楠木統十郎の災難な日々 2 史上最悪のバカンス (電撃文庫 み)

【楠木統十郎の災難な日々 2.史上最悪のバカンス】  南井大介/イチゼン 電撃文庫

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「こまけぇことはいいんですよ」 痛快スラップスティック・コメディ、第2弾!!

 ひょんなことから『世界を管理する』“機関”のエージェントになってしまった楠木統十郎。世界を滅ぼそうとする魔王と戦ったり、銀行強盗の手伝いをさせられたりと、日夜“並行世界”で起こるトラブル解決に駆り出されてオツカレ気味の統十郎を労って、優しい上司(猫耳ロリ娘)が慰安旅行をプレゼント!?
 青い海、白い砂浜。夜は浴衣姿の相馬姉妹(?)と祭りを楽しんで、心身ともにリラックス――なんてウマい話があるわけもなく、突如街中に現れたモンスターを相手に生き残りをかけたサバイバルが幕を開ける!
これは酷い、悪趣味にも程がある。このサブタイトル、本当は「史上最悪のバカンス」じゃなくて「くそったれのバカンス」にしたかったんじゃないのか? と思ってしまいほど、これは酷い。
なまじこれ、やり直しが聞くからこそより悪趣味で陰険極まる展開になっていると言える。この下劣極まる悪趣味さが作品自体への嫌悪に繋がらないのは、読者に成り代わって、主人公である統十郎が一身にこのひでえ内容を引き受けてくれているからなのでしょう。この悪意に満ちた嘲弄を彼は頭から浴びせられながらも、臆すること無く、心折れる事無く、まっすぐに憤怒をあらわにし、拳を振り上げ、罵声をあげながら、馬鹿野郎となじってくれるのです。ふざけるな、と怒ってくれるのです。舐めんじゃねえ好き勝手されてたまるか、と抗ってくれるのです。読者が感じるであろうあらゆる負の感情を、彼は代わりにさらけ出して、弾けさせ、気持ちいいくらいに内に秘めずに表に吐き出してくれるのです。
そりゃあ、よしやったらんかいや! と激情も同調しようというものです。
楠木統十郎という人物、主人公とするには本来あまりにも危うく尖っていて、タフで性格も悪く酷薄でダーティーで激情家です。まず読み手は、なんじゃこいつは、とドン引きしてしまうようなタイプの頭のよい荒くれ者。主人公としては異端もいいところでしょう。しかし、この悪趣味の塊のような話の展開の中では、彼の異端性はまさに読み手の感情の代行者として機能しているのです。さらに、機会主義者で現実主義者、さらには身内に対しては絶対的に味方で在り続けるというそのスタンスは、この状況下ではすこぶる頼もしく頼り甲斐のあるタフガイとして楠木統十郎を浮き立たせます。間違いなく、この場においては彼はヒーローでした。その人となりは一巻から殆ど変わっていないにも関わらず、一巻ではこの主人公にドン引きした人でも、今回は大いに彼に共感と燃えを得た人も多かったんじゃないでしょうか。
相馬姉妹も、今回は反発することもかく、統十郎の言うことをきっちり聞いて動いていましたしね。こういう危機的非常時においては、彼の判断は現実的にも信義の問題としても絶対的に信用できる、という信頼が兄妹にはあったんでしょうな。

一方で、全くの一般市民としてこの悪趣味の悪夢に巻き込まれ、さながらパニックムービーの主人公のように輝いていたのが、涼と静江サイドでした。此方はエージェントたちの事情など露知らず、怪物たちがうごめく地獄と化した街の中で家族や友人たちが次々に惨たらしく殺されていく中で、必死に生き残るために抗い続ける、という窮地においてさらけ出される悲壮感絶望感に彩られた愛と友情の劇場が迫真の勢いで描かれており、統十郎たち関係なく、純粋にモンスター・ホラーものとしてこれ単体で描いても、十分傑作になったんじゃないだろうか、と思ってしまうほどの代物でした。面白かったなあ、こっちサイドも。

唯一にして最大の不満点は、悪意の発生点にして、おそらく黒幕的立場にいるだろう猫耳ロリをギャフンと言わせるようなカタルシスがないことなんですね。一発でもぶん殴らないとスカっとせんよー。こればっかりは、統十郎が不憫でなりません。いっぺんこの男には、復讐を果たして欲しい。このまま、良いように弄ばれるだけなら男がすたるぜ、統十郎さんよ。
別の任務で馴染みとなって、自分でフラグへし折って気づかずに居るエルフのファトマと、また新たな任務に送り出されてしまった統十郎。その任務の難度条件がインフェルノなんですが、猫耳ロリのやつ、何気に殺す気満々じゃね?

1巻感想