神さまのいない日曜日VI (富士見ファンタジア文庫)

【神さまのいない日曜日 6】 入江君人/茨乃 富士見ファンタジア文庫

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封印都市をタイムループから解き放ち、3年4組を助けることに成功したアイ。しかし、同時にアリスの願いに反して彼を救ってしまったことで、2人はすれ違ってしまう。「私にだけ見えていた夢が、なくなっちゃったんです…」アリスへの想いと引き替えに失った、墓守としての夢。ひとりぼっちで途方に暮れるアイだが、突如、封印都市に魔女旅団と名乗る異形の集団が現れ―!?「罪人を裁きに来ました―ここに魔女裁判を開廷する!」世界を救う罪を裁くという魔女旅団。彼らの狙いはアイなのか?そして、すれ違ったアリスとアイの想いの行方は―。
前回、自らの「世界を救う」という夢を「裏切り」、アリスを助けてしまったアイ。これまでの失敗は、言うなればアイの力不足であったのに対して、前回のそれは文字通り自分の夢を裏切ってしまった。これまで彼女が歩んできた道を全否定するものだった。これまでアイが世界を救うためと信じて選んできた幾多もの選択、他者の想いの破壊、何より実の父を埋めた過去をけたぐり捨てるものだったのだ。
これまでなら、失敗しても失敗してもめげずに立ち直り、世界を救うということへの見識を改め、更新し、さらに夢を高みに置いて邁進を続けていたアイをして、「裏切り」は二度と立ち直れないほどの挫折だったのだろう。もう、この巻のアイは気力を失い、希望をなくし、諦め、絶望し、完全に腑抜けになってしまっていました。自らへの背信。それは彼女の意思をズタズタに傷つけ、その傷が時間の経過や周囲の人間たちの温かい思いやりによって癒されていく事に気づいて改めて傷つき、抜け殻のようになって新たな生活を構築していく封印都市の皆の間でふらふらと生きるアイ。
その生きる屍のようなアイの姿は哀れなんだけれど、ディーやユリーたちがそんな今のアイに安心を覚えているのもわかるっちゃわかるんですよね。世界を救おうとしているアイは、はっきり言ってまともな人間とはかけ離れた存在だった。聖人とも狂人ともつかない、恐ろしくも危うく何もせずに見ていられない存在だったんですよね。ユリーがあれだけ過保護にアイを気にかけていたのは、何も親友の娘だから、今となっては自分の娘のように思っているから、というだけではなかったはず。それだけ、危うい存在だと感じていたからなのだろう。だからこそ、この巻ではユリーはわりとアイの事は放置してるんですよね。勿論、落ち込んでいるアイを気にして気遣ってはいるものの、ムキになっていたこれまでと違ってどこか余裕がある。それは、スカーとイチャイチャ夫婦生活送ってるのに忙しいから、とは思いたくないw
ディーの方も幽霊じゃなくなり、西の魔女という軛から解き放たれたからこそ憑き物が落ちたように忙しく走り回っているんだろうけれど、アイのことを気にかけている様子は普通の友達のようで、以前のように友達でありながら不倶戴天の敵という風な態度から変わってしまったのは、アイが変わってしまったから、というのも大きかったのだろう。

つまりは、アイは普通の「人間」になってしまったのだ。

これから彼女がどうするのか。夢に背を向けたままそのまま薄れていくのか。それとも、強引に自分の夢をもう一度たぐり寄せるのか。普通なら、夢を取り戻すというのが王道なんでしょうね。うん、今回も実はそうなると思っていた。
まさか、アイがあんなことをするなんて。あんな選択をするなんて。
けっこう、いやかなり驚いた。トドメじゃないか。諦めでもなく、絶望でもなく、否定の末の受容ではなく、アイはあの瞬間、自分の夢を捨てたのだ。自分の自分への裏切りを肯定した。
夢を取り戻し、意思を取り戻し、再び「世界を救う」ために立ち直るのではなく、「世界を救う」夢を裏切ったことを間違いではなく、アイという人間の在り方として肯定したのだ。
これまでのアイは死んだ。完全にトドメを刺され、息の根を止められた。アイの姿をした「世界を救う」生き物の抜け殻は、ただの人間のアイへと生まれ変わったのだ。

なんかもう、言葉にならない衝撃だった。
これって、アイ個人の話だけじゃなくって、アイが世界を救うという主題でこれまで積み上げてきたこの作品のこれまでを、放り捨てるってことでもあるんですよね。勿論、物語としては積み上げた事もそれをほうり捨てた事も踏まえて進んでいくので、無意味ってことでは全然ないんだけれど、それでも大胆なことをするよなあ、となんだか深呼吸してしまう。
世界は、この死者が戻ってくる世界は、新たに生者が生まれない神様に捨てられた世界はどうなるんだろう。
世界は、救われないんだろうか。このまま、ゆるりゆるりと滅んでいくんだろうか。
絶望感はない。だからと言って希望が湧くわけでもない。何となく、すごくフラットな気持ちでアイとアリスが選んでいく道を見ている自分がいる。
ふらふらと足取りもおぼつかないけれど、紐で繋がれて引っ張られていくみたいに、物語についていく。連れて行かれる。
どこに、この物語は一体何処に、自分を連れて行ってくれるんだろう。不思議な、作品だよなあ。不思議なお話だよなあ。でも、何がなんだか面白い。

とりあえず、スカーさんは誰か何とかしろ。なんだあの色ボケ人妻は。元の墓守だった頃の面影が全然ないんだが。というか、キャラ違いすぎ!! もっとやれ!!

シリーズ感想