吟遊詩人に贈る歌 (集英社スーパーダッシュ文庫)

【吟遊詩人に贈る歌】  佐々之青々/COMTA スーパーダッシュ文庫

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歌は願いを叶え、想いを告げる。若き吟遊詩人と魔法人形が奏でるピュアファンタジー、開演!
「世界で一番の吟遊詩人になって、必ず戻ってくる」
十二歳のレントは、幼なじみのトルチにそう約束して街を出た。五年後、トルチに告げる言葉を胸に帰ってきたレントはしかし、再会する前に幽霊騒ぎに巻き込まれ、女警吏のテアに騒乱罪で捕らえられてしまう。テアに幽霊退治を押しつけられたレントは取調室でやっとトルチと再会するも、告げる言葉を言えずにいるうちに今度はトルチを想う青年デリックから決闘を申し込まれ――悲劇の吟遊詩人と悲恋の騎士を生んだ街ルネスでおこる、“約束”の物語。
おおっ、これは面白かった。抜群にストーリーの構成が上手かったんですよ、これ。しかも、その巧さが見事に物語の面白さに直結している。
幼馴染みとの約束を守れないことを告げに街に戻った少年が、その事を幼馴染みに告げられないでいるうちに、彼女を巡る決闘の当事者にまつり上げられる。幼馴染みを守るための力を手に入れるために、街に伝わる騎士の悲恋の物語を追う内に、少年は歴史の闇に葬り去られた、悲劇の真相を紐解いていくことになるのである。その歴史の真実は、ちょうど自分と幼馴染みの約束を通じた今の境遇に相通じるものがあり、少年は街の伝説に秘められた謎を解き明かすことで闇に囚われた過去の亡霊を解き放ち、現在の自分たちが伝説と同じ道を辿らないよう新たな道を切り開こうとするのであった。とまあ、全体のあらすじを捻り出すとこんな感じか。この過去と現在が巧妙に絡まりあい、伝説の悲劇の秘密を解き明かしていくことで同時に彼らが今直面している障害や、レントが受け入れてしまっていた諦めを打破するきっかけに繋がっていく。ちょうど、歴史ミステリーの要素も盛り込まれていて、物語にグイグイ引きこまれました。また、キャラの配置が上手いことミスリードを誘うものになってるんですよね。お陰で、伝説の真相をかなり終盤になるまで誤解していた。過去と現在が鏡合わせみたいになっていると思い込んでいたから、ついつい全部一緒なんだと思ってたんだよなあ。本来ならテアが負けてたシーンで気づくべきだったんだが、レントと同じ勘違いをしてしまったんですよね。さすがに完全な八百長だとは思わなかったけれど、あの人も周りの関係者絡みで優れた腕前の持ち主だったんだな、としか考えなかった。今になって振り返ってみると、メイドさんがそんなわけないんですよね。武装メイドじゃあるまいに。
他にも、ちゃんと謎解きできる情報は揃っていたはずなので、決して複雑に入り組んだ謎ではなかっただけに、かなり不覚を取った感覚を味わうはめになってしまった。この、しまったっ! 感がまたいいんですけどね。
キャラクターは、主人公のレントはなかなか前に進めず立ち止まってぐるぐる考えちゃうタイプのヘタレなのですが、相性だよなあ、幼馴染みのトルチはまさにそんな主人公にうってつけのヒロインでした。全然、待ってるだけのお姫様なヒロインじゃありませんでした。バイタリティといい自立性といい、深窓の令嬢とは程遠い生気や活力がピチピチ弾けているような女性。登場した当初はまだ五年ぶりという空白期間もあって、レントが成長したトルチのキャラクターをつかめていなかった上に、微妙に経年による美化も混じっていたようで、いまいちレントの眼を通してだと現実の言動と齟齬があって実像が掴めなかった上に、ストーリーの関係上あんまり目立たない立ち位置に居たので、後半に入るまであんまり印象強くなかったんですよね。むしろ、トリックスター的に動きまわってレントを引っ張りまわしたり手助けしてりしてくれるテアの方がよっぽど目立っていたくらい。
まあ、最後に全部トルチが持ってっちゃいましたけどね。いやあ、姐さん、あんた男前すぎるでしょう、それ(笑
レントがどうして別れ際の約束をちゃんと覚えていなかったのか、記憶力を疑うね。自分の決意表明をあんな約束で返されたら普通忘れたくても忘れられんだろうw もっとこう、純愛的なものを連想していただけに、あんまりにもかっこ良すぎる子供時代のトルチの約束に思わず爆笑した次第でした。こいつ、一生トルチには頭上がらんよ。
ファンタジーとは言え決して派手な内容でもなく、事件自体も街の伝説に纏わるものでありながら、実際は極々個人的な件に終始しているような小さなお話でしたが、思いの外読み応えのある良作で、楽しませて頂きました。これは次回作も注目ですよ。