恋物語 (講談社BOX)

【恋物語】  西尾維新/VOFAN 講談社BOX

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これぞ現代の怪異! 怪異! 怪異!

“片思いをずっと続けられたら――それは両想いよりも幸せだと思わない?”
阿良々木暦(あららぎこよみ)を守るため、神様と命の取引をした少女・戦場ヶ原ひたぎ。
約束の“命日”が迫る冬休み
彼女が選んだのは、真っ黒で、最悪の手段だった……。
<物語>はその重圧に軋み、捩れ、悲鳴を上げる――

青春は、きみに恋するためにある。
ほんとに大嘘ばっかりだな!! うん、まあわかってた。わかってたよ。わかってたよね? 一応確認。うんうん、囮物語の感想でも信用するなかれ、とちゃんと注意してあった。良かった、記憶違いじゃなかった。
という訳で、どうせあんなラストシーン、まんまやるはずないじゃない、とは思っていたものの、はてさてどうやって決着を付けるのかしら、とは首をクリクリ傾げていたのでした。ぶっちゃけ、撫子をどうにか出来る人って全然思い浮かばなかったんですよね。主人公とメインヒロインの阿良々木くんとガハラさん、そして忍ではどうしようもないどころか悪化させるしかないことは既に囮物語の方で明らかになっていました。ここで期待をかけるべきはバサ姉か、とも考えたのですが……この人ってあまりにも正しすぎて、逆に間違っちゃってる子を正すのって難しい立場に居るんですよね。微妙に言葉が届かない。撫子の方が聞きたがらないというのもあるだろうし。今になって思うと、バサ姉の前から脱兎のごとく彼女が逃げ出していたのは、本能的に彼女の正当性を忌避していたとも受け取れる。しかも、それらの不都合をバサ姉は恐ろしく正確に承知している節がある。
じゃあ誰なのか。今更忍野のおっさんが出てくるのも違うしなあ、という感触もありましたし、本当に全然思い浮かばなかったのでした。何かこう、思いも寄らない形で決着してしまうのだろうか、とすらも考えていたり。
だから、今回の語り部があの人。貝木泥舟になるなんて、予想の埒の外の外。正直、かなりびっくりしました。
しかも、その介入の原因がよりにもよって戦場ヶ原ひたぎによる千石撫子を騙してとの依頼から。偽物語においては、阿良々木くんを監禁してすら、貝木から遠ざけようとしたほどこの詐欺師を忌避していた彼女から、彼女の方から貝木に接触を図るなんて。
まったく、やってくれます。
しかも、今回はちゃんと戦場ヶ原ひたぎの物語になってるんですよね。ガハラさんについては阿良々木くん視点のこれまでの大半のシリーズに、バサ姉視点の猫物語から既に彼女のキャラクターは分かった気になってたつもりだったのですが、貝木という壁に隔てられしかし過去によって繋がった人物からの視点や、そんな貝木との二人きりの接触から浮かび上がるガハラさん像というのは、今までと違う側面も見えてきて、非常に興味をそそられるないようだったと言えます。
特に、貝木との関係はこれまで認識していたものと大きく異なっていたようで。いや、正式、というか公式には今まで通りの認識でいいのだろうけれど、表向きと真実と真相は全部異なっているものだし、見ている方向から浮かび上がってくるものも全然違ったりするもの。そういう意味では全部大嘘である、という最初の貝木の念押しは読了後にこそよく心に据え置いていた方がいいかもしれない。何事も、嘘にしておいた方がいいこともあるということで。平穏平和は決して真実によって構成されるものでもなく、嘘によって保たれることもある。
ならば、それでいいじゃない。
……こうなってくると、偽物語でガハラさんが阿良々木くんを監禁して貝木に接触させまいとした件も、別の側面が見えてくるんですよね。なんかこう、乙女心だよなあ。全部嘘だけど。
でも、そうかー、うん。ガハラさんと阿良々木くんとの間って、嘘や秘密や隠し事がたくさんあるわけだけれど、むしろその方がいいのかもしれないなあ。二人の関係って結構ゴタゴタしていて、結構気を使ったり、神経細やかにならなきゃいけないところが多かったりして、その点阿良々木くんが忍やなんかと築いている心身一体なベタベタすぎるくらいの関係に比べると、かなり難しい部分があるんですよね。お互いに努力し続けていかないと続けていけない面が大きい。多分、バサ姉やシスターズ、真宵や或いは神原ですらもしちゃんと付き合う段になれば楽な関係を築けたように思う。すごく続けていくのが簡単な、気負わずに済むような、そんな自然な関係。それに対してのガハラさんの難度というのは、段違いだ。
でも、だからこそこの二人の恋人関係というのは余人に代えがたいものがある。なぜ阿良々木くんが彼女を選んだのか、彼女でなければならなかったのか。ガハラさんがどうして阿良々木くんじゃ無きゃダメだったのか。その一番重要なポイントがそこにあるんじゃないだろうか。
ふぅん、なるほどなあ。今回の話を通して、なぜ二人がベストカップルであるかの所以が腑に落ちた感じだ。これまでは疑問を感じる余地もなく、前提として当然のごとく二人の関係は鉄板だ、という風に捉えていたのだけれど、二人の関係に対する信頼、信仰にしっかりとした足場、土台が出来たような印象だ。ドッシリと、ね。

あれ? そんな話じゃなかったような気もするな。貝木が撫子を、つまり大人が子供をちゃんと叱って導いてあげる、という単純化するとつまりはそんな話だったわけだが、視点変われば見えてくる人物像もまた変わってくるということで、それだけは抑えておいて間違いはないかと。阿良々木くんは柔軟な方なんだが、それでもまだまだ若い一個人となれば限界がある。本当のラスボスがついにその尻尾を覗かせてきたからには、最後は主人公が決めてくれると信じているが。でも、このシリーズはどう転ぶかわからないからなあ。
それでも、意外と最後は正当に締めてくれると思う。最後の最後は王道だって奇策になるものね。

西尾維新感想