断章のグリム〈16〉白雪姫〈上〉 (電撃文庫)

【断章のグリム 16.白雪姫(上)】 甲田学人/三日月かける 電撃文庫

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甲田学人が描く悪夢の幻想新奇譚! いよいよ最終幕に突入──!!

「『普通』なんて、いつか壊れて、ここに戻って来る。蒼衣ちゃんは『王国』の国民なんだから」
 握り拳を震わせて言いつのる葉耶。蒼衣を苦しめる、かつて蒼衣が破滅させた少女の幻影。だが、蒼衣は<泡禍>と出会うまで、葉耶の存在すら忘れていた。過去に本当に起きていたことも覚えてはいなかった──。
 そして、主の帰ることのない神狩屋の書斎で見つけたスクラップブック。そこに記されていたのは、葉耶にまつわる過去の真相。そして──。
バタバタと書き割りが倒れるように、これまで真実と思い込んでいたものが翻っていく。過去の報道などに記されていた葉耶の死の真相は、蒼衣が覚えていたそれとは全く違っていた。ならば、蒼衣の偽りの記憶はなんだったのか。それに、蒼衣の断章は葉耶の死のトラウマこそが力の根源だったはず。あの記憶が間違いだったというのなら、蒼衣の能力は一体何によって決定されてしまったのだろう。
おそらく、真相をかなり深い部分まで探り当てていただろう神狩屋は、もはや完全に狂気に呑まれ、己が死を願うがゆえに死を撒き散らすことを厭わない人の形をした災厄と化してしまっている。
自ら真相を探ろうにも、蒼衣も雪乃もバックアップしてくれる大人が居なくなってしまったが為に、ろくに情報も与えられず行動を取ろうにも動けない状態だ。特に、騎士としての能力を自負していた雪乃にとって、神狩屋が居なくなった途端に自分が大人の支援がなければ何もできない子供に過ぎなかったことを思い知らされて、切歯扼腕するハメになっている。
何もできない、何もさせてもらえない。放っておいても早晩破綻しかねない断章の暴走を抱えている蒼衣にとって、現状は破滅への直滑降だ。本来、彼の記憶を探る件についてはもっと慎重に行うべきだったんだろうし、暴挙の誹りを受けても仕方のない行動なのだろうけれど、今の二人にとって真相を追う事は最善にして唯一の出来る事だったんだろうな。暴挙が最善であるという時点で、二人の、特に蒼衣の置かれた状況がもはや救いようの無い段階にまで進んでいると言えるのだろう。
その結果、辿り着いた葉耶の実家で遭遇した<泡禍>と、ようやく浮かび上がってきた蒼衣の本当の記憶の中にあった光景は、事の真相がとめどなく根の深いものだったことを示していたと言えよう。おかしいのだ、明らかに。あの家で<泡禍>に遭遇するのも、蒼衣の記憶の中に「彼女」が存在している事も。
状況はこれ、蒼衣の問題だけじゃなくなったのかもしれない。<泡禍>という悪夢に纏わる事象の根底に、事は関わっている可能性が出てきてしまった。これ、場合によっては全滅エンドどころじゃなくなるかもしれないぞ。夢は何時か覚めるもの。泡のように消えるもの。世界を夢に例えるのなら、その世界は夢から覚めたときにどうなってしまうのか。全滅エンドで終わればまだマシ、なんて絶望どころの話じゃないですよね、うん。
神狩屋のロッジのもう一人のメンバー。前巻のラストに出てきた入谷さん。人格に問題のあるかのような印象を事前には見せていましたが、実際はどうやら本来かなりまともな人だったようで。かなり摩耗しているとはいえ、まだ人間性はちゃんと保っているようですし、彼なりにロッジの子供たちのことは気にしているようでしたし。
ただ、この作品の場合、まともな人程悲惨な方、悲惨な方へと転がり落ちていくのが常であり、それはこの入谷さんもその点においては何も変わらない。この人、断章がまた凄惨を通り越してホラーの極みですよ。無茶苦茶な断章じゃないですか。これは狂う。普通は頭おかしくなる。年単位でまず持たない。それを、壊れかけとは言え十年以上保ってるんだから、元々からして相当に精神的に頑強な人だったんだろう。でなきゃ、断章が発現してから普通に恋人を作ろうという気にすらならないでしょう。恋人作ってる時点でどこか壊れてたんじゃないかと疑いたくなるところですが。
前々からこれ、映像化したらすごい作品になるだろうな、とか言ってましたが、無理です。映像化無理。しても、モザイクばっかりで何が映ってるか見えないアバンギャルドな作品になること請け合いである。少なくとも地上波では無理だろうな。というか、見る気しないわ、これは。読んでるだけでも気分悪くなりそうなくらいなのに。
ウジ虫はやめれーーww

最後の主題は白雪姫。誰が王子で誰が継母で、誰が七人の小人で誰が白雪姫なのか。多分、最初から最後は白雪姫だと決めていたのだろうから、ヒロインが雪乃という名前であったのも何らかの意味が込められている、と考えるべきなのかしら。現状、どちらかというとヒロイン役は蒼衣の方が強かったりするのだけれど。

シリーズ感想