VS!!―正義の味方を倒すには (電撃文庫)

【VS!! 正義の味方を倒すには】  和泉弐式/白羽奈尾  電撃文庫

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雑魚キャラの下っ端戦闘員が特撮ヒーローに勝てるのか?

 俺は21号。悪の組織の下っ端戦闘員だ。キーって叫びながら、変身ヒーローにアッサリ倒されちゃう、全身黒タイツのアレだよ、アレ。キー!
 毎度毎度、新たな怪人とともに懲りもせずにヒーローに挑み、敗北ばかりの日々。よくみんな飽きねぇな。さあ今日も、正義の味方にコテンパンにやられてくるか……。
 怪人ですら敵わない無敵のヒーローに挑む、雑魚戦闘員の熱血ストーリー!
戦隊モノ、悪の組織モノは何だかんだとゆるゆるの内容のパターンが多く、ヒーロー側と悪の組織側に馴れ合いがあったりして勝っても負けてもちょっと痛い目みました、程度の被害で収まってしまうものが多い。それらは往々にしてほのぼのコメディというジャンルで良作だったりするので、決して悪い事ではないんですけどね。とかく、そういうパターンの作品がよく見受けられるだけに、この作品もその類なのかな、と思って読んでみたのですが、思いの外ガチな展開に驚かされる。さすがに一般人に多く死者が出たり、描写がグロかったりという殺伐とした内容ではないし、イタズラ好きの小悪魔みたいな21号や、天衣無縫のジャバウォックのような明るいキャラクターが主軸にいる上に、悪の組織の連中も概ね温厚な性格の持ち主で粗暴だったり邪悪だったりという人間性とは縁がないので、作品の雰囲気自体はライトで軽妙。重たい気分にならずにサクサクと読み進める事ができる。
しかしだ、21号ことニーイチたち戦闘員たちは、ヒーローとの戦いであっさりと死んでいく。消耗品のホムンクルスとして培養される彼らは、死ねば死体も残らず泡と消え、代わりの同じ番号のしかし記憶も身体も別人の個体が工場製品のように生成され、補充されていくだけの存在だ。
それこそヒーローたちと戦闘員の力は隔絶していて、ほとんどの戦闘員は数回戦闘を重ねれば死んでしまい、二桁以上戦闘を重ねて生き残っている個体など皆無に近い。

そんな卑小で哀れで儚くすらある存在にも関わらず、彼らには人と変わらない意識があり、心がある。人形でも機械でもない、生き物と同じ心があるのだ。
最初はその事実に、残酷な話だよなあ、と思いながら読んでいた。彼らは自分たちが消耗品である事実を受け入れてしまっているし、仲間が次々と入れ替わっていく事にも慣れ切っている。人の社会の中に潜入して生活しているにも関わらず、人間たちが普通に持っている楽しみを何も知らないでいる。食事を楽しむ、ということすら知らないのだ。料理が美味しいものだという事すら、彼らは知らないのだ。戦闘員としての生き様を斜に構えて眺めているニーイチですら。
そんな生き様、機械で十分じゃないか。何も考えない人形で代行できるじゃないか。なぜ、彼ら戦闘員を作った悪の組織の博士は、彼らをこのように作ったのだろう、という疑問まで沸き上がってきたほどである。

後になってみると、博士は敢えて、戦闘員たちを心ある存在として作ったのだろう。彼の人がなぜジャバウォックという特異な怪人を生み出し、わざわざニーイチたちと一緒に居させたのかを考えれば、そしてラストで彼の人がいかなる人物かが明らかになったのを目にすると、博士は意図して心を持った人造人間や怪人たちを作ったのだろうと確信できる。
この人は、「人間」を作りたかったんだろうか?
とても悪を為す組織の暴力を担うとは思えない、真っ当なくらいに人間らしい心を持った人造人間や怪人を作ったこの人が、なんで悪の組織に居るのかが、まったく分からないんですよね。なんでなんだろう。
そもそも、この悪の組織がどんな悪をなしているのかも殆ど明らかになっていないのだけれど。アカシックレコードの欠片を強引に集めているのは説明されたけれど、その利用法は単なる脅しのネタ集めみたいな感じでいまいちウソっぽいというか、カバーストーリーっぽいんだよなあ。
かと言って、正義の味方の戦隊たちが裏の悪役か、というとヒーローたちの方もちゃんと描写があって、単なるヒーローという記号で表されてしまっている存在ではなく、それぞれ信念を持って戦っている個々人であることがきちんと描かれている。敢えて言うなら、母体の英雄機関なる組織がまだどんな存在なのかよく分からないというのが気になるところだけれど、別段怪しい動きをしているわけじゃないしなあ。

史上最強の触れ込みで誕生した怪人・ジャバウォック。ところがそんな看板そっちのけで彼女は戦う気など一切無く、自由気ままな立ち振る舞いでニーイチたちを振り回していく。でも、自由であるからこそ誰よりも人間らしかった彼女とのふれあいで、どこか諦観をもって戦闘員としての人生を眇め見ていたニーイチや何の疑問も持たずに戦っていたジジの中に、何かしら芽生えたものがあったのだろう。それは、役立たずだった戦闘員の生産の廃止、そしてニーイチたちを守るために戦い散ったジャバウォックの最期をきっかけにして爆発するのだ。
意地である。
身内である組織からは役立たずと切って捨てられ、敵であるヒーローたちには眼中にすら入れられない、無力で無意味な戦闘員という自分たちの、生まれた意味を、存在の価値を知らしめるための、意地である。
名前すらない番号だけで表される名も無き戦闘員たちの、存在意義を賭けた意地を示す戦いが幕を開ける。

激熱である!!!

雑魚という悲哀を吹き飛ばし忘れさせてくれるような、痛快なお話でした。うん、この熱さは素晴らしかった!
続編があるなら、是非に読みたいです。