黒の夜刀神  1.キミのために僕ができること (富士見ファンタジア文庫)

【黒の夜刀神 1.キミのために僕ができること】 手島史詞/飯田のぎ 富士見ファンタジア文庫

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「シラキ、仕事か?お前出席日数危ないんじゃなかったか?」ストーンリバー学園に通う白毀廻は、悩んでいた。今日も伝聞社イーストウッド社から仕事を押しつけられ、授業を欠席しなければならない事態に陥っていたのだ。断ればいいだけの話だが、ヘタレな彼には到底無理な話。仕方なく仕事に出かけたのだが、そこで昔なじみの少女・月皎柊と運命の再会をする。美しく成長した柊にドキドキのカイ。しかし彼女は“契約者”たちに狙われていた。ピンチの少女を救うため、少年は勇気を奮い立たせる!異能者たちが暗躍する大陸を舞台に繰り広げられる、ボーイ・ミーツ・ガール・アドベンチャー開幕。
へえええ! いやはや、この試みは予想外、というよりもよく書くの許して貰えたなあ。しかし、これは面白い。前作【影執事マルク】シリーズに登場したキャラクター、さらには世界観そのものもそのまま流用した上での、パラレルワールド。それを、同じ作者が手がけるのだから、興味深い試みである。勿論、まったく同じだったら、わざわざパラレルワールドにした意味もない。主人公とヒロインは交代は大前提としても、作品の雰囲気そのものを意図して変化させてきてるんですよね、これ。前作がわりとアットホームで人間関係も緩く温かく、愉快なノリのラブコメ風味なところが強かったのに対して、此方は開拓時代の新大陸を模した世界という点をより重視して、どこか殺伐とした荒野の雰囲気濃いサスペンスタッチのものになっているのだ。
登場人物それぞれが抱えた心の傷や闇の部分にもより深く踏み込んでいる。心証としては、キャラ自身が備え持っている優しさや豊かな人間性なんかは前作とそれほど変わっていないようにも見えるのだけれど、より心を覆う殻が頑なになり、人格の破綻も強めに歪み、人と人との友情や愛情による繋がりがしっかりと結びつくための難易度がかなり上がっていて、なかなか打ち解けられなくなっているっぽいんですよね。
その点において、柔らかな交わりによって陽の当たるサイドからキャラクターやそれぞれの関係を掘り下げていった前作とはまた違ったアプローチ、より暗くジメジメとしたダークなサイドからの掘り下げが行われていきそうな感じで、これだと前作と同じキャラクター、たとえばカナメやジェノバなんかも殆ど性格も能力も変わらない造作にも関わらず、違った視点からその姿を追うことになるので、全然異なる印象で見る楽しみが出てくるのである。発端や立ち位置が違うから、前作とは異なる関係性を築くことになってたりもしますしね。カナメとジェノバ何かそのわかりやすい代表格になるのでは、と……ん? しかし、これをマルクの時の時系列に合わせて考えると、まだマルク本編から見て過去編というになるわけで、カナメがシュウと友人になったり、ジェノバの片目切ったり、というエピソードは確かマルクにも過去の話として話題に登ってたわけで……。あれ? 一概に完全に違う世界とも言えないのか。
それでも、四強のメンバーが入れ替わってたり(マルクがいなくなってる。もしかしたら、まだマルクが黒衣として名望を高める前の話なのかもしれないが)、アルス・マグナ(?)の所有者が変わってたりと、細かい部分での変更もあるので、違うといえば違うし。その点も追っていくと面白いんですよね。しかし、マルクの時についに出て来なかった四強の一角【夜刀神】。もしかして、マルクでも同じ人がそうだったんだろうか。
しかし、見事にこれ、ビジュアルがアニメ【黒の契約者】のそれになっちゃいましたね(笑 あとがきで作者自身が突っ込んでますが、そもそも契約者という作中の設定も何だかんだとアレに似てましたけど、ついにビジュル面までも。もっとも、性格の方は完全に此方の廻の方がヤバいです。臆病な小心者がむしろ戦場ではよく生き残る、とはよく言われますけれど、廻の場合は用法が全然違うよなあ。ビビるあまりに理性が飛んで狂化してしまうというのは、激昂して暴走するのとベクトルとして何も変わらないような……。ただ、彼の場合狂化しても技はむしろ冴え渡り、粗さもなく研ぎ澄まされる感じなので暴走とは違うのは、確かに恐ろしい。自分の能力を見事に技に昇華して自在に操りまくってるもんなあ。当人の身体能力や来歴もあってか、【東方不敗】とガチでやってもこれは間違いなく引けは取らない。あのカナメさんと正面切って互角って、どんだけなんだ。マルクだってまず無理だぞ。なるほど、これは【四強】の一角に相応しい。
当人はウルトラヘタレの臆病者ですが。それでも、その臆病の発端は自分の能力の破滅的な強さゆえのものですし、どうやら過去の事件も絡んでいる様子。
多くのトラウマを抱えながらも、勇気を出してシュウを助けようと奮起するあたりは、実に可愛げのある主人公としての振る舞いなんですけどねえ……やり方がエグすぎるw 手段を選ばないとかいうレベルでないし。完全に精神攻撃。それも摩滅型。圧壊型。ザクザクと切り刻むよりも、ゴリゴリと磨り潰していく破滅型。こえええw
それを悪意なく、どころか無邪気にやってのけるんだから、危ない人です。悪党です。邪悪ですw 世界の敵だw
確かに、あらゆる意味で「最恐」の名にふさわしい。いいのか、主人公こんなので。

