切られ挙句に喪ってしまった心の傷と、取り戻してしまった弱さを白雪さんは自らの力で克服していくのだ。取り戻した弱さによって、閉じ込めていた思い出を掘り返し、兄との関係が痛みと絶望だけで彩られたものではなく、確かに温かいもので結ばれていた時間があったのだという大切な記憶を手に入れる。そうして、彼女は硬くも脆い殻で覆われた異能の一族の長としてではない、弱く柔らかくも内に芯が通り、折れる事も砕けることもない本当の強さを持った人間へと自ら成長していっているのだ。
あの、小田桐くんを叱咤しに現れた白雪さんは、こうして織りなされて言ってたんだなあ。
そんな白雪さんの成長を支えていたものこそ、小田桐くんへの思慕なのだけれど……叶わぬ恋になってしまうんだろうか。白雪さんには幸せになって欲しいのだけれど。

『テディベアに願うこと』
繭さん、そんなに「神」のこと苦手にしてたんだ。あれが絡むと普段では絶対に見られない繭さんの一面が垣間見れて面白いw 繭さん繭さん、動揺しすぎ、ビビりすぎ(笑
さてもこれは、終わりが爽やかすぎて本当に【B.A.D.】か、というレベル。幸仁の人の良さ、純真さがまっすぐに良い結果を手繰り寄せたような話だったなあ。微妙に報われなさそうな、幸薄そうな、虐めたくなるような幸仁のキャラクターは、当人からするとご愁傷様としか言いようがないのだけれど、本作でも数少ない癒し系なので、どうにかそのままで居て欲しい。


『七海と雄介の危険な一日』

こうしてみると、雄介って本当に人間として人生終わってるんだなあ。狂気と正気の狭間をふらついている彼だけれど、彼に関しては正気に戻ることは決して幸せなことじゃないんですよね。むしろ、正気に帰れば自分がほんとうの意味で壊れてしまうことを彼は自覚している。狂気に溺れていることが唯一彼がまともで居られる道だなんて、それこそ狂った話である。
そんな、とても人間の世界で生きていけなさそうな男とガチンコで接しているこの七海さんという小学生は何者なんだろう、ホント。事情は何も知らないはずなのに、感覚的に七海って雄介の狂気と正気をまるごと受け止めている節があるんですよね。その上で嫌いまくってるようなんだけれど、少なくとも彼の狂気と正気をより分けようとは一切していない。それもこれも、雄介という人間として区別なく丸ごと捉えている。小田桐と繭さんを除けば、この七海こそが雄介の理解者、というのも不思議な話だ。これだけお互い嫌ってるのにねえ。まあ、嫌っている割に憎みあっちゃいないし、わりと一緒に行動するし、罵倒の応酬とはいえ無視せず喋っているあたり、実際どうなんだろうと首を捻りたくなるところだけれど。


『私と異分子な彼と彼女と狐』

高校時代の小田桐くんとあさとと静香の過去話。お、小田桐くん、全然キャラクター違うじゃないか。この頃、本当に普通の主人公みたいな子だったんだなあ。それが、こんな酷い有様になっちゃって。人間マジ変わってるし。……これ見てると、あさとが仕組んだとはいえ、小田桐くんを完璧に破壊してしまったのってどうみても静香だよなあ。この女、怖すぎ。なんでこんな二人に関わっちゃったんだろう、彼は。そこまで悪いことしたんだろうか。なんかもう、かわいそうになってきた。自業自得と言える要素なんて何処にもないのに。