超能力者のいた夏 (メディアワークス文庫)

【超能力者のいた夏】 寺本耕也 メディアワークス文庫

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都内の高校で問題を起こし長野県の私立学園に転入した高校生、高那聡。番長と呼ばれる小柄な少女・翼と出会い、成り行きで入った山奥の寮で彼を待っていたのは揃いも揃って役に立たない、不思議な能力を持つ寮生たちだった。寮生たちの能力に翻弄されながらも高那は新たな生活をはじめるが、不吉な予言は彼が重傷を負うと告げ…。―誰もが知り誰も見たことのない力、超能力。なぜ我々はそれを見たことがないのか?傷つきながらも前向きに走る、少年と少女たちの物語。
美味しい食べ物は文明的な生活の基本中の基本です。食が満たされていなければ、心の余裕も生まれません。という訳で、主人公が料理を振舞ったらコロッと拒絶の態度をとっていた面々が態度を翻したのも当然っちゃー、当然なのです。どうやら寮では全くまともなものが食べれてなかったみたいですしね。まかり間違えれば半額弁当争奪戦にでも繰り出さなければ生き残れない状況だったのではなかろうか。そう言えば、弁当争奪戦で役立つ能力でも持ってなかったんだろうか、この人達……全然無いっぽいな。
持ち得た能力が自然消滅するまでの期間を穏やかな環境の中で過ごさせようという意図で作られた私立学園。そこには数多くの超能力者たちが集められているのだが、その中でも普通の生活を脅かしかねない能力の暴走を起こしてしまった超能力者の問題児たちが集められた寮こそが、高那が入寮することになった場所である。
と言っても、みんな人間性に問題があるわけではなく、件の暴走もみんな話を聞いてみればそりゃあ大迷惑でドエライ騒ぎになっているものの、被害も何事もなく終われば笑い話で終わるようなものばかりだ。幾人かの例外を除けば。
主人公の高那は、以前の学校で大きなトラウマを負った事で、いやトラウマというよりも自分を保つことのできないほどの後悔、というべきか。兎も角、前に進む勇気も気力も喪ってしまった彼にとって、その人生の多くの痛みや喪失を抱えて生きている超能力者たちは、決して他人事ではなかったのだろう。彼自身の性格は、どちらかというと軽薄でお調子者っぽい様子が垣間見えるくらいで、別に人間関係に生真面目だったり無闇に世話好きだったり、綺麗事が大好きなお行儀の良い優等生とは程遠い少年だ。
それでも彼は自分の痛みを忘れておらず、他人の痛みと向き合える。それだけで、十分なのだ。

超能力者だからと別の生き物だと捉えるのではなく、彼はあくまで周りで起こる問題を友達の事として向き合っていく。そして、一度逃げ出してしまった自分の後悔にもう二度と背を向けまいと、危険の中にがむしゃらに飛び込んでいくのだ。それは若気の至りではあるけれども、後悔に押し潰されないために必要な無理であり、同時に気になる女の子の為に頑張ってしまう男の子の可愛い、しかし覚悟を決めた意地なのだ。
カッコいいよ、高那くんは。こういう男の子は、好感度高いです。番長がコロッと行ってしまったのも、まあ仕方ないんじゃないだろうか。
ただ、翼と高那の仲が深まる過程には、もう1エピソードは欲しかったかなあ。お互いが気になる相手から、確かに好意を意識しあう関係になるまでの間が殆どなかったもので、いつの間にか高那がそこまで翼に傾倒していたのか気が付かずに、かなり居を突かれたものですから。もうワンシーンくらい、二人きりで交流を深める日常の場面があったらねえ。
ともあれ、直球勝負の青春劇としては、心すくような良作でした。この作者の作品はもっと追いかけてみようかな。