子ひつじは迷わない  うつるひつじが4ひき (角川スニーカー文庫)

【子ひつじは迷わない うつるひつじが4ひき】 玩具堂/籠目 角川スニーカー文庫

Amazon

“なるたま”こと成田真一郎と佐々原は、会長命令で一緒に泊まり込みアルバイトにやってきた。そこは“万鏡館”という名前とは裏腹に一切鏡がなく、中も外も全て白と黒で統一された不思議な世界。なぜかそこから仙波も現れ―!?館の主人である美少女が「鏡を見る」ことを禁じたワケは?そして彼女の不可解な言動に隠された一族の秘密とは!!抜け出せない館で次第に疑心暗鬼に陥る子ひつじたちを救うため、仙波が館の謎に挑む。
子ひつじ、まさかの長編館もの。学園日常ミステリーという体裁だっただけに、思い切った舞台転換だった。その甲斐あってか、思いの外じっくりとなるたまと三人のヒロインズ、仙波、佐々原、岬先輩との人間関係の距離感を掘り下げられたのではなかろうか。と言っても、一方的に外側から彼ら彼女らの関係を観察して捉えていく、という作業ではなく、あくまで彼女たち自身がなるたまと自分との関係や距離感を改めて見つめ直し、どこか感覚的、なんとなくで維持してきたものについて、自ら直視し考え、自覚的に彼との関係は今どうなっているのか、自分はどうしたいのか、これからどうしていくべきなんだろう、という具体的な見地や将来の方向性を見出す形として整えていたのは、この【子ひつじは迷わない】らしいアプローチだなあ、と感心させられた。
尤も、肝心のなるたまはその辺りまったく意識もしていないのはご愁傷様、というべきか何なのか。この子はもうちょっと周りの女の子に自分がどう見られているのかについて意識すべきだよね。深く考えていないものだから、例えば岬会長にあんな冗談かませちゃうわけで……。
なるたま、絶対自分がどれだけ特大の地雷踏みぬいたか、わかってないんだろうなあ。今回、佐々原と仙波の二人を中心に描かれていたので、岬姉については一先脇に置かれたままだったのですが、何気に一番とんでもない変化を迎えてしまったのって岬姉なんじゃないのかな。
あの一件以降のらしくない大人しさを鑑みると、ねえ。これまで、会長はなるたまを弟分としてしか見ていなくて、少なくとも異性としては全く意識していなかったはず。なるたまがエラいことになった時にめちゃくちゃ動揺してキャラ壊れまくってたのを思い返すと、無意識ではどうだったかはわからないけれど。
でも、あのなるたまの仕出かした一件は、岬姉に自分と彼が単なる男と女である事を意識させるには十分だったわけで……直後の無反応にすら見えた放心や、なるたまの言動へのマジギレ、その後の妙に距離を置いて伺うような、考えこむような様子を見てると……ねえ?
これ、本当に次回以降、とんでもない事になるかも。

と、竹田岬関係のお楽しみは次回以降に取っておくとして、今回の目玉は「ついに仙波、デレる!?」である……ねーよ!!
いや、まあうん、相対的に見たらこれ……デレた? と言っても良いのかもしれないけれど、あまりに微細すぎるよ!! ってか、これでデレって、これまでどんだけなるたま嫌われ排斥されてたんだよ、という話ですよね。
極端に言うと、仙波がやっと自分がなるたまに影響されてちょっと変わりつつ在る、というのと彼のケースによっての有用性を認めただけで、なるたまのことを意識したわけでも、彼と打ち解けたわけでも、彼に好意を抱いたわけでも見なおしたわけでもないという……やっぱり厳しいな、おい!
今更ながら、どうしてこんなキツい娘につきまとうのか、なるたまのM度が気になるところ。

一方で、佐々原の方はもうちょっと自分となるたまとの関係性の名付けについて深く悩んでいた様子。誰かさんが余計なことを言ったお陰で、万鏡館という精神を揺さぶる特殊な環境も相まって、なにやら思考が悪い方へ悪い方へと流れてしまう始末。あの子からしたら、別に意地悪なんかじゃなくてちゃんと考えなさいよ、という誠実な忠告だったのかもしれないけれど、タイミングが悪かったんだろうな。
それに、結果としてなんとなく維持してきたなるたまとの距離感について、自分を見つめ直してちゃんと答えを導き出そうとできたみたいだし。結論が出たかは、ちょっと判断しづらいですけどね。でも、あそこまで考えとらえてしまった以上、今まで通り、とはいかないんだろうなあ。佐々原ってあれでヘタレたところはなく、それどころか思い立ったら動いてしまうような行動力もあるので、気づいた以上ちゃんと確かめなくては気が済まない形になりそうな……。

会長の件もあるし、これ次回結構激しく動くのか、もしかして?

連続殺人事件が起こるわけでも、誰かの悪事が暴かれて破滅したりするわけでも、最後に館が炎上してしまうわけでもないのだけれど、人間の心理を一枚一枚薄皮をひっぺがし、別のところにはりつけるみたいな微細でとろけるような没頭感を得られる不思議なノリの話で、なんだかんだと普段と雰囲気違うけれど面白かったな。

会長がおとなしかった分、余計に怪しい雰囲気で進んだ館編でしたが、その分ひとりで妹メイドことサトウが孤軍奮闘で賑やかしてくれて、楽しかった。仙波との仲も思ったよりも悪くなかったんだな。というか、仙波が意外と妹に甘かったのには驚いた。わりと厳しい、辛辣なイメージあったので。サトウもまあ、お姉ちゃん好き好きだのう。

1巻 2巻 3巻感想