探偵失格―愛ト謂ウ病悪ノ罹患、故ニ我々ハ人ヲ殺ス (電撃文庫)

【探偵失格 愛ト謂ウ病悪ノ罹患、故ニ我々ハ人ヲ殺ス】 中維/ぜろきち 電撃文庫

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「もっと、ボクを楽しませて?」
奇妙で巧妙で軽妙な推理奇譚登場。

 黒塚音子といえば、ひとたび登場すればクラス内に警報が発され清めの塩が撒かれるという有様なのだけれど、僕・空野高にとっては愛の奴隷として信奉すべき「お姉ちゃん」。だがある日誘われた旅行にて、僕はその真の姿を見る。外法の象徴「不死姫」を擁し規格外の面子が集う「地獄檻」で発生する、館ものの必然の如き連続殺人事件。敵地の極みで起こる阿鼻叫喚の果て、「祟り神」と「探偵失格」とが見つけだすのは犯人か、それとも、百鬼外法(ひゃっきげほう)の成れ果てか?


うおおい! 超人神薙!? 【神々の蛮刀】なる異名まで引っさげて、鳴り物入りで登場したウルトラチートの切れ者軍人にも関わらず、その活躍はむしろ萌えキャラじゃないか、というくらいの役立たずっぷりに、吹いた。むしろエセエリートの望月執事の方がすごく役に立ってたぞ。あんた、カッコよく武器振り回してカッコつけて威風はためかせていたわりに、実際はお腹すいたって食ってたばかりじゃないか。しかも肝心なときにあれだし!! 
ただ、その役立たずっぷりがむしろ愛嬌になっているあたりに、彼の強みがあるんじゃないでしょうか。というか、この作品、館もので大正ゴシックホラー。魔女だの人体実験だの不老不死だの超人の軍人だの祟り神だの、というオカルト要素満載の上に探偵物ときて、そりゃもうほの暗く陰鬱で血なまぐさいドロドロの人間悪の極みを見るような気分の悪くなるような惨劇かと身構えて読みにかかれば、確かにストーリー仕立てや舞台設定、キャラクターの配置などはサイコミステリーそのものだったのだけれど……きゃ、キャラクターの性格がみんな愉快すぎる!!(笑
お陰で、コメディなんだかサイコなんだか、訳がわからない混乱をきたしながらも、そのネアカと言ってもイイ主人公とヒロインを始めとしたキャラのはじけっぷりは、困惑を通り越して段々と楽しくなってきた。
面白い。
そも、姉同然の人を殺人鬼に殺された、精神不安定なトラウマ持ちの主人公に、祟り神と忌み嫌われ呪われた性格破綻者の最終兵器というヒロインの組み合わせは、例えばGA文庫の【月見月理解の探偵殺人】みたいに、その交感もかなり弄れ捻くれ歪に折れ曲がった末の純愛になるのが常だったりするものだけれど、この二人、空野くんと音子先輩ときたら……お互いちょっとチョロすぎない?(笑
勿論、お互いの双方を必要とし、求める要素はちゃんとあり、その求める部分の食い違いに端を発したすれ違いなんかもあったりするのだけれど、この二人の場合、よくよく注視してみるとお互いのことが大好きという気持ちの方が色々とうっちゃって真理になっているものだから、もうお互いを求める必要性の論理的な帰結なんて、理性の縛りに過ぎなくて、言い訳の題材に過ぎなくなっているのだ。つまるところ、二人共からして青信号。好き好きと言って憚らないそれぞれの言葉が嘘偽りのない真意であり、歪みや誤解や代償行為なんかじゃない真実なのだと、信じるのを怖がっているだけ、だったりするだけなのである。だから、普通に好きだと言われたら、信じられなくても嬉しいし、信じたいと思って浮かれてしまう。相手から助けを求められたら、自分の領分を超えて突っ走ってしまう。時に、自分の使命すら二の次にして、相手との約束を至上の位置においてしまう。
なんてチョロいもの同士。ごちゃごちゃと寄り道してますが、ぶっちゃけ微笑ましいくらいに両思いのラブコメでございます、ご馳走様。特に音子先輩なんて、祟り神として表に裏に恐れられる怪物中の怪物であり、狂気の産物でありながら、その中身ときたら恋する乙女そのものじゃないですか。ネジ曲がっているどころか、無垢に素直ですらあり、中身を見たら、デレっデレでございます、ご馳走様。
幸いにも、悪意たっぷりの環境の中で生まれ育ち飼われているのかと思ってたら、思いの外先輩ったら普通に愛され恵まれているようで、ほっと安心一安心。いや、まさかあの人がそうだったとは、予想外にも程があったけどな!! ある意味、今回の事件の真相よりも吹いた!

ミステリーとしてはどうなのか、大したミステリー読みでもないので判断しにくいが、怪物化物人外妖怪の類に魔術妖術化け術似非科学というシロモノに彩られた物語としては、かなり真っ当にやってたんじゃないだろうか。少なくともズルはしていなかったはず。それに、事件の真相、ネタ明かしされるまでさっぱりわかりませんでしたし。何より、ネタ明かしされたときに「おおっ! なるほどそうだったのか!」と感じさせてくれたのなら、それで十分でありますよ。この事件の真相と、その見せ方にはちゃんとそれがありましたから、自分としては大変楽しめました、はい。神薙さん、大好きですw

音子先輩と空野くんの浮かれたチョロいもの同士の丁々発止は、とても楽しかったのでこれは続き読みたいなあ。
面白かったです、はい。