とは言え、シュウからすれば何しでかすか分からないにしても、一心不乱に懐いてくるワンコみたいなものだから、何だかんだと悪い気はしないでしょうし、もうどうしようもないという場面で唯一手を差し伸べ、危険も顧みず全身全霊でたすけてくれた相手なのですから、幼い頃から何だかんだと気にしていた相手ともあってか、そりゃあ心も動かされるわなあ。その結果がアレ、というのはまたシュウにとってもカイにとってもご愁傷様というべきかご馳走様というべきか。まあ、両思いっぽいのだから、何とか経験値を増やして上手いこと行くようになっていけばなあ……と、思うのだけれど、何気にこの二人、まだ鉄板というわけじゃないので、どうやらもう一人の「四強」の一角【朧】の正体であるイーシャがどう動くのかは気になるところ。またぞろ、愉快な三角関係になっていきそうな気配が濃厚でございますぞ。

それはそれとして、シュウとカイの再会と合流という話の主題とはまた別に、物語の根底を担うだろう伏線が幾つもバラ撒かれて明らかにされてないのは、引っ張りますね。というか、もろにプロローグだった、と捉えるべきか。そも、二人がどうして家を出て新大陸に来なきゃいけなかったのか、の真相からして明らかにされてませんもんね。それぞれの家にトラブルがあり、シュウの家は一族根絶やしにされた、など断片情報はあがっていますが。だいたい、なんでシュウがあんな体になってしまったのか、からして当人も分からない状態じゃあなあ。
それに、この世界観では「精霊」の存在が否定されているとのこと。契約者の在り方、生まれ方も微妙にマルクシリーズとは捉え方が違っているようだし、果たしてどんな解がもたらされるのか。

うん、マルクと似たような世界観と知った時にはどうなることかと思いましたが、抱いた不安以上に面白かったです。これからも、マルクシリーズに登場したキャラクターもちらほら出てくるでしょうし、色々と見比べて楽しむことも叶うはずですし、これから始まりそうなシュウとカイとイーシャの三角関係も、前作のあのニヤニヤ満載だったラブコメを思い出せば、期待も膨らむばかりです。楽しみなシリーズが再びはじまりましたよっと。

手島史詞作品感